第5回 “ストリート”感覚のコンテンツにはかないません……コンテンツ業界の底辺でイマをぼやく

» 2008年06月02日 14時30分 公開
[トミヤマリュウタ,ITmedia]

 実はこの原稿を書こうと、2時間ほどケータイで「画交サイト(※画交=画像交換)」を眺めていたわけですが……。すみません、話をまとめる自信がありません。そこには、「ITmedia +D Mobileに『ストリートコンテンツ』っていうカテゴリを作ったほうがいいのでは」と思ってしまうほど広大な大地が広がっております。「?」と思われた方は、この原稿を読む前に、ちょっと以下のような単語でGoogle検索をしてみてください。ケータイからではなく、PCからでOKです。

  • 「ペア画」「部活画」「ポエム画」「ディズニー凸」「自作凸」「手書き凸」

そのほかに、こんなので検索しても面白いです。

  • 「自作発言禁止」「著マ」

Diorのロゴをバックに背負ったベビードナルド!?

 

 刺激的な作品の数々が、ものすごいボリュームと「著作権の問題ってどうなっているのだろうか」という疑問のなかで、津波のように押し寄せてきます。この年になってこの世界を日々追いかける……のはさすがに辛いのですが、「ストリートファッション」ならぬ「ストリートコンテンツ」の勉強もまた、業界の人間として欠かせぬもの。なので、定期的にいろいろなサイトへ潜り、個人的に勉強するようにしています。

Photo モザイクをかけてもドキドキしてしまうDior×ベビードナルド

 しかし、この世界は毎回発見があって、本当に面白いです。今回見つけた画像のなかで一番びっくりしたのが、見出しにも書いた、「Diorロゴ×ベビードナルド」という待受画像です。

 文字にするだけでもヒヤヒヤするような組み合わせですが、正直いって、なんかもうカッコイイです、そのアグレッシブぶりが。パンクだなーと思います。これは顕著な例ですけれど、こうしたビッグネームのコラボコンテンツなんて、一般企業にはよほどのことがない限りまねできない芸当ですよね。それを軽々と実現してしまうのが「ストリートコンテンツ」の魅力といえるでしょう。

 「ポエム画」文化とも組み合わさって、ビッグネームのキャラクターに自作ポエムをくっつけるというのもよくあるパターンです。ミニーマウスに「あなたのこと大好きだったよ(ハート)」としゃべらせることも、キティに「多くの友だちより1人の親友でしょ!」なんてしゃべらせることも、「ストリート」の世界では容易です。それが無料で配布されるのですから、コンテンツとしてはものすごい強さ。到底かないません。

 以前、某SNSサイトのケータイプロフ用デザインテンプレートを当社で複数パターン作っていたことがありましたが、こうした世界を見た後では「背景にミッキーでも置かないともの足りないんだろうなぁ」と、諦観の境地に達しておりました……。到底かなうものではありません。逆に言えば、シンプルで品質のいいデザインを作る人は少ないので、我々はそこをやるべきなのだろうとも思うのですが。

ケータイ=不健全? いやいや健全なものもあります!

 ケータイ向け自作コンテンツ、ここではあえて「ストリートコンテンツ」と呼びますが、そのなかで個人的に好きなのが「部活画」というジャンルです。名前のとおり、学生さんたちが所属している部活への愛を歌った、熱い待受画像でございます。基本的には、その部活を連想させる背景写真+熱い言葉という組み合わせで作られているんですけど、その言葉がとにかくもう「青春」しているわけです。

すみません、こちらも諸般の事情でモザイクします。
左は野球部向けのもので、「打ったそのしゅんかんにすべてが決まる!! この日は二度とこない。だから、今にすべてをかけろ!!!」と書かれています。
中央はバスケ部向け。「高さ3.05mの空間に吸い込まれてくボールと気持ち」とあります。
右は吹奏楽部向けで、「エスクラ(編注・Eb管クラリネットの略称)なしのせいかつなんてあたしにはかんがえられない! うちらはいっしんどうたい♪ これからもいっしょにせいしゅんしていこ★」と書かれています

 「学校裏サイト」もどこ吹く風。こんなのを見ると、のんきに「いまの子は素直でいい子だわぁ」なとど思ってしまいます。「ケータイ」と「こども」がセットになると、すぐに「いじめ」「出会い系殺人」などと悪い話が連想されるようになってしまいましたが、その横では、こうしたすがすがしいストリートコンテンツも育っているのです。え? 著作権? 肖像権? そ、それは……。

 確かに、キャラクターものやアイドルものなど、権利関係真っ黒なものも多数あります。ですが、例えば「キティを自分なりにデフォルメしてドット絵に起こしたデコメ絵文字」なんていうものを見ると、そこには創作の芽を感じるわけです。センスも感じます。そして、「すでにあるキャラクター」のデフォルメを経て、オリジナルキャラクターを作り、配信し(もちろん無料)、人気を得ていく……といった成長を遂げていく無名の「作家さん」たちも、多数見かけることができます(ハンドルネームはありますので無名ではないですけど)。

 これは本当に難しい問題です。現状の法律をド直球に捉えれば、放っておいていいわけはありません。しかし、こうした若い人の文化の萌芽を阻む、心の奥底から腑に落ちるような理由を、自分は提示できません。「著作権法にこう書いてあるから」「商標登録されているから」「ビジネスを阻むから」といっても怖がらせるだけで、腑に落ちてはくれないでしょう。自分自身の心にも響いてきません。

 僕の若い頃を省みてみます。小学生のときは好きなゲームのキャラクターを、中学生のときは好きなマンガをよく模写していました。そして、高校時代には、「面白いと思った映画を勝手にノベライズする」という遊びをしていました。当時はインターネットのイの字もなかったので、勝手に書いては1人でほくそ笑んだり友達に見せたりしていたわけですが、もしそのときにブログがあったら……絶対載せていたでしょうね。

ケータイとPCのストリートコンテンツ、その違いは原宿とアキバの違い?

 ケータイサイトで見かける自作コンテンツと、PCサイトで見かける自作コンテンツ。どちらも同じ「ストリートコンテンツ」ではありますが、そこでウケている内容には、文化の違いがあるように思います。

 最近、「ケータイ世代本」が多数刊行されているので、そこらへんの話はそちらにお任せして、サブカル的(?)なアプローチをさせていただくと、「ケータイ自作コンテンツ=原宿」「PC自作コンテンツ=秋葉原」というか、「ケータイ自作=オマージュ」「PC自作=パロディ」というか、そこには「クラスの多数派と少数派の違い」的文化の差が横たわっているように感じるのです。もっとざっくり言うと、「ケータイ=女子」「PC=男子」と分けてもいいかもしれません。いや、もちろんすべてがすべてではないのですよ。YouTubeやニコニコ動画にPCを使って「踊ってみた動画」をアップしている女の子たちもいますし、毎日お弁当をブログにアップしているお母さん方もいらっしゃいますから。あくまで、「ざっくりな話」です。

 もう一歩視点を変えると、「ズルむけ」気味なPCの世界と、「ナイーブ」なケータイの世界というのも感じます。サイトで荒らし行為が起きても、どことなく茶化しの雰囲気が残ったりもする(もしくは茶化す人も現れる)PCサイトと違い、ケータイサイトでは荒らし行為が起きるとシリアスさで支配されてしまうように見えます。

 冒頭に挙げた検索キーワードの中にも、ケータイ世界のナイーブさは表れています。「自作発言禁止」というヤツです。これは、「新作のキティ凸できたので配るよー。でも使うのはメールだけにしてね。自分で作った振りして、別のサイトで配ったりするのは絶対禁止!」といった意味の言葉です。禁止事項として、自作発言・二次加工・他サイト転載と3つ並べる人も多くいます。実際、転載されているのを見つけて嘆く作家さんも多数いました。

 「著マ」も面白いです。これは、著作権マーク、つまりコピーライト表記のこと。作っている本人が無断で二次創作しているものであっても、著作権を主張して「(C)」マークをつけるのが文化になっているのです。「(C)とみい」みたいな感じで、画像のすみっこに記されるのですが、これも要は自作発言予防策といえるでしょう。

 PCの世界では、動画の最後に作者の名前を入れるといったことはあっても、「自作発言禁止」なんて記載する人、見かけませんよね……。さらにいうと、ニコニコ動画やYouTubeなんて、「二次加工」「他サイトへの転載」がなされてナンボという世界。やっぱり文化が違うなぁと思います。

 先日、YouTubeがauケータイにも対応しましたけど、PCサイトとケータイサイトの垣根がどんどんとなくなっていくなかで、今後は人の流入だけでなく、こうした文化の流入も促進されるだろうなぁと、ちょっと注目しています。流入というか文化のぶつかり合いと言いいますか。ひょっとしたら「部活画」ノリの熱いコンテンツが、YouTubeやニコニコ動画でも多く見られるようになるかもしれません。現状ではちょっと異質ですよね。

 個人的な話をさせていただくと、mixiがケータイだけでも利用可能になった2006年12月を境に、すっかりmixiから疎遠になっているというのがあります。あの頃は「なんだかサイトの雰囲気が変わってきたなぁ」くらいの感じで、とくに気にかけていなかったのですが、いま考えると、文化の摩擦がそこにあったのかもしれません。

 あぁ、またしても話が藪の中に……。いや、本当は「ケータイだけ弄ってるわけじゃない」とか「逆ケータイSEOする人々」とか「ランキングサイト=SNS」とか、いろいろ考察してみたいことはあるのですけども、これ以上この藪で歩みを進めますと、ページがいくらあっても足りません……。「誰か飲み屋でテレコ回してもらえませんか?」という状態。今回はここら辺で止めておきます。ではまた。

プロフィール:トミヤマリュウタ

ときにライター、ときにデザイナー、ときにプランナー。某携帯電話関連会社にて某着メロ交換サイトを企画するなどといった若気のいたりを経て、2001年に独立。2004年には有限会社r.c.o.を設立。書籍、雑誌、ウェブの執筆・デザインなど、各種制作業務を中心に活動。2006年あたりから始まったケータイ業界再編の波にもまれていうるちに、近年では大手携帯電話会社のコンテンツ企画を手がけることになっていたりと、なんだか不思議な毎日。


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