現在韓国に進出している海外端末メーカーといえば、Motorolaとカシオ計算機のみだったが、今後はその数がぐっと増えてそうだ。韓国ユーザーは押し寄せる海外メーカーの端末をどう受け止めるのだろうか。
7月1日、台湾のHTCが韓国市場へ進出することを明らかにした。同社はSK Telecom(以下、SKT)と手を組み、Windows Mobileを搭載したスマートフォンの「Touch Dual」を市場に投入するという。今回進出を決定付けたのは、韓国に3Gサービスが根付いてきたことと、「タッチパネルを使ったユーザーインタフェースと、マルチメディア機器のように使える携帯電話に対する関心が高まっている」(HTC)ことにあるようだ。
韓国に投入されるTouch Dualは、画面上で指をスライドさせてメニューを呼び出せる独自UIの「Touch FLO」を搭載。OSはMicrosoft Windows Mobile 6.1で、Officeファイルの編集なども可能だ。200万画素カメラ、Bluetoothなど、海外で販売されているものと仕様は大きく変わらない。
当初は法人向けに販売されるが、7月中旬からは個人向けにも販売されるようになった。韓国での価格は50万ウォン後半(5万円台後半)と、高めだが、補助金制度を利用することでもう少し安く購入できる。Touch Dualに対して、機能やデザインの質を強調するSKTは「価格・デザイン・機能の3拍子揃った端末」と評価する。
とはいえ、マスコミの盛り上がりに比べるとTouch Dualに対する市場の反応はそれほど大きいものではない。韓国ではHTCの知名度がそれほど高いとはいえず、アーリーアダプターを除くユーザー層に対する訴求もいまひとつだ。また、HTCの韓国法人はまだ体制が整っておらず、本格的なマーケティングも展開していない。HTCは「今年(2008年)中にHTCの韓国法人を通じて、本格的な活動を開始する」と述べており、今回のTouch Dual発表は、HTCの顔見せ的な位置づけといえるだろう。Touch Dualが名刺代わりというわけだ。
HTCに限らず、海外ケータイの韓国進出が最近増えている。報道によると、SKTはHTCに続きNokia端末やRIMのBlackBerryを、KTFは台湾GIGABYTE製のスマートフォンをそれぞれ年内に投入するという。
ところで、すでに韓国に進出している海外メーカーといえば、Motorolaと、LG Telecom(以下、LGT)のcanUシリーズでおなじみのカシオ計算機が挙げられる。
韓国におけるMotorolaの市場占有率は10%以下。SKTにしか端末を供給していないため市場占有率だけでの判断は難しいが、「RAZR」に続くヒット作がなかなか出せずにいるという点は気になる。同社は世界シェアも落としており、根強いファンがいる韓国市場から手を引くつもりはないようだ。5月には、韓国市場では同社初の3G携帯となる「Z8m」をリリースし、3G市場でも続投する意向を示した。
一方のカシオ計算機製端末は、業界3位のLGTが展開する個性派ケータイブランド“CanU”にラインアップされている。ユーザー層を特定したマーケティングが功を奏し、ユニークなケータイを好む人々を中心に支持を得ている。最近販売された「canU801Ex」は、LGTのEV-DO Rev.Aサービス「OZ」に対応した初めての携帯ということで、大々的なキャンペーンとともにデビュー。同時に発売されたLG電子の「LG-LH2300」とともに、フルブラウジングに対応したハイスペックなOZ端末として人気が高い。この2機種のみで、OZの加入者は開始から3カ月で25万人を突破した。
Nokiaはかつて、韓国市場で端末を販売していたが、不人気のため約1年半で撤退したという苦い経験がある。当時を知る韓国のマスコミ関係者は「使い勝手が韓国携帯と違った。デザインも韓国人の感性には響かなかったのでは」と分析していた。
3G方式の普及で海外メーカーが韓国にも進出しやすくなったとはいえ、海外で人気のある端末が同じように韓国でも受け入れらるわけではない。韓国で受け入れられるかどうかは、メニュー構成や操作感、色や形といった、比較的基本的な部分が重要であることが分かる。
さて、HTCのTouch Dualは、Touch FLOという独自のタッチパネルUIを備えている。待ち受ける韓国勢も、Samsung電子とLG電子が相次いでタッチパネル携帯を発表し、まさに今が旬。ただ、「Haptic」や「ビキニフォン」のように、音声端末でも進化したインタフェースを持つモデルも存在することから、消費者の目には、Touch DualのUIはさほど目新しくは映らないだろう。
またTouch Dualのデザインも、韓国で通用するか未知数だ。最近のSamsung電子やLG電子の端末は、メタリックでシャープな質感や、カラフルなもの、LEDのイルミネーションを多用した個性的なものが多い。それらと比べると、Touch Dualはやや平凡で単調に見え、華やかさを好む韓国ユーザーがこれを選ぶか分らない。
ただし、Touch Dualなど最近韓国に進出した海外メーカーの端末はいずれもスマートフォンで、かつ特定キャリアからのみ販売されている。そのため、ある程度の固定ユーザーは獲得できるだろう。逆をいえば、ターゲットを絞って進出しているということだ。
キャリアにとっては差別化が図れるだろうが、スマートフォンという分野で考えれば複数メーカーがひしめくこととなり、競争率は高くなる。RAZRシリーズでファンの心をつかんだMotorolaのように、市場で強烈なイメージを植え付け、早期にユーザーを確保することが、メーカーとしては重要なポイントと言える。
さらに、韓国ユーザーにいまだ根強い、データ通信料金に対する負担感もハードルの1つだ。キャリアなどが料金プランを見直すことで意識が変わるとしても、効き目がすぐに現れるとは思えない。パケット料金の高さがネックとなり、スマートフォン利用を足踏みさせるのでは、元も子もない。海外メーカーは端末だけでなく、インフラやサービスとの相乗効果で市場を変革させなければならない。まさに手腕が試される時なのである。
海外メーカーが韓国進出するにあたっては、「WIPI」というハードルもある。WIPIは法律で携帯電話への搭載が義務付けられている国産プラットフォームだ。一部ではWIPI搭載の義務化が、海外メーカーの韓国進出を難しくしているという声もある。
そこで、このWIPIをなくそうとする議論が持ち上がっているという報道が伝えられた。それによると、海外端末の参入を促し、選択の幅が広がるよう、WIPI義務化を無効にしようという意見が、一部であるという。キャリアごとにバラバラだったプラットフォームの統一を目指した経緯や、コンテンツプロバイダはこれまでWIPIに沿ってアプリを開発してきたことを考えると、いまさら海外メーカー誘致のためだけにWIPIを全廃するわけにはいかない。たとえ撤廃されるとしても、時間がかかるだろう。
このように韓国では、苦労して生み出した国産プラットフォームを捨てようという意見が飛び出すほど、海外ケータイの参入が大きなインパクトとして伝わっている。それは、国際競争の中で海外メーカーという敵を迎え入れるというよりも、市場活性化の1つの手段として、前向きに捉えられているからかもしれない。
超えるべきハードルや、韓国市場ならではの難しさというのはいくつかあるが、それを乗り越えた、多様な端末がそろったケータイ市場になってほしいものだ。
プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。
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