加入者たったの15万人――韓国版WiMAX「WiBro」の反撃:韓国携帯事情

» 2008年06月13日 01時00分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 “IEEE世界標準”とはいいながら、さほど利用者を増やせずにいる韓国版モバイルWiMAXの「WiBro」。携帯電話のフルブラウザ導入も普及してきており、WiBroの競争相手は日々増えている。WiBroのサービスは今、どうなっているのだろうか。

WiBroの現状

 現在、WiBroの加入者は15万人程度。2006年6月末に開始してから丸2年たつことを考えれば、決して多いとはいえない数字である。サービスを提供するのはKTとSK Telecom(以下、SKT)だが、SKTはKTほどマーケティングに熱心ではなく、加入者の大部分はKTのユーザーだ。

 またサービスエリアも、依然ソウルとその周辺地域などに限られている。ソウル市内であれば、たとえ走行中の地下鉄の中でもWiBroに接続できるので非常に便利だが、サービスエリア外に出たとたん途切れてしまう。WiBroのエリア外に出るとHSDPAネットワークを利用して、オンライン状態を維持できるサービスもあるが、それを利用すれば料金が多少割高になる。

 例えばSKTの例を上げると、WiBroのみの利用であれば加入費3万ウォン(約3000円)と月額基本料金1万6000ウォン(約1600円)で使い放題になる。しかし、HSDPAとの組み合わせで利用するプランでは、加入費5万ウォン(約5100円)、月額基本料2万9900ウォン(約3000円)が現時点でもっとも安い料金制となる。これでWiBroは使い放題、HSDPAは転送量2Gバイトまで使い放題だ。

 エリア重視でソウル郊外でもデータ通信をしたいならWiBro+HSDPA料金、ソウル内のみでWiBroを使用するなら、安くて使い放題のWiBro専用料金を使うという選択になる。しかし、この料金を支払ってまで、WiBroを利用する理由があるのかといえば、それは別問題だ。

 韓国では、1時間1000〜1500ウォン(約100〜150円)でブロードバンドを利用できる「PC房(韓国版インターネットカフェ)」が普及していることもあり、ノートPCを持ち歩く文化がそれほど根付いていない印象を受ける。ただし、MP3プレーヤーやポータブルマルチメディアプレーヤーを持ち歩く文化はかなり根付いているので、WiBro利用は、こうした小型端末で普及していくと思われている。

 ところが、最近の携帯電話にはフルブラウザが搭載され、高速な3Gサービスも普及しつつある。割安な料金制度や魅力的な端末が増えており、WiBroの競合相手は増加する一方だ。“WebサイトはPCで利用したい”という層がまだまだ多いとはいえ、ちょっとしたメール確認やWeb閲覧が携帯電話できるならそれに越したことはないだろう。そうなると、ますますWiBroを選択する理由がなくなってしまう。

 サービスエリアが全国規模でない点もデメリットで、“敗北”などと、厳しく評価されることもある。だが、新しい料金制度や製品、他社との提携、エリア拡大、次世代規格サービスなど、WiBroの反撃は静かに始まっている。まだ敗北が決定したわけではない。

下半期にWAVE2技術で勝負に出るSK Telecom

photo SK Telecomによる、WiBro Wave2のデモ

 SKTは、2007年後半にWiBro専従チームを新設し、やっと本腰を入れ始めた。WiBroの次世代技術である「Wave2」を利用し、HD画質の映像を転送する実証実験を行っている。Wave2は現在のWiBroをアップグレードした規格で、MIMOやスマートアンテナ、LDPC(Low Density Parity Check)といった各種の技術を採用し、上り最大37.44Mbps、下り最大10.08Mbpsのデータ送受信速度を実現した。

 実験に成功したSKTは、下半期からWave2ネットワークをソウル全域に構築。USBモデムやモバイル機器などの端末、新しい料金制度も発表するとしており、反撃の準備を進めている。また、「海外事業者との提携を通じて、海外インターネットローミングサービスも提供したい」(SKT)と、対応エリアが国境を越えて拡大する可能性を示唆している。

 これまでSKTは、WiBroサービスに対してあまり積極的な姿勢を見せてこなかった。現在「全国23都市において、ホットスポット形式でサービスしている」(SKT)とはいうものの、加入者は数千人余り。WiBro市場に対する先行き不安感がそうさせていたのかもしれないが、これでは周波数割り当てまでの労力や、技術投資に見合うとはいえない。しかし、ここに来て海外でもモバイルWiMAX採用国が増えてきているほか、WiBroの機能も向上しているということで、今後WiBro事業に数千億ウォン規模の投資を行い、市場開拓に臨む方針だ。ようやく、SKTが重い腰を上げつつある。

エリア拡大に加え新料金制も準備したKT

 さて一方のKTは、ソウル近郊のエリアを拡大して足元を固める意向だ。これまでもソウルとその一部周辺地域でサービスを行っていたが、10月までに京畿道の各市にWiBroネットワークを拡大する。

 京畿道はソウル市を取り囲むように位置しており、ソウルの会社に通う社員たちが多く住むベッドタウン。ソウルではWiBroにつながったのに、バスで帰宅中に京畿道へ入った途端に接続が切れる――といったこともあるだけに、既存ユーザーの多くがメリットを実感できるエリア拡大になるだろう。

 また、京畿道にある中小企業に対してWiBroネットワークを提供することで、社内のどこでもWiBroネットワークでつながる「モバイルオフィス」環境を構築するとしている。このほか災害情報をリアルタイムでモニタリングしたり、観光サービスや国際的な催し物の席でWiBroを利用するなど、活用の場を一般の人たちだけでなく企業や公共機関にも広げようとしている。

 さらにKTは、6月1日からWiBroの新しい料金制度を開始した。これまでは、期間限定プロモーション料金だった月額1万9800ウォン(約1980円)の使い放題プランが定着していたが、ここに来て2つのプランへと変化した。

 その1つは、端末購入時に補助金が出る代わりに一定の加入期間を約束するという、携帯電話と同様の“しばり”を設けた販売方法だ。月額1万ウォン(約1000円)で1Gバイトまで使い放題、および月額1万9800ウォン(約1980円)で30Gバイトまで使い放題になる。この限度を超えると、1Gバイトあたり10ウォン(約1円)の従量制になる。なおこのプランは、新規加入者にのみに適用される。

 もう1つは、上記料金制にプラスされる「端末安心料金制」というものだ。端末を紛失あるいは破損した際、最大20万ウォン〜50万ウォン(約2万円〜5万円)の修理補償、あるいは代替品を受けられる。USBモデムの場合は月額1000ウォン(約100円)、携帯電話などモバイル機器の場合は月額2500ウォン(約250円)で、上記の補償を受けられる。

photo 仁川国際空港にあるKTブースで、WiBroモデムを借りられる。もちろん同空港内でもWiBro接続が可能で、ソウルに行く途中のバスやタクシー内で利用すると、その便利さが実感できるだろう

 ちなみにKTでは、仁川国際空港で外国人向けにWiBroモデムのレンタルサービスを提供している。料金はモデムの保証金として50米ドル(約5400円)、レンタル料として日額5000ウォン(約「500円)。空港1階の6番と7番ゲートの間にあるKTブースでレンタルできるので、韓国訪問の際はぜひ利用してほしい。

 また韓国ソフトウェア新興院は、動画投稿コミュニティサイトの「Freechal」、CNS(ケーブルテレビの映画チャンネル)、Soribada(音楽配信サイト)、Wizenet(ゲームポータル)などからなるコンソーシアムを結成した。ネット上のコンテンツを生かすべく、WiBroによる無線インフラと固定インフラを融合したプラットフォーム開発を行う予定だ。将来的には、開発したコンテンツやプラットフォームの海外進出も視野に入れている。

 そしてWiBro事業で最も恩恵を受けるとみられるのが、Samsung電子だ。米Sprint Nextelをはじめ中南米や中東の事業者へ設備を供給しているほか、最近では日本のUQコミュニケーションズへの機材納入も決定している。四半期ごとに発表される実績でも通信部門は好調で、その立役者の1つがWiBroであると同社は述べている。WiBroが同社通信事業の追い風となっているのだ。

 最近は「WiBroコミュニケーター(SWT-W100K)」という、GPSナビゲーションや動画・音楽再生、ファイルビューワー、地上波DMBなど、多様な機能に対応した端末を発表するなど、舞台の表裏での活躍が目立つ。

photophoto 15.7ミリというスリムなデザインが特徴のSWT-W100K。内蔵メモリは8Gバイト、200万画素のカメラを搭載。地上波DMBはPicture in Picture機能でも見ることができる。価格は50万ウォン台(約5万円)だ

Wave2に続きWiBro Evolutionも

 WiBroの進化は前述のWave2にとどまらず、その後には「WiBro Evolution」が控えている。WiBro Evolutionといえば、時速120キロメートルでの移動中でも下り最大400Mbpsのデータ通信が可能な通信規格で、4Gの標準規格としても名乗りを上げている。

 ただし、WiBro Evolutionには「LTE」という強力なライバルがおり、予断は許さない。LTEに対抗するため、WiBroに高度な音声通話機能を搭載する可能性もあるが、韓国政府の放送通信委員会は音声通話機能搭載について「そうした方針は現時点ではない」と述べている。

 このように、WiBroについてはいくつかの次世代規格が頭角を現し始めているが、まず国内市場が完全に立ち上がらないままでは、現行WiBroの普及はままならない。技術面もさることながらサービス面の充実も急務だ。

 韓国では、PC向けインターネットコンテンツでは優れたサービスが多く、これをノートPCなどのモバイル環境で利用することを訴求すれば、WiBroの普及も速まると考えられる。

 かつて、SKTが公衆無線LANスポットの試験サービスを行たものの、利用者が増えずに事業を中止したことがあった。全国数カ所にホットスポット形式でサービスしているWiBroも、同じ道をたどらないとは限らない。今後、ユーザーのWiBroに対する認知度を上げ、メリットを強調し、あらゆる場面で利用シーンを増やしていく努力が必要だ。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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