慶應義塾大学とKDDI、エフエム東京の3社は、このIP over デジタル放送を実現するにあたって基礎となる汎用的なシステムを構築し、それを実際の利用シーンを想定したいくつかのアプリケーションも開発した。
その例の1つが、デジタルラジオ放送における「ネットサーフィン同機型ディスクジョッキー」というアプリケーション。放送局のパーソナリティ・DJが放映中に閲覧するサイトをリスナーと共有し、同時に閲覧できる仕組みを搭載する。
リスナーは、パーソナリティ・DJや音楽に合わせて放送波経由で自動的に更新されていくWebコンテンツを、パーソナリティ・DJと内容を共有しながら見て楽しむ。そしてリスナーが投稿した内容を、パーソナリティの操作で即座にブラウザへ反映でき、これらも他リスナーと共有できるような、新しい視聴者参加型の番組展開を可能とする。加えて、多数の受信者(デジタルテレビも含めて)が参加し、Web上のコンテンツを作成していくWeb2.0的要素を取り入れた番組や、オンラインゲームの中継、受信者の趣味・嗜好に合わせて表示コンテンツを切り替えていく番組なども想定できるようだ。
最大通信速度は、地上デジタルラジオ放送を使用する場合で1ないし3セグメントに準じる形になる。1セグメント放送時の伝送レートは約330kbps、同じく3セグメントの場合は約990kbpsで「実測最大値としては数百kbpsといったところ」(KDDI安田氏)。これはサービスを開始する放送波経由での着うたフルデータのダウンロードにも当てはまる。
また、これらのようなエンタテインメント向けの活用方法以外に、災害時における情報伝達手段としての活用も大きく期待されている。
2006年11月現在、エンタテインメント向けも含めた具体的なサービス・ビジネスプランやサービス開始時期は「まだ計画中」(KDDI、エフエム東京)という段階のようだが、大規模災害において、地上系の通信インフラが機能しない場合の代替手段として、この「放送/通信」双方の特徴を持つ仕組みは有利に働くと思われる。例えば「“地域別”の避難警告」や「安否情報Webサイトを放送波経由で一斉配信」など、災害でインターネットに直接接続できない機器へも放送波経由で一斉に提供できる強みもアピールする。
なお、この技術を利用したシステムは、2006年11月22日と23日に東京・丸の内の丸ビル/三菱ビル/東京ビルTOKIAガレリアで開催されるSFC OPEN RESEARCH FORUM 2006で一般にも公開される。「ネットサーフィン同期型ディスクジョッキー」などの各種デモを行う予定だ。
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