第2回 NTTドコモ 辻村清行氏──端末にはさらなる革新的な進化が必要石川温・神尾寿の「モバイル業界の向かう先」(2/2 ページ)

» 2007年06月04日 15時40分 公開
[房野麻子(聞き手:石川温、神尾寿),ITmedia]
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端末にはさらなる革新的な進化が必要

石川 今後、さらに携帯が便利になって、本当に肌身離さず持つものになっていくというのは分かるんです。ただ、昔は端末を持っているともっとワクワクさせられた。ドコモが輝いていた頃は、ドコモの新製品が非常に楽しみで仕方がなかったですし、買ったことで、ものすごくワクワクさせられたんですが、今後、ドコモの携帯を買うことで気持ちが高ぶるということが、また起こるでしょうか

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辻村 そのためには、デザインなり、利便性なり、UIなりを、もっともっと進化させなくちゃいけないでしょうね。例えば、それまでウォークマンを使っていた人が、iPodを持ったことでワクワクしたじゃないですか。くるくる回して曲を楽に選べるとか、シャッフルとか。それにiPodのボディにはネジが見えないでしょ。外側はツルッとしている。あのコンパクト感もいい。我々は、オーディオプレーヤーがウォークマンからiPodになったような革新と同じような革新を起こしていかなくちゃいけないでしょうね。

神尾 ユーザーの目は肥えてきていますし、多くの人が満足する機能がかなり実装されてきたこともあるでしょうが、端末の記事を書いていると、ユーザーの興味がちょっと薄れてきているんじゃないかと感じるんです。これは我々にとっては危機感なんです。(ユーザーの)購入のモチベーションを高めるような革新的なものがないと、業界そのものの活力が失われてしまう。携帯電話業界の“今”を見渡して本当に革新的かと考えると不安を感じてしまいます。

辻村 ええ、今の進化は革新的じゃないと思いますね。今の端末は出っ張っているところがあったり、側面に色々なものが付いていたりするじゃないですか。もっとスッキリできるはずだと思うんです。確かにカメラのレンズを付けるためには出っ張りが必要だけど、もっと進化があってもいいという気がするわけです。ドコモは厚さ11ミリのμシリーズ(「N703iμ」「P703iμ」)を出していて、あれはあれでいいです。でも、もっと画面が大きくて、FeliCaが付いていて、10ミリ以下のものはできますよ。もしかしたらそれに富士通の防水機能が付いて、シャワーを浴びながらでもμが使える、みたいなことになってくる。そういうリープが必要なんですよ。クアンタムリープ(飛躍的な成長)が。

神尾 確かにそうです。石川さんもおっしゃっていましたが、持つ楽しみや買う楽しみが継続的にある程度出てきてほしいですね。「しばらく経って端末が安くなっていから買えばいいや」と思われてしまうだけだと、記事を書いていても悲しいんですよね。期待感や所有する満足感を、ユーザーにもっと持ってもらいたい。端末に対する購入意欲を増進させるような、端末側でのイノベーション(革新)というのもドコモ2.0の中でやっていくものですか?

辻村 UIの変革や、PC並みの性能を備えるという部分は、やっぱり相当本格的にやらなくてはいけない。今度は技術的になりますが、OSレベル、ブラウザやアプリケーションレベルから本格的に変えていかなくちゃいけない。それは今、検討しています。

神尾 フルブラウザはまだまだ革新の余地がありそうですよね。

辻村 もちろんあります。今は表示の縮小・拡大もまだぎこちないでしょう。あれをもっとスムーズにできるようにしなくてはいけない。それから電子ペーパーみたいな技術も進んできています。QWERTYキーと大きな画面、これも革新の余地があると思うんです。

 例えば、A4の紙くらいの大きさと薄さで画面が見られるデバイスになるのかもしれません。何かしたらその一部がQWERTYキーになったり。そして、普段は折りたたんで小さくしてカバンやポケットに入れられるというようなことも考えられます。ただ本当にA4くらいの画面がずっと必要かといったら、もしかしたらそうではなくて、出張に行くときは必要かもしれないけれど、普段は電車の乗り換え情報やメールが十分見られる小さい画面でいいのかもしれない。ただ、何かのときにはこれを持っていたい、というような世界。そんな部分にこだわってもいいかもしれない。こんなふうに、革新の余地はたくさんありますよ。

神尾 欧米でスマートフォンが騒がれていますが、私はまだ発展途上だと感じます。デザイン、ユーザビリティ、機能と性能。すべての要素において、“とりあえず満足できる”レベルまで、今のスマートフォンは達していないというのが、私の評価です。

辻村 そうですね。ドコモも「BlackBerry」が結構売れているので言いにくいところもありますが、やっぱりちょっとゴツゴツして無骨な感じです。「iPhone」はすべてタッチパネルで操作できますよね。あれはUIの1つの革命だと思いますね。

神尾 タッチパネルを使ったという意味では、iPhoneは思い切りよくやってくれたなという感じがしますね。今までの電話機の世界観から抜け出してます。ドコモは電話会社からスタートしたので、どうしても電話型のUIを重視する傾向がありますけれど、このあたりの感覚も変わってくるのでしょうか。

辻村 変わってくるでしょうね。

ITmedia 先は期待できるということですね。

辻村 みなさんのお仕事はまだまだどんどん出てくると思いますよ(笑)

ITmedia PCの世界では、ある程度の性能があればよくて、ブラウザとアプリが使えれば何でもいい、という空気がなんとなくありますが、携帯はそういう方向に行ってほしくない。さらなるイノベーションに期待したいですね。

辻村 1992年にドコモ(当時はNTT移動通信網)ができてから、まだ15年しかたっていないんです。まだまだですよ。30年、50年、100年と続いている企業にだって進化や変化は起こっているんですから。これからもたくさんイノベーションはありますよ

神尾 自動車業界と比べたら3分の1にも達していない(笑) 

辻村 そう。まだまだ色々起こりますよ。特に携帯は人間に近いものですから、I/O(入出力インタフェース)みたいなところには変革する余地がたくさんあるんです。こんなに身近にずっと持っていて、何かのインタフェースになるデバイスは他にはないですよ。コンビニやスーパーマーケットの業界の方ともいろいろ話しているんですが、例えば、スーパーに大きな案内画面があって、自分の買いたい靴のお店にパッと携帯をかざしたら、そこまでの経路が示されて、それを携帯に落として見る、ということってありえますよね。病院でも駅でも、空港でもできますよ。いろんなことがありえます。

神尾 それ、欲しいですね。先日、ナビタイムジャパンの大西啓介社長とお話ししたんですが、そこで屋内ナビゲーションってまだまだですね、という話が出たんです。今辻村さんがおっしゃったように、ショッピングセンターや大きな施設で携帯が案内掲示板にワイヤレスで連携するというのは非常にいいですね。

辻村 そう。ワイヤレスっていうか、僕はICチップ、非接触IC通信でいいと思う。空港なんか、乗り換えの場所がわからなくて困るじゃないですか。でも、パッとかざしたら画面に出てくる、というようにね。

神尾 しかもそれだと案内板にタッチするわけですから、携帯の小さい画面に地図を表示させて情報の閲覧・検索するより、インタフェースとしてははるかに分かりやすいです。携帯のUIは、自己完結するだけじゃなくて、他の機器との連携というのも当然考えられるわけですね。

石川 そういう世界になってくると、ドコモは強みを発揮するでしょうか。

辻村 ドコモというか、業界全体として新しい時代になってくるんじゃないでしょうか。

神尾 番号ポータビリティ前後からの各社の競争というのは、特に大きなイノベーションがあるわけではなくて、単純に端末をたくさん出せばいいとか、カラーバリエーションで勝負するとか、販売店の棚取り競争みたいなところもあって不毛さを感じていたんです。その辺が変わってこないと本当の意味の2.0じゃないな、と思っていたんですが。

辻村 そういうことにチャレンジしたいという我々の気持ちを、ドコモ2.0に表現したつもりなんです。

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