ソフトバンクが「新規参入」から「買収」に考えを変えるまで

» 2006年03月17日 22時50分 公開
[新崎幸夫,ITmedia]

 ソフトバンクのボーダフォン買収は、2005年の孫正義社長の言動を見ていた業界関係者にすれば少し違和感も残る。ソフトバンクは苦労して新規事業者免許を取得し、1.7GHz帯を割り当てられた。これにより、移動体事業は一歩一歩進めると話していたが(3月10日の記事参照)、ここにきて既存事業者を買収するという大技に出た。それなら、最初から買収すればよかったのではないかというわけだ。

 孫氏の心境にどんな変化があったのか、会見で探った。

Photo ソフトバンクの孫氏

モロー社長に空港でかけた電話

 記者会見の会場でウィリアム・モロー社長は、同氏がボーダフォンの社長として経営を行うべく成田空港に降り立った瞬間に一本の電話がかかってきたと話す。

 「電話をかけてきたのは孫正義社長。そのときにボーダフォンが“セール”に出ていたわけではないが、互いに前向きな関係を構築できないかという話だった」。孫氏の積極的な姿勢が目に付くエピソードといえる。

 ただし、この段階でまだソフトバンクは買収の意志を見せていない。孫氏は、「2005年の早い時期には、自前のネットワークでやりたいと考えていた」と明言する。その後、ボーダフォンとソフトバンクはMVNOで提携できないか交渉を重ねることになる。これが2005年の暮れのことだ。

 MVNO交渉の中でさまざまな議論を重ねるにつれて、やがて「いっそのこと買収した方が早いかな」(孫氏)という決断がソフトバンク内でなされる。当初は、新しくて性能面で優れるネットワークを構築したほうがトータルのコストは安くあがるという議論もあったが、さまざまに検討を重ねた結果“時間をお金で買うのも戦略の1つ”という案が浮上した。

 「買収すれば1500万人の顧客基盤があり、ネットワーク面でも(新規に構築する場合と異なり)利用エリアの人口カバー率が99%になる。人材面でも、ベテランが揃っているチームのほうがベターだ」。ユーザーに提供する端末にしても、新規事業者は当初ユーザー数が少なく、ここに端末供給するメーカーは必然的に少なくなる……というデメリットも考えられる。結果的には経営会議で、全会一致で買収を決めたという。

 ソフトバンクからの正式なオファーを受けて、両社が買収交渉を始めたのは2006年に入ってからのこと。ボーダフォンのバリューをどう算定するか、激しい交渉を経て合意に至った。

「方針転換か」という質問への、孫氏の反論

 ソフトバンクは、自前で事業を進めるという前言を“撤回”して買収に踏み切ったのか。この質問に孫氏は「以前から、あらゆる可能性を検討するということは繰り返し言っていた」と話す。

 「移動体はいつか、何らかのかたちで、必ずやるとだけ言っていた。この後も、何でもあり得る」

 また、投資を抑えると話していたにも関わらず(2005年11月11日の記事参照)、今またリスクをとって1兆7500億円もの投資を行ったようだが――との問いには、「買収のほうがむしろリスクが低い」と反論する。

 「1兆7500億円といっても、ソフトバンクが負担する手元の資金としては2000億円だけで、1兆1000億〜2000億円は(レバレッジドバイアウトの方式で資金調達しているため)ボーダフォンとしての営業キャッシュフローから自力で返済していく(3月17日の記事参照)。ボーダフォンのEBITDA(利払い、税金、償却を計上する前の営業利益)は3000億円あり、返済できる。ソフトバンクとしては返済しなくてはならない金額が2000億円で済んだわけで、自前でネットワークを構築していたら2000億円では済まない」

 なお、今回の買収でソフトバンクは結局同一グループだった日本テレコムとボーダフォンを、別々に買収したことになる。「まとめて買収すればよかったのでは」という質問に、孫氏は笑って「当時はそんなにお金の余裕がなかった」とコメント。ADSL事業が黒字化し、経営面で一息ついたタイミングでの買収であるという背景を説明した。

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