約500億円をユーザーに還元――“家族割”や“グループ割”を重視する韓国キャリア韓国携帯事情

» 2008年08月14日 23時15分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 日本では、家族そろって同じケータイキャリアに加入すると、基本料金や家族間の通話料を安くする料金制度が普及している。韓国でもこうした料金制度の導入が増えており、家族だけでなくグループ企業や同じ学校に所属していると安くなるなど、従来の枠組みを超えたバラエティー豊かな割引サービスが広がっている。

各社1000億ウォン以上を還元

 SK Telecom(以下、SKT)が1860億ウォン(約196億万円)。KTFは1027億ウォン(約108億円)。LG Telecom(以下、LGT)は1750億ウォン(約184億円)。合計4637億ウォン(約488億円)。

 この金額は、韓国の携帯電話事業者3社が行った料金割引によって、ユーザーが得た恩恵の合計額だ。7月末時点でのSKTの加入者は約2277万人なので、1人あたり約8168ウォン(約約860円)を還元したことになる。同じく加入者数が約1418万人のKTFは約7242万ウォン(約763円)、LGTは約809万人の約2万1623ウォン(約2278円)という計算だ。

 内訳を見ると、SKTは自社加入者同士の通話料を50%にする「T同士割引料金」による800億ウォン(約84億円)と、SMS料金の33%値下げによる700億ウォン(約74億円)がもっとも多い。このほか、未成年専用料金プランでのネット利用料/コンテンツ料見直しによる恩恵が250億ウォン(約26億円)、家族割引制度で110億ウォン(11億円)という内容だ。

 KTFでは、月額2500ウォン(約263円)を支払えば他社間との通話も含めた通話料(テレビ電話含む)が30%割引となる「全国民30%割引」などで256億ウォン(約27億円)、SMS料金の見直しで442億ウォン(約47億円)、2年間の加入を条件に料金を割り引く「SHOW King スポンサー」で73億ウォン(約7億7000万円)、低所得者層に対する通話料の減免とKTの通信商品とセットで安価な通信サービスを提供する「結合商品」により256億ウォン(約27億円)が還元された。

 LGTは、同社加入者同士に対する通話料の割引で437億ウォン(約46億円)、SMS割引で247億ウォン(約26億円)、「家族愛割引」で109億ウォン(約11億円)、「提携割引」を始めとしたその他の割引が882億ウォン(約93億円)となっている。

 韓国では2008年から、SMS 1通あたりの料金が既存の30ウォン(約3.16円)から10ウォン(約1.05円)に値下げされた。“SMS料金は高額”と指摘する世論の高まりから値下げせざるを得ない状況となり、多くの人がこの恩恵を受けた。もともと韓国はメールよりSMSを利用することが多く、値下げによってさらにSMS利用に拍車がかかりそうだ。

 SMSと同様、多くの人に恩恵をもたらしたのが、家族間割引制度だ。韓国では2008年3月に補助金規制がなくなったが、補助金をただ増やすのではなく加入期間によってを金額を増やしたり、家族や仲間で加入することで基本料・通信料を下げるという方法が多くとられている。

家族割、その内容は?

 韓国では同じキャリア内の通話料を割り引くサービスを「網内割引」と呼んでいる。

 SKT(「T同士料金」)とKTF(「KTファミリー50%割引料金」)は網内割引をオプションサービスとして提供。2社とも月額2500ウォン(約263円)を支払えば、同じキャリア同士の音声通話やテレビ電話料金を50%引きにする。さらにKTFは自社グループの強みを生かし、KTの固定電話への通話料も半額にするサービスを用意した。

 LGTは、2〜7人のグループで加入する「家族愛割引」と、専用の「網内無料通話料金制」というサービスを設定している。家族愛割引はメンバー間の通話料が半額になるもので、グループ内の代表者が全員分の電話代を支払う必要がある。このグループ割引と合わせて利用できる網内無料通話料金制は、月額1万5500ウォン(約1630円)でテレビ電話の通話料が半額になるプラン。音声通話は1200分まで無料で、さらに通話したいユーザーには、プレミアム料金も用意されている。

 ちなみにこのプログラムでは、メンバーが5カ月間使った月平均料金分の金額が、6カ月目に割引される。例えば5人のメンバーそれぞれが、5カ月間で月平均5万ウォンを使ったとすれば、6カ月目には5人分の基本料+通話料から計25万ウォンが引かれるのだ。そのため半年ごとにケータイ料金が無料になるケースがあるほか、メンバーシップのポイントもメンバー間で共有できるなどお得感が強いサービスといえる。

 LGTは家族愛割引について、基本料と通話料両方が割引されることをアピールしており、他社にはないメリットと主張している。

LGTによる「網内無料通話料金制」
料金プラン 基本料 10秒当たりの通話料金 無料通話(LGT以外) 無料通話(LGT同士) 恩恵
網内無料標準 1万5500ウォン 18ウォン(0〜19時)
15ウォン(19〜24時)
1200分 LGT同士のテレビ電話50%割引(15ウォン/10秒)
網内無料プレミアム 4万1000ウォン 14ウォン 300分 1200分 LGT同士のテレビ電話50%割引(15ウォン/10秒)

 しかし似たようなサービスは他社でも行っている。SKTの「T同士家族割引制度」は、家族でSKTに加入している人を対象にした制度で、基本料と通話料を割り引くというものだ。

 基本料の割引率は、メンバーがSKTに加入した年数の合計によって変わる。10年未満の場合は10%、10年以上20年未満の場合は20%、20年以上30年未満の場合は30%、30年以上の場合は50%。例えば父がSKT歴5年、母が3年、子どもが2年といった場合、合計で10年なので20%の割引が受けられる。

 さらに先述のT同士料金に加入しているかどうかで、受けられる恩恵も変わってくる。T同士家族割引制度+T同士料金という組み合わせなら、月300分の無料通話分が付与され、超過した通話料から50%引きとなる。

 2社とも無条件で割引することはなく、条件付きのオプションプログラムに加入することが前提だ。特にSKTの場合は、これまでの契約年数によって割引額が変わってくる。新規契約者だけでなく、これまでずっと同じキャリアを使い続けてきた“お得意さま”に対する優遇サービスを用意することで、バランスをとっているようだ。

SKTによる「T同士家族割引制度」の割引条件
加入期間年数の合計 10年未満 10年以上20年未満 20年以上30年未満 30年以上
基本料割引率 10% 20% 30% 50%

区分 割引詳細
T同士料金加入者 無料通話300分相当を提供
T同士料金未加入者 通話料50%割引

「家族割」から「仲間割」へ

 LGTは、同社と提携した企業のサービスも格安で利用できる「提携料金」という料金プランを用意している。LGTの携帯電話料金だけでなく、それ以外のさまざまなサービスでも恩恵を受けられるのだ。

 例えば「Gmarket割引プログラム」は、韓国最大手のオンラインショッピングモール「Gmarket」と提携したプログラム。月々の利用料(基本料+通話料)によって、Gmarket商品の割引、無料配送、ポイント提供といったサービスが受けられる。

 またガソリンスタンドチェーンのGS Caltexと提携し、月々の利用料に応じてガソリン価格を割引するプログラムや、同じく利用料に応じてアシアナ航空のマイレージがたまるプログラムなどを展開している。こうした生活に密着したサービスは、LGTが得意とする施策だ。

 異業種と提携した割引サービスはLGT独自の取り組みといってよいが、同じグループの通信サービスを利用する「融合割引」は各キャリアとも充実している。ちなみに、SKTはHanaro Telecom、KTFはKT、LGTはLG DACOMという基幹通信事業者をグループ内に持っている。

 KTFは、固定回線でKTを使っていればKTF料金まで割引となるため、グループで顧客の囲い込みができる。家族だけでなく、同一グループの企業や取引先企業もキャリアを統一すれば割り引きになるため、家族割から“仲間割”“グループ割”へと考え方も変わってきている。

 もちろん、こうした制度が好評だから多様な割引が提案されるのだろう。最近SKTは、同じ学校に通う学生同士であれば、通話料(テレビ電話含む)が50%割引となる中学生・高校生・大学生向けの料金プラン「学校同士Tタイム」を発表した。

 そのSKTは最近、端末購入時の補助金を5万ウォン(約5300円)程度引き下げた。

 一時は“無料”の文字が躍った携帯電話の販売価格も、今後さらに高くなるだろう。韓国キャリアは端末の販売価格ではなく、毎月の通信料金を下げることでユーザーを優遇するという方針に転換したわけだ。端末購入時といういっときの割引ではなく、長期的な視野で顧客を根付かせようという努力が、韓国で始まったといえるだろう。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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