“WIPI鎖国”で「iPhone 3G」を販売できない韓国――岐路に立つ独自プラットフォーム戦略韓国携帯事情

» 2008年09月22日 16時12分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 Appleの「iPhone 3G」が日本で発売されたニュースは、韓国でも大きく取り上げられた。世界的に話題のiPhone 3Gだけに、韓国でも関心が高い。日本と同じくGSM網を持たない韓国では、「iPhone」の販売は現実的ではなかったが、W-CDMAを採用したiPhone 3Gであれば、日本と同じく韓国でも――と期待されたのだ。しかし、iPhone 3G導入についてAppleと交渉中とウワサされたKTFは「事実無根」であると、否定的なコメントを発表した。

 韓国で発売される携帯電話は、「WIPI」(Wireless Internet Platform for Interoperability)という韓国が開発した独自プラットフォームの搭載が義務付けられている。韓国政府は、いずれWIPIを世界標準規格として海外進出させる狙いだったが、そんな思惑とは裏腹に最近では不要論まで噴出している。WIPIを取り巻く現状についてリポートする。

人気の海外端末を手にできず、WIPI見直しの動き

photo iPhone 3G

 iPhone 3Gが韓国で販売されるには、ハングル対応のほか採用キャリアのネットワーク環境に合わせる必要性があり、さらに、WIPI搭載義務というハードルを越えなければならない。これは、iPhone 3G以外の海外メーカーにも共通のハードルだが、Appleはこの条件を受け入れなかったと報道する韓国メディアもある。

 iPhone 3Gの韓国導入にかかわる一件は、多くの人々にWIPIの存在意義について考える機会を与えた。韓国の携帯電話ファンが集まるWebサイト「Cetizen」では「WIPI維持/廃止に対して、皆さんはどう考えますか?」というアンケートを実施。2187人が参加し、うち81.1%(1774票)が「廃止すべき」と答えている。

 その理由としては「端末だけでなく、プラットフォームも多様な消費者の選択権が保障されなければならないため」(35.9%/785票)、「WIPI搭載義務化が、外国産端末の国内進出の障害になっているため」(20.4%/446票)などが挙げられた。

 WIPIは、開発当初から世界標準になることを計画していたアプリケーションプラットフォームだ。しかし、現実には「Symbian OS」やGoogleの「Android」など、強力でオープンなプラットフォームが世界中で採用されている。こうした中でいまだ韓国ローカルな存在であるWIPIが、技術面や国際性といった面で競争していけるのか、不安も残る。現在、オープンな次世代規格「WIPI 3.0」の開発が進められているが、たとえこのWIPI 3.0が技術的に他のプラットフォームよりすぐれていたとしても、世界的に普及するのかは未知数だ。しばらくの間、WIPI廃止論が消えることはないだろう。

WIPI搭載の長所・短所

 WIPIはもともと、SK Telecom(以下、SKT)、KTF、LG Telecom(以下、LGT)の3社でバラバラだったプラットフォームを統一し、コンテンツプロバイダ(CP)の開発負担を軽くする目的で開発された。そのため、CPの開発コストや手間を減らすという点では、効果的と言える。

 またWIPIは、海外企業にとって技術的な障壁となるため、国内市場での過度な競争を抑えられ、韓国企業を保護できるという点も挙げられる。これは比較的体力の少ない、端末メーカーやCPなどにとって恩恵になる。

 さらに、現在開発中のため何とも言えないが、WIPI 3.0の完成度によっては、DMBやWiBroのように世界へ輸出できる技術に育つ可能性も、まだ消えたわけではない。

 WIPIが実際に搭載されなくなった場合、これまですべてをWIPI基盤で構築してきたシステムが稼働しなくなるという問題もある。端末メーカーは1年先を見越して端末開発をしており、急にWIPIが廃止になれば、これに伴う修正作業の手間も大きいだろう。

 逆に今のままでは、韓国にとって不利益になる部分もある。CPは常にWIPIに準拠したアプリを開発しており、万が一にもWIPI以外のプラットフォームが採用された場合は、2重の開発リソースが必要になってしまう。

 “WIPIに沿ってアプリを開発し続けると国際的な競争力がつきにくい”という指摘もあるが、WIPIの搭載義務とCPの海外市場進出は別の問題とする意見もある。これは、Samsung電子やLG電子が海外でも活躍している例があるからだ。

 さらにiPhoneの一件に代表されるような、海外端末の韓国進出の難しさがある。今のままでは、世界的に人気の携帯電話を使ってみたいという韓国ユーザーの思いは実現しない。また、飽和状態の市場に刺激を与えるという意味でも、新たな海外端末の登場は効果的だ。特にW-CDMA規格で世界展開をしているSKTやKTFは、さまざまな端末を導入して自社ユーザーを増やしたいという思いが強いようだ。

 さらに海外端末が大量に入ってくるようになれば、携帯電話の価格も一部で“下がるのでは”という期待感もある。国会議員のピョン・ジェイル氏は、韓国政府の放送通信委員会業務報告の場で「(WIPIが)かえって外国の安価な携帯電話が入りにくくし、消費者の負担を増やしている。なぜ私たちは50万ウォン(約4万6800円)、70万ウォン(約6万5500円)の携帯電話を使わなければならないのか」と主張した。世論がWIPI義務化廃止に傾いている今、政府もこれを一考せざるを得ない状況だ。

放送通信委員会も前向きに検討中

 8月下旬、放送通信委員会は、SKT、KTF、LGTのケータイキャリア3社と、その他KTなどの通信会社、計8社のCEOを集めて懇談会を開催し、WiBroの音声通話機能搭載、キャリアの過度なマーケティング競争など、現在考えるべき問題について討議した。

 ここでとくにWIPIについて強く主張したのはKTFだ。同社では「WIPI義務搭載制度は、その政策目的を十分に達成したため、グローバルトレンドに合うよう、一刻も早く規制を緩和してほしい」と要請している。

 これに答える形で放送通信委員会も、WIPI義務搭載廃止を前向きに検討している。ただし結論が出ていない今では、廃止が現実的なものかどうかは断言できない。iPhone 3Gも、この秋の韓国上陸説はあるが、これも放送通信委員会の決断如何によっては実現しない可能性もある。

 WIPIは、自国企業の便宜をはかり、保護する目的もあるものではあるが、携帯電話がすでに国際的な事業になっている今、内向き/過保護のままでは淘汰や発展も期待しにくい。WIPI搭載義務だけでも廃止するといった思い切った政策は、やはり必要かもしれない。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。弊誌「韓国携帯事情」だけでなく、IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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