一足お先にケータイコンシェルジュ、始めます――「CLON」、対話型エージェントサービス開始

» 2008年10月07日 22時54分 公開
[後藤祥子,ITmedia]
Photo CLON labの代表取締役社長を務める中山小百合氏

 “何かをする”ためのケータイから“何かをしてくれる”ケータイへ――。こうした、個人のニーズを汲んで最適なサービスを提供するという、ケータイ向けエージェントサービスが注目を集めている。

 通信キャリアもケータイ向けエージェントサービスの導入には前向きで、さきに開催されたCEATECの基調講演でも、ドコモの辻村清行副社長やKDDIの伊藤泰彦副社長が、その導入に言及している。

 この注目のサービスを、通信キャリアにさきがけて展開しているのが、CLON labだ。同社はこの4月に、対話型コミュニケーションサービス「CLON」をスタートし、“対話を通じてユーザーの好みを把握する”取り組みを開始。10月7日から、サイトに「対話エージェント機能」を搭載し、本格的なエージェントサービスの提供に踏み出した。

 CLONのユニークさは、日々のやりとりを通じてユーザーの趣味嗜好を把握し、それに基づく“1人1人に最適な”レコメンドの提供を目指している点にある。

 CLONのサイト内には利用者の分身となるアバター「クロン」が住んでおり、サイトにアクセスするとさまざまな質問を投げかけてくる。利用者がそれに答えると、その回答に含まれるキーワードがサーバに蓄積され、そのキーワードに基づくレコメンドがユーザーに返ってくる――という仕組みだ。

 サービス開始当初は、クロンがユーザーと交わした会話をベースに作成する日記や、他のユーザーの回答を見ることができるBBSなどといったシンプルなサービスでスタートしたCLONだが、10月7日には新たに「対話エージェント機能」を搭載し、クロンとの対話から得た個人の好みを反映したレコメンド情報の配信を開始した。

なぜ今、ケータイ向けエージェントサービスなのか

 「Googleの調査によると、ケータイからインターネットにアクセスする目的は、検索がトップ。しかし、モバイル検索にはさまざまな課題がある」――。こう話すのは、CLON labの代表取締役社長を務める中山小百合氏だ。

 知りたいことを検索する場合、画面の小さな携帯電話は必要な情報にたどり着くまでにスクロールや改ページをする必要があり、複数の情報を比較しづらいという弱点もある。そのため、すきまのちょっとした時間に情報を探しづらいのが現状だ。

 求める情報にたどり着くためには、ボキャブラリーや検索技術が必要になるというハードルがあり、「必要な情報だけを集めるサービスを提供すれば支持が得られる」(中山氏)と考えたことが、サービスを開発するきっかけだったと中山氏は振り返る。

 そして検索技術やリテラシーを問わず、ユーザーが必要とする情報を提供する手段を検討する中で生まれたのが、対話形式のコミュニケーションを通じてレコメンド情報を配信する「対話エージェント」というわけだ。中山氏は同サービスで「モバイルにおける情報のコンシェルジュを目指す」と意気込む。

Photo 従来型のレコメンドサービスとCLONのレコメンドサービスの違い

Photo 対話エージェントの利用フローとサービスの特徴


対話エージェントで、こんな情報配信が可能に

 CLONが実現するエージェントサービスは、サイト内に住む分身の「クロン」との会話を通じて提供される。

 サービスイメージは、例えばある日のクロンとの会話で「好きな食べ物はバナナ」と答えると、その情報がサーバにインプットされる。別の日の会話で「今の関心事はダイエット」という情報がインプットされると、「バナナ」と「ダイエット」を関連づけた「バナナダイエット」に関する情報が配信される――という具合だ。

Photo サイト内に住む自分の分身「クロン」との会話を重ねることでユーザーの好みが蓄積され、それが配信情報に反映される

 このように、クロンとの会話を重ねれば重ねるほど、サーバ側のキーワードが増え、個人に最適化したレコメンドを得られるのが同サービスの特徴となる。

 CLONでは、キーワード同士のマッチングだけでなく、ユーザーの属性や位置情報、時間などをからめて解析した、きめ細かいレコメンド情報の配信を目指すとしている。


“画一的”なレコメンドから、“ひとりひとり”のレコメンドへ

 CLON labは、情報のレコメンドエンジンとしてブログウォッチャーが開発した「嗜好学習型エンジン」を採用しており、これが従来型のレコメンドサービスにはない、“1to1ターゲティング”を可能にするという。

 同エンジンの開発を手がけたブログウォッチャー 代表取締役社長の羽野仁彦氏は「(従来型の)多数派のレコメンドではなく、1人1人に合わせたレコメンドが可能になる」と胸を張る。

 CLONサイトではアクセスしたユーザーそれぞれの行動履歴を取得しており、(1)ユーザーが見たコンテンツや会話のキーワードを学習するエンジン(2)学習モデルを作り、そのモデルを使ってレコメンドするエンジン の2つでレコメンドを行う。

 従来型のレコメンドは、サイトにアクセスしたユーザーの行動履歴や購買履歴をベースにレコメンドを組み立てるといった方法で成り立っており、例えばAが1と2の商品、Bが1と2と3の商品、Cが2と3と4の商品を購入した場合、1と2の商品を買った人には3と4の商品を勧める――といった手法が基本だったと羽野氏は指摘する。

 これに対し、嗜好学習型エンジンは、条件AとBをプロットしたときに、“このへんの条件は好きで、このへんの条件は嫌い”という好みの境界線をうまく作ることで、好き嫌いを判別する仕組みを採用している。この嗜好曲線を、個々のユーザーに対して作るため、「例えユーザーが1人しかいなくても、精度の高いレコメンデーションが可能になる」(羽野氏)というわけだ。この嗜好曲線は、ユーザーが日々アクセスするCLONサイト内の行動の蓄積で精度が高まり、ニュースやコラムなどのレコメンドも可能になるという。

Photo 従来型のレコメンドエンジンとCLONの学習型レコメンドエンジンの違い(左)。CLONに採用されたエンジンは、学習することでレコメンドの精度が高まる(中、右)

Photo 嗜好学習型エンジンの仕組みとレコメンデーションの仕組み

対話エンジンのASPモデルも

 CLON labでは2007年末から2008年にかけて、対話エージェント機能を生かした3つのビジネス展開を予定している。1つは、CLONサイト内の施策で、ユーザーの分身である「クロン」を自分の好みに合わせてカスタマイズする、ユーザー課金モデルの導入。2つ目は、CLONサイトへの広告モデルの導入だ。「グルメや通販などの情報提供企業に対し、クロンを通じて成果報酬型の情報提供やターゲティング広告という形で情報を提供してもらい、ユーザーにプッシュする。既存のモバイル広告はバナー広告が中心となっているが、CLONは1to1マーケティングを実現できるので、高性能なモバイル広告が実現できる」(中山氏)

 3つ目が、CLON labとブログウオッチャーの両社がパッケージ化した対話エンジンを企業に提供するASPモデルだ。「対話エンジンは、ユーザーの潜在的なニーズを吸い上げて情報をプッシュできるので、潜在ユーザーへのアプローチが可能になる」(中山氏)

 中山氏は、今後のロードマップについて、「年内は基本システムの構築に集中的に投資し、年末から年明けにかけてユーザーの反応を見ながら機能を追加。2010年に向けてユーザーのニーズを吸収してサービスを多角化し、将来的には保有する大量のIDを元に、あらなたビジネスを展開する」と説明。CLONのサービスについては、年末までに累積ユーザー200万人の獲得を狙い、2008年4月には400万人、2010年4月に1000万人突破を目指すという。

Photo 今後はユーザー課金(BtoC)、広告モデル(BtoBtoC)、ASPモデル(BtoB)の3つを柱に事業を展開

Photo パッケージ化した対話エンジンを提供するASPモデルもラインアップする

Photo CLON labの今後のロードマップ。将来はPCやテレビ、ゲーム機などへの搭載も目指す


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