“17ミリ台”を死守せよ──妥協なきハイエンド携帯、開発の裏側開発チームに聞く「911T」(2/5 ページ)

» 2007年03月23日 10時30分 公開
[坪山博貴,ITmedia]

譲れない機能は譲らない。パーツの厳選、パズルのような部品配置で目標達成

photo 「911Tはロー/ミドルエンドの端末ではない。機能も譲れませんでした」(影長氏)、「ごく細かいパズルを組むように試行錯誤しながら設計しました」(眞田氏)

 ところで、この911Tより薄い携帯が存在しないわけではない。特に705SH705P707SC708SCなど、薄型端末を多く投入するソフトバンクモバイル向けの端末ではなおさらだ。しかし911Tは、やや機能が省かれ、スペックも控えめなロー/ミドルエンドの端末ではない。「ほぼ全部入り」のハイエンド端末である。──ここが圧倒的に違う。

 「商品企画担当から、当初より“17ミリ台キープ”が厳命されました。その多彩な機能をどう詰め込むか──設計には大変な苦労がありました」(モバイル機器設計第二部 眞田喜啓氏)

 「“17ミリ台に”という制限があると、使える空間はさらに限られます。3インチのディスプレイにカメラ、スピーカー類。ダイヤルキー、マイク、バッテリー、スロット/端子類……。スライドの機構部品に基板・チップ類、そしてアンテナなどの部品があります。初期はそれこそ大量の配置パターンを考え、パズルを組むように試行錯誤しながら図面を引きました。例えば、アンテナだけでも5つ(通信/GPS/Bluetooth/FeliCa/ワンセグ)も入っているのですから」(眞田氏)

 ダイヤルキー裏のバックライトは“より薄くできる”EL一体型を採用し、ケースの幅ほぼいっぱいまで、すべてのパーツがぎりぎりに詰め込まれたという。また、アンテナ類は相互で電波干渉を起こす恐れもあるため、ただ詰め込めばいいというわけもないと思われる。ごく限られたスペースで必要な部品をどのように配置するかを試行錯誤する設計陣の苦労が容易に予想できる。


photophoto 多くのアンテナが内蔵されている本体を裏面から見る。バッテリー収容部の裏にはアンテナは収容しにくいだろうし、上部にワンセグ受信用のロッドアンテナが、右側にカメラモジュールがある。ということは、その残りのごくわずかなスペースに残り4つのアンテナを収まっているということになるのだろうか(左)

EL一体型のバックライトを採用したダイヤルキー部。光量にムラもない。キー上の文字が透過するタイプで、暗所での視認性も良好だ(右)
photo [クリア]キーはディスプレイ部の下端ぎりぎりに、やや前傾で配置される。結果として段差を大きく感じさせず、親指も自然に届く位置にある

 しかし、何度も述べるが911Tは“ハイエンド機”。“薄くするために機能を省略しました”“やや使いにくいが、薄いので勘弁して”というのも許されない。

 「薄さは重要。しかし機能的に譲れない部分も多数ありました。例えば有効320万画素のAFカメラ。昨今のワンセグ携帯にはスペースの制約のためか、それ以前の機種よりカメラ性能を落とす製品も多いようですが、ハイエンド志向のユーザーならカメラ機能も重要な要素とする人も多いと思います。実際、ユーザーからカメラ機能に対する要望が大変多く、営業サイドからの欲求もとくに強かった機能です。そのため、画素数もAFも手は抜かない。設計陣にがんばってもらい、320万画素カメラを採用した811TのモジュールをベースにAFを組み込んだ高機能カメラを搭載できました」(影長氏)

 「そのほか、ディスプレイ側に(十字キーを1個とすると)計9個のキーをぎっしり配置していますが、これも普通に配置すると上方のキーが液晶パネルの基板と干渉してしまうのです。キーのいくつかをほかの場所に移せれば設計はもっと楽だったでしょう。例えば“[クリア]キーは側面にする”など……」(眞田氏)

 「しかし[クリア]キーは、使用頻度が非常に高いキーの1つですよね。また、“スライドボディだから操作性が悪い”とも思われたくはありません。閉じた状態での使い勝手を考えても、それは譲れませんでした」(影長氏)

 結果、この[クリア]キーはディスプレイ部に置けたが、下端ぎりぎり、かつやや前傾に配置せざるを得なかった。仕方ない──お互い最初はそう思ったが、試作機に触れてみると“逆に”操作しやすかった。ダイヤルキーとの段差を無意識に緩和でき、親指が[クリア]キーを軸にどのキーへも自然に届くなど、予想外のプラス効果が生まれた。設計担当の眞田氏は「設計側と企画側で激しい議論を交わし、制約が厳しく目標設定値が高かったからこそ、その効果が生まれたと思います」と話す。


photophoto AF付きの有効320万画素カメラを実装。横向きモードにすると、一般的なデジタルカメラのよう。メニューUIも横向き用に変わる

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