売上ベースで世界最大規模を誇る通信オペレーター、英Vodafone(以下、Vodafone)。しかしその成長には、少し陰りが見え始めている。苦境に陥っていたボーダフォンK.K.をこの3月にソフトバンクに売却するなど(3月17日の記事参照)、転換期を迎えつつあるVodafoneに、今、何が起きているのか。欧州テレコム市場のトレンドと、その相関関係を交えつつ、全3回に分けて分析する。
第1回:英Vodafoneのグローバル戦略とローカル戦略
第2回:Vodafone Live!──成熟市場の行き詰まり(近日掲載予定)
第3回:FMCは新たな脅威か、それともチャンスか?(近日掲載予定)
Vodafoneは、今年5月末に発表した会計年度2005年度の業績報告で、172億3300万ポンド(約3兆4466億円)もの損失を出した。これは、単体の企業が計上する赤字としては英国ビジネス史上最大の額だという。この巨額の赤字は、同社が2000年に買収したドイツのコングロマリット、Mannesmannの評価切り下げが影響したためで、同年の売上高は293億5000万ポンド(約5兆8700億円)と前年比7.5%増で成長している。
このMannesmannの評価切り下げは同社の事業とは関係ないものだが、同社の株価は2005年後半から下降線をたどっている。2005年半ばには150ペンス付近を推移していたが、2006年に入り120ペンスラインに下がった。特に、ここ数カ月は110ペンス近くで低迷している。
5月末の決算報告でVodafoneは、新しい事業戦略を発表。Vodafone自身が新たな戦略に転換する必要があると感じていることを裏付けた。
Vodafoneが同日に発表した新しい事業戦略は、(1)西欧州(成熟市場)におけるコスト削減と収益増 (2)新興市場の開拓 (3)モバイルのみの事業モデルの見直し (4)リターンを考えたポートフォリオなど。株主対策といえる(4)を除く3つの戦略を簡単に説明すると、(1)は、これまで通りの成長を期待できない市場において、付加価値サービスなどを通して音声以外の収益源を確保することといえる。データサービスのほか、データ通信カードやBlackBerryなどのビジネスユーザー向け製品の提供などがこれにあたる。(2)は東欧、アフリカ、アジアなど、まだ電話(携帯電話と固定電話)の普及率が高くないGSM圏への進出。ここでは、地元キャリアの買収戦略をとる。
(1)と(2)が携帯電話オペレーター事業に関する戦略であるのに対し、(3)は、携帯電話オペレーター事業からの拡大戦略となる。これまでモバイルのみで事業を展開してきた同社にとってこれは、大きな戦略転換といえる。具体的なことは本企画の第3回で触れるが、FMC(固定と携帯電話の融合)サービスへの進出が、当面の計画として挙がっている。
同社はこれにさきがけて、今年の春に事業再編を行い、現在は(1)欧州 (2)東欧、中東、アフリカ、アジア太平洋 (3)新たな収益創出のためのMobile Plusの3事業体制をとっている。
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