元気な“ミツバチ”と大人な“5代目京ぽん”――HONEY BEEとWX330Kに見る京セラの新デザイン戦略(前編)開発陣に聞く「HONEY BEE」と「WX330K」

» 2008年04月16日 21時01分 公開
[平賀洋一,ITmedia]

 京セラ製の「HONEY BEE」と「WX330K」は、ウィルコムの2008年春モデルとして登場したW-OAM対応のPHS端末だ。ストレートボディのHONEY BEEはカジュアルなデザインとポップなカラーバリエーションを特徴とし、一方のWX330Kは、5代目京ぽんとなるスタンダードな折りたたみ型の端末。より上質さを追求したフォルムとなり、ボディも「WX320KWX320KR」よりぐっとスリムになった。

photophoto 「HONEY BEE」(左)と「WX330K」(右)

 ボディ形状やカメラ機能の有無などに違いはあるものの、この2モデルは兄弟機という関係にある。まったく方向性の違う端末が同時期になぜ発売されたのか。それぞれのコンセプトやボディデザインについて、京セラ通信機器関連事業本部マーケティング部の田邊正昭氏と宮坂俊至氏、同マーケティング部デザイン課の漆畑睦氏と西本圭太氏に話を聞いた。

2台目にちょうどいいカジュアルさが武器の「HONEY BEE」

photophoto 京セラ通信機器関連事業本部マーケティング部の田邊正昭氏(左)と宮坂俊至氏(右)

 宮坂氏は、HONEY BEEについて「メールも通話も快適に使える、2台目需要にぴったりのシンプルなストレート端末」と話す。メインターゲットとして想定しているのは高校生から20代前半の若年層、なかでもウィルコム同士で24時間通話やパケット料金がかからないメール送受信を楽しむ、いわいる“ウィル友”を強く意識しているという。

 「ケータイでは実現しにくいサイズ感とデザイン、カラーバリエーションの多色展開など、これまでの京ぽんシリーズとは少し違う特徴付けを行っています」(宮坂氏)

 すでにウィルコムには、「nico.」や「9(nine)」といったシンプルで通話やメールに特化したストレート端末がある。なぜ、あえて“シンプルでストレート”という端末を開発したのだろうか。田邊氏は、「2台目にウィルコムを選ぶユーザーの多くは、シンプルな端末を選んでいます。その数は非常に伸びており、しっかりした市場に成長しています」と説明する。

 また宮坂氏は、「これまで我々が提供してきた京ぽんシリーズは、1台で通話やメール、Webアクセス、カメラ撮影を行えるハイエンドな端末でした。しかし、ウィルコム向け市場は2台目需要がどんどん増えており、それにあわせてシンプルなストレート端末の需要も伸びています。弊社として高機能なシリーズとは別の、シンプルなウィルコム端末を出していきたいという考えがあり、HONEY BEEはストレート形状になりました」と、その背景を明かした。

 HONEY BEEの特徴はただシンプルなだけでなく、異なる質感を含むポップなカラーバリエーション、HTMLメールが送受信できるデコラティブメールへの対応、そして“HONEY BEE”という独自ブランドの確立など、ただシンプルなだけではない付加価値を持たせた。

 HONEY BEEのデザインを手がけた西本氏は、「2台目用端末として、今持っているケータイと違ったデザインやカラーを求める声を元にデザインしました」と話す。京セラが独自に行ったユーザーアンケートでは、“2台目には1台目とは異なるデザインのものを持ちたい”という結果が多くあったという。2台目を持つなら、デザイン、カラーともにちょっと冒険したいという心理が働くようだ。

 「そのため、既存の携帯電話との違いを意識し、雑貨のような、ポップでカジュアルな世界観にまとめました。例えば、発話キー(電源スイッチ)は受話器が上がっているのですが、見ただけで機能が分かるアイコン的なキー形状にしました。またダイヤルキーは数字の部分を突起させて、指先で何番か分かるようにしています」(西本氏)

 漆畑氏は、HONEY BEEに盛り込まれた“遊び心”について、端末の持つ個性のおかげだったと振り返る。作り手としても、無理に遊ぼうとしたことはなく“こうだったら楽しいだろうな”と考えていたら、全体的に楽しい、シンプルだけど遊び心のあるデザインに集約していったという。

 「普通、電源スイッチには“Power”や“電源”と行った表記が入っているのですが、HONEY BEEには入っていません。機能を形状だけで表現してるのは、ケータイとして珍しいのではないでしょうか。さすがにダイヤルキーに関しては、見やすいように数字も刻印していますが。こうした遊びができるのは、HONEY BEEが持つ個性のおかげといえますね」(漆畑氏)

初めにハチありき

photophoto 同社マーケティング部デザイン課の漆畑睦氏(左)と西本圭太氏(右)

 実に個性的なHONEY BEEだが、なぜ「ハチ」なのだろうか。こんな疑問から、HONEY BEEという個性的な端末が生まれた理由を垣間見ることができた。なんと、企画段階から、少し変わった存在だったのだ。

 「そもそもの発端は、社内の女性デザイナーが、ミツバチをキャラクターに使った商品コンセプトを考えたことにあります。ハチは、群れるようにコミュニケーションしますから、そういった世界観を持つ製品開発ができないものか。そこから“HONEY BEE”という企画が形作られました」(宮坂氏)

 つまり端末がどうこうという以前に、HONEY BEEというコンセプトが存在していたのだ。「端末の形ができるまえに、キャラクターと名前が決まっていたんです。そのイメージに沿って開発を進めるうちに“ポップな多色展開がいいよね”とか、さまざまなアイデアが生まれてきました」(漆畑氏)

 HONEY BEEのキャラクターも、最初は待受画像やメニュー画面に登場する程度だったが、発表会場に大きなぬいぐるみが登場するなど、プロモーションでも全面的に使われている。しかし、社内でも好評だというHONEY BEEのキャラクターグッズも、残念ながら販売されず、ノベルティ展開も限定的だ。

photo 発表会場に展示されたHONEY BEEのぬいぐるみ

メインターゲットに聞いた「2台目に欲しいケータイ」とは

 HONEY BEEは個性的な面ばかりに目がいきがちだが、作り手からの押しつけがましさはあまり感じない。そのフォルムやサイズについて、ターゲットユーザーの意見が大いに盛り込まれているためと言えるだろう。

 開発陣はHONEY BEEの企画が固まった後、具体的にどれくらいのサイズが良いのか検討する中で、ありとあらゆる形やサイズのサンプルを作成して、モニターテストを行った。ここでも2台目用途というテーマが重要になってくるわけだが、薄すぎると使いづらく、幅が広すぎてもいけない。1台目と一緒に持ち歩くための意見を集め、それらを集約したのだ。

 「技術的な制約がなかったといえば嘘になりますが、理想の寸法は実現できています。あまりにも薄くなってしまうと、今度はスペシャリティとして特別なイメージが付いてしまう。それはHONEY BEEの持つカジュアルさとは別ものなので、気軽に使えるサイズにとどめました。あくまでも、雑貨のように気軽に使ってほしいですから」(漆畑氏)

 モニターの声はサイズだけでなく、ディティールやカラーバリエーションにも反映されている。メインターゲット層でもある美術大学の学生からの意見を参考にしたという。最も頻繁な時には週に1回程度ミーティングを開き、若年層の使い方を想定した形状やほしいカラーについて意見交換を行った。派手なカラーリングも、潜在的なユーザーが望んだ色といえるだろう。

 「2台目が欲しいと思ったとき、1台目と同じ色を選ぶかというと、決してそんなことはないと思います。例えば1台目との組み合わせが楽しめるようなカラー、2台目ならではのカラフルな色を求める声がありました」(西本氏)

 「例えば、カジュアルさを出すために、リングを付けてみたり、さまさまな要素を追加したり、ボディのフォルムに変化を付けたりしますが、彼らに言わせると『大げさだ』とか『かえって恥ずかしい』などと、けっこう厳しい評価になるんです。“2台目ならシンプルなものが欲しい”という、生の声を聞くことができましたね」(漆畑氏)

 若い世代のモバイルユーザーというと、パケット通信中心なのかなと思ってしまうが、意外にも通話に対する欲求は高いという。もっと話したいが、通話料金に対するハードルが高い。定額プランを選べば、ウィルコム同士の無料通話が24時間利用できる。ウィルコムに対する学生らの興味は、非常に高かったようだ。

 またHONEY BEEの質感は、ホワイト/ピンク/ブラックがグロス仕上げ、イエロー/ブルーがマット仕上げと2種類ある。これはなぜだろうか。

 「携帯電話のデザインだと“ラグジュアリー”とか“高級感”というキーワードがあるかと思いますが、HONEY BEEはもっとポップで遊び心のある端末。全色とも文房具のようなプラスチッキーな質感にしました。イエローとブルーは、冒険した新しい質感を求めて、これまでにないマットな手触りにしています」(漆畑氏)

 開発陣インタビュー後編では、デコラティブメールのテンプレートなどHONEY BEEにプリセットされたコンテンツについて、さらに、兄弟機WX330Kの開発経緯についてお届けする。

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