2006年の上半期が終了し、韓国では各キャリアの第2四半期の決算が発表された。いずれのキャリアも売り上げは伸ばしているものの営業利益は悪化しており、手放しでは喜べない状態だ。
韓国の携帯電話市場で圧倒的なトップシェアを誇るSK Telecom(SKT)の売り上げは2兆6383億ウォン(約3173億9982万円)、短期純利益は3733億ウォン(約448億9647万円)で、前期(第1四半期)よりも売り上げが3.9%、短期純利益が10.7%伸びた。反面、営業利益は6193億ウォン(約744億8267万円)で7.3%の減少となった。
第2位のキャリア、韓KT Freetel(KTF)の売り上げは1兆3142億ウォン(約1580億5770万円)で、前期比3.5%増加している。一方営業利益は1527億ウォン(約183億6509万円)で、10.6%減少する結果となった。そして韓LG Telecom(LGT)の売り上げは7430億ウォン(約882億7144万円)、営業利益は948億ウォン(約114億72万円)だった。売り上げは前期比で4.7%増加したものの、営業利益は10.8%減少している。
いずれのキャリアも売り上げは3%前後増加しているが、営業利益は7〜10%も減少している。各社の四半期決算が増収減益となった背景には、マーケティング費用の増加がある、というのが韓国での共通した見方だ。前期と比べた各社のマーケティング費用は、SKTが5.4%増の5995億ウォン(約721億1385万円)、KTFが16.2%増の3217億ウォン(約386億9729万円)、LGTも2.9%増の1813億ウォン(約218億857万円)を記録している。
マーケティング費用の増加は、2006年に入ってからが顕著だ。この急激なマーケティング費用の増加から、2006年前半の携帯電話市場の動きが見て取れる。
2006年前半の市場が2005年のそれと明らかに違う点は、補助金(インセンティブ)が条件付きで許可されたことだ(4月25日の記事参照)。開始当初からキャリア同士の激戦が予想されていたが、案の定、時が経つほど補助金の出し合い合戦は過熱している。不法補助金をなくすためみ法的に許可されたにも関わらず、さらに上乗せした不法補助金が出るという本末転倒な状況まで生じた。またこれに対して、韓国政府情報通信部の傘下にある通信委員会から莫大な課徴金が課されるなど、キャリアの負担は増えるばかりだ。
現在、3キャリアの中でも高額な補助金を出しているのがKTFとLGTだ。KTFでは、同社に加入してから7年以上が経過していて、最近6カ月の利用料が合計54万ウォン(約6万4960円)以上、月平均での利用料が9万ウォン(約1万826円)以上だったユーザーには、端末購入の際に35万ウォン(約4万2104円)の補助金を出している。またLGTでも同様に、8年以上同社に加入していて、最近6カ月の利用料が合計54万ウォン、月平均の利用料が9万ウォン以上だった場合には35万ウォンの補助金を支給している。金額は同じだが、KTFの方が若干ハードルが低い。ちなみにSKTでは、LGTと同様の条件の場合24万ウォン(約2万8871円)の補助金を出しているが、これが最高額となっている。
下位のキャリアの方が補助金を多く出しているのは、切実な現実を反映したものといえる。加入者数が飽和状態に達している現状で、さらに加入者を増やすためには、他キャリアの加入者を誘致するしかないからだ。
韓国で2006年前半最大のイベントといえば、サッカーのFIFAワールドカップも忘れてはならない。日本と韓国で開催された前大会でベスト4入りを果たした韓国では「今年も」との期待感が大きく、応援ムードも最高潮に達した。
ソウル市庁前にある芝生広場は、韓国での野外応援のメッカとして定着している。SKTとKTFは、この野外応援のスポンサーに選出されたため、応援歌に有名歌手を起用したり、韓国公式応援団と手を組むなど、4年に1度の大イベントのために大きな投資を行った。これも、収益の悪化につながったと見られる。
韓国の第3世代携帯電話は、政府が主導してCDMA2000を推進しようとしたものの、将来性などの観点からSKTやKTFが実際に選択したのはW-CDMAだった。両社がCDMA2000事業の権利を拒否すると、政府は後発の事業者だったLGTにCDMA2000事業の許可を与えた。
韓国では、1996年にSKTが世界初となる800MHz帯でのCDMA方式の携帯電話サービスを開始し、その後も順調に市場が成長していったことが「CDMA成功神話」として受け継がれている。そのため次世代もCDMA2000で、という意気込みが強かったのかもしれない。
しかし蓋を開けてみると、LGTはCDMA2000(1x EV-DV)事業を放棄せざるを得なかった(8月1日の記事参照)。これは世界の技術動向に反してCDMA2000に固執し、そのための対策などを用意してこなかった政府の政策ミスとの論議もある。
CDMA2000事業の中止で、LGTは周波数割り当て対価の未納分として1035億ウォン(約124億5170万円)を払うこととなった。これも同社の決算に重くのしかかっている。LGTは2007年初め頃をめどにCDMA2000 1x EV-DO Rev.Aのサービスを開始することを新たな目標に据え、そのための本格的な投資に入ろうとしていることから、今後も収益は圧迫されそうだ。
一方SKTやKTFは、時勢が世界的にW-CDMAとなっている今、現在提供しているCDMA2000 1x EV-DOのサービスに加えて、W-CDMAに対する投資も継続していく予定だ。特にHSDPAサービスエリアの拡大を早急に進める。
全国25都市でHSDPA対応のネットワークサービスを開始したSKTは、できるだけ早いうちに、サービス提供エリアを84都市に増やすと宣言している。同社はHSDPA事業のために2006年だけで5700億ウォン(約685億7460万円)を投資する予定だ。全国50都市で同サービスを始めたKTFも、2006年末までにこれを84都市に広げると表明した。KTFでは投資額を7800億ウォン(約938億3891万円)と見積もっている。KTFによると、84都市でHSDPAを提供できるようになれば、人口カバー率は91%に達するという。これが実現すれば、HSDPAを利用できるユーザーは大幅に増えそうだが、キャリアの投資負担も重い。
このほか、SKT陣営とKT陣営がサービスを提供している、モバイルブロードバンド通信のWiBro事業も大きな支出になるはずだ。WiBroもHSDPAと同様サービスを開始したばかりで、ユーザーを確保するためにはマーケティングや設備投資が欠かせない。
制度の改正や国民的イベント、新たなインフラを用いたサービスなど、様々な要因が重なった2006年前半。その分、売り上げは全体的に底上げされたが、マーケティングにそれ以上の費用がかかってしまったようだ。しかしHSDPAを中心とした3GサービスやWiBroなどは、むしろこれからが本番といえ、今後より大きな投資が必要になるものと思われる。2006年後半の各社の営業利益も引き続き圧迫されそだ。
プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。
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