ドコモ新販売方式で加速する“携帯メーカーのドミノ倒し”神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)

» 2008年03月12日 11時30分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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いまだ見えない「バリューコースの出口」

 このバリューコースの副作用には、ドコモ自身も手をつけかねている部分がある。“バリューコースで売れないメーカー・端末”に対する抜本的な手当てができずにいるのだ。それがドコモに対する販売会社の不満と不安として募り、矛先は“売れないメーカー”にも向かってきている。

 「売れるモデルは供給不足が完全に解消しない。一方で、売れ残りがどうなるかも見えない。売れないメーカーはもういらないというのが本音ですよ」(販売会社)

 バリューコースによるラインアップ全体の出口戦略も不透明だ。現在の販売ランキングを見ると分かるが、ドコモの冬〜春商戦モデルの売れ行きでは、「P905i」を筆頭に905iシリーズの人気機種が上位を占める一方で、不人気メーカーや多くの705iシリーズの売れ行きは芳しくない。かといって、新販売方式ではインセンティブによる安易な値下げ/投げ売りもできない。ここまでメーカー・モデル間の格差が開いた状況では、現行世代の販売をフェードアウトさせるのは至難の業だ。

 春商戦が本格化する直前、あるドコモ幹部が「バリューコースは導入するよりも、(現行世代の販売を)終わらせるのが難しい」と話した。それでもラインアップ内の各メーカー・モデルの売れ行きがある程度バランスしていれば“緩やかな終了”が可能なのだが、事態はドコモにとって悪い方のシナリオで推移している。

ドコモ向け端末市場の激変が飛び火していく

 ドコモにとって、今回の冬商戦と春商戦は「バリューコースの影響や変化を見極めたい」(ドコモ幹部)という様子見の段階だ。だが、販売現場でここまでドラスティックな変化が起きたことを鑑みると、同社の今後の調達・販売計画に大きな影響を及ぼすことは間違いない。販売サイドの「売れないメーカーは、もういらない」の声が強くなる中で、ドコモが売れるラインアップの構築に向けた“選択と集中”を図る可能性は高い。従来よりも売れるメーカーを重視した調達・販売計画になり、逆に直前の商戦期で実績が作れなかったメーカーは初回発注分が大幅に減らされるなど不利な状況になっていく。ドコモ向け端末市場の中で「売れるメーカー」と「売れないメーカー」の格差は今後さらに拡大するだろう。

 そして国内最大規模である“ドコモ向け端末市場”における変化は、国内の端末市場全体に波及していく。

 ドコモ向け端末市場で地歩が確立できず、“負のサイクル”に陥ったメーカーは、auもしくはソフトバンクモバイル向けの端末市場に活路を見いださざるを得ない。結果として、auとソフトバンクモバイル向けの端末市場でも既存メーカーと参入メーカー間の競争が激しくなり、ドミノ倒し的な淘汰が進みそうだ。

 例えば、冒頭のソニー・エリクソンは、ドコモ向け携帯電話事業の見直しを表明しているが、その内容が自社ブランドを残した形での「OEMもしくはODMでの存続」になったとしても何ら不思議ではない。ソニー・エリクソンだけではない。他のメーカーでも数回の商戦期での不振が、事業撤退やOEM/ODM導入による大幅な事業見直しに直結する土壌が、端末市場全体にできつつあるのだ。


 急速に進むメーカー間格差の広がりにより、今後の商戦はいわば「イス取りゲーム」の様相を呈してくる。勢力を失い、落ち目のメーカーのシェアをすばやく押さえた勝ち組メーカーは、以降の商戦期で有利になり、逆に“生き残り組”でも次の商戦期で大きくつまずけば不利な状況が積み重なっていく。実際、三菱電機撤退においては、複数の大手携帯電話メーカーが「三菱の技術者とコンタクトが取れないか」と人材確保に躍起になった。勝ち組メーカーが“次も勝つため”には、人材と、退場したメーカーのシェアが不可欠なのだ。

 日本の携帯電話メーカーに「淘汰と収斂」の波が来ることは以前から予想されていたが、新販売方式の広がりにより、その到来は予想以上に早くなりそうだ。今後数回の商戦期の結果で3〜4社の生き残り組が決まり、それ以外のメーカーは、「完全撤退」か「OEM/ODMによるブランド存続」のどちらかを選択することになるだろう。特に多そうなのは後者の選択肢であり、今後は機能競争よりも、端末・UIデザインや付加価値サービスによる差別化が重要になりそうだ。

 2008年から2009年春までの商戦期は、携帯メーカー各社の生き残りを左右する正念場になるだろう。ここで“売れるモデル”を開発し、メーカー自らがブランド価値を向上できるか。さらに各キャリアへの投入・展開で的確な舵取りができるか。各社の実力が問われることになる。

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