子育て論にすり替えられるケータイ規制:小寺信良「ケータイの力学」

» 2010年04月05日 17時29分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 今日本で一番ハードウェア的な進化が激しいのは、おそらくデジカメとケータイであろう。特にケータイはiPhone 3G/3GSのブレイクにより、いわゆる“ガラパゴスケータイ”(ガラケー)と呼ばれる日本独自仕様のケータイと、ワールドワイド対応のスマートフォンが同じ土俵で語られるようになってきた。かつて国産のスマートフォンなど考えられなかった状態から考えれば、ここ1年ぐらいで劇的に事情が変わってきたのを感じる。

 普段AV機器ばかりを扱っている筆者が、ケータイの話をするのは変な感じがするかもしれない。しかし元々ガジェット好き、スマートフォン好きなので、過去使って来たケータイは、京セラ「AH-K3001V」、Nokia「702NK」、シャープ「W-ZERO3」、シャープ「インターネットマシン 922SH」と、あんまり普通とは言えない機種ばかりである。

 現在も922SHを使い続けているが、まだiPhoneを使っていない理由は、子どもとケータイの関係が社会問題となっているから、という面が大きい。普通のケータイじゃないと、子どもが見に行くようなサイトや、ケータイというハードウェアの特性が見えてこないから、なかなか変えられないのである。

身近な問題としての“子どもとケータイ”

 そもそも子どもとケータイの問題が大きくクローズアップされたのは2008年春頃、「青少年ネット規制法」こと、「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」の法案がリークされて以降のことである。当時この法案では、青少年にとって何が有害で何が無害なのかを、内閣府内に設置される委員会が判断することになっていた。すなわち、国による一種の検閲である。

 今にして思えば、これがよく止まったなと冷や汗をぬぐわざるを得ない。「規制」とは力関係を産むものであり、そこには大抵利権が発生するので、強力に推進しようという力が働く。しかし安易な規制は、憲法の条文に込められた自由への思いに反する。これをきっかけにして、インターネット、ケータイ、子ども教育に係わる事業者・関係者が初めて、横につながり始めた。

 この連載では、現代のケータイおよびネットにおける表現規制、そして子どもとケータイの関係について、さまざまな事例を紹介しながら考えていきたい。

なぜ、検閲してはダメなのか

 日本という国は、特に日本国憲法第21条が重要視される。

日本国憲法 第3章 国民の権利および義務

 第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

 2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。


 この部分である。例えば「通信の秘密」は、ネットの検閲としてよく話題になる部分だ。海外でも同様に通信の秘密に関する規定はあるが、その基本はプライバシー権にある。しかし日本の場合、かつて言論、出版、表現の自由が侵害されたために世界大戦へ道を誤ったという苦い経験がある。日本における「通信の秘密」は、憲法に記載され、言論や表現の自由に裏付けされた、世界にも類を見ない強い権利となっている。逆に言えば、これが今のCool Japanと世界から評価される表現を形作っているとも言える。

 子どもに見せてはダメなものを決めるのは、誰か。この重要な決定権を持っているのは、親である。筆者が小さい頃、もっとも問題視されていたのはテレビであったわけだが、ドリフターズの「8時だヨ!全員集合」を見せるのは、PTA的には好ましくないとされていた。下品で、暴力的で、食べ物を粗末にするから、というのが理由であった。

 しかしドリフターズの笑いとは、いわゆる行儀や常識という枠をいったんコントの世界内で規定した上で、そこからはみ出してしまう加藤茶や志村けんがおかしかったわけである。つまりそれを見たからといって、子どもから行儀や常識の枠が無くなってしまうわけではない。もしそれがなくなっていたら、子どもはドリフを見て笑えないわけである。

 あの時代から30有余年を過ぎ、当時の子どもが親になった。あの時の親と子どもの感覚には、相当のズレがあったわけだし、今も昔も親子間のズレは、連綿と続いている。

 今、子どもに見せてはダメなコンテンツとは何かという具体的な議論を置いて、いかに「有害情報」を見せないか、という方法論に注目が集まっている。子どもには枠の外側を見せないほうが、本当にいいのだろうか。

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