KDDIは8月22日、CDMA 1X WIN(CDMA2000 1x EV-DO Rev.0)の通信速度をさらに高速化した通信方式「CDMA2000 1x EV-DO Rev.A」を採用したネットワークを12月から提供すると発表した(8月22日の記事参照)。今後3年間に約2000億円の設備投資を行い、ネットワークを構築していくという。
EV-DO Rev.Aのメリットは、EV-DO Rev.0(WIN)と比べて上り(アップロード)の最大データ転送速度が大幅に向上する点にある。EV-DO Rev.0では、データの下り(ダウンロード)は最大2.4Mbpsと高速だが、上りは最大144kbpsで、データサイズの大きなファイルを送信する場合などには時間がかかる。しかしEV-DO Rev.Aになると、上りの最大転送速度が1.8Mbpsと12倍以上速くなり、下りの転送速度も最大3.1Mbpsに向上する。
EV-DO Rev.Aの導入は「アップロード系インフラと、リアルタイムの双方向IP通信を強化するため」だとKDDI 技術統轄本部 技術開発本部長の渡辺文夫氏は話す。これにより、ダウンロード中心のベストエフォート型サービスだけでなく、ユーザーがブログやSNSに動画などの容量の大きなデータを快適にアップロードするような使い方が提供できるほか、テレビ電話やVoIP(Voice over Internet Protocol)に代表されるリアルタイムでの双方向通信サービスが可能になるという。
EV-DO Rev.Aのネットワークは、2006年12月のサービス開始当初は東名阪エリアのみをカバーするが、2007年3月までに全国主要都市の70%程度で使えるようにする。そして3年ほどかけて全国津々浦々をカバーする計画だ。EV-DO Rev.Aのネットワークは、既存のEV-DO Rev.0の上位互換のネットワークとして徐々にエリアを拡大するので、EV-DO Rev.Aエリアでない地域でも、EV-DO Rev.A対応端末は違和感なく利用できるという。周波数は2GHz帯と再編後に割り当てられる800MHz帯を利用する予定で、既存の800MHz帯にはEV-DO Rev.Aは導入されない。
ドコモが今夏から開始予定の「HSDPA」も、従来より通信速度を向上させるものだ(7月19日の記事参照)。こちらは下りの最大転送速度が384kbpsから3.6Mbpsに、上りの最大転送速度が64kbpsから384kbpsに高速化し、EV-DO Rev.0の通信速度よりも速くなる。ただ、上りのデータ転送速度が1.8MbpsになるEV-DO Rev.Aと比べると、まだ「ダウンロード主体の、EV-DO Rev.0と同等レベルのサービスだ」と渡辺氏は言う。
EV-DO Rev.AとHSDPAを比較すると、この上り方向の転送速度の速さ、ひいては効率の高さが大きな違いになっている。単位エリア(1セクター)の単位周波数帯域(EV-DO Rev.Aなら1.25MHz、HSDPAなら5MHz)でのサービス提供能力を表すセクタースループットを、利用する周波数帯域で割った、同一周波数あたりの転送可能容量(システム効率)を見てみると、EV-DO Rev.Aでは下りが0.8、上りが0.24から0.29であるのに対し、HSDPAは下りが0.6から0.8、上りは0.12から0.15となる。アップロードに関してはEV-DO Rev.Aが圧倒的に効率がいい。
「EV-DO Rev.AとHSDPAは、ユーザーから見ると下りの体感速度はほぼ同等。ただし上りの性能が大きく異なる。リアルタイムかつ双方向のサービスが提供できるため、ユーザーにとっての実際の使用感はEV-DO Rev.Aの方が優れている」(渡辺氏)
また、EV-DO Rev.Aのもう1つの特徴として、QoS(Quality of Service)を制御する機能が追加される点も挙げられる。QoS制御は、WINのシステムには実装されていないが、VoIPなどを利用したコミュニケーションサービスを提供する際に不可欠な技術だ。KDDIはこれを利用して、IPベースのテレビ電話サービスを始める。
QoS制御を行うと、ユーザー数の増減や電波状態に応じて、サービスに割り当てる帯域を動的に変えられるようになる。テレビ電話を例に説明すると、音声と映像に別々にQoSを設定できるため、リソースに余裕があるときは高画質な映像付きのテレビ電話サービスを提供し、回線の状態が悪くなると映像の品質を落としたり、状況に応じて映像をカットしたりして、通話だけは遅延なく確実に行える状態を維持するといったことが可能だ。
従来のベストエフォート型のサービスだと、データの転送が追いつかない場合、メールやWebサイトのデータと同じように、音声のデータもリアルタイムに送受信できない可能性があった。しかしQoS制御ができれば、前述のように音声通話だけはデータ転送時の遅延を抑えて送ることができるわけだ。
KDDIは、すべてのバックボーンネットワークをIP化した暁には、音声サービスもVoIPで提供する計画だ。VoIPでの音声通話品質を向上させるためにも、また将来音声とデータ通信を連動させたサービスを提供するためにもQoSは必須なのだという。
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