インタビュー
» 2016年10月14日 14時55分 公開

山小屋にも快適な通信環境を――「富士山 Wi-Fi」実現の舞台裏 (2/2)

[田中聡,ITmedia]
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ビームフォーミングで効率よく電波を飛ばせる

富士山 Wi-Fi ラッカスワイヤレスジャパンの小宮博美氏

 富士山 Wi-Fiで使用するアクセスポイントは、ラッカスの製品を採用している。これはWi2が展開している「au Wi-Fi SPOT」や「TRAVEL JAPAN Wi-Fi」と同様で、Wi2のサービス全般にラッカスの製品が多く使われている。ラッカスの製品を採用する理由として橋本氏は「カバレッジが広く、ユーザーがたくさんいても、満遍なく電波を届けられること」を挙げる。「特に富士山の山小屋は、混雑しているとすし詰め状態になりますが、そのような人口密度が高いときでもしっかり使えます」と語る。

 ラッカス製アクセスポイントのカバレッジが広いのは、電波を飛ばすアンテナに秘密がある。他社のアクセスポイントは、電波を360度飛ばす「オムニアンテナ」を採用したものが多いが、ラッカス製品ではパケット単位で飛ばす方向を絞る「ビームフォーミング」を採用している。全方位に電波を飛ばすオムニアンテナだと、スマートフォンのない無駄な場所にも電波を飛ばしてしまうが、ビームフォーミングなら、スマートフォンだけを狙って効率よく電波を飛ばせるというわけだ。

富士山 Wi-Fi ビームフォーミングなら、スマートフォンに向けて、集中して電波を飛ばせる

 「電波は波で飛んでいきますが、原理は『声』と同じです。その人の方を向いた方が、同じ声の大きさでしゃべっていてもよく聞こえます。同様に、よく聞こえるように端末の方向に向かって電波を出すと、端末は確実に受信でき、高速で再送の少ない通信ができます」と小宮氏は説明する。

 さらに、ラッカスのアクセスポイントに搭載しているアンテナは、棒状ではなく基板になっており、基板のどの素子を使ってどの方向に電波を飛ばせるかを、パケットごとに調節できるという。「(クライアントであるスマートフォンの)方向を覚えて、どの電波が一番良いかを、計算ではなく既に登録されているパターンから選びます。例えばスマホの角度が変わると受け取り方が変わることも、パターンの使い分けで最適化しています」(小宮氏)

 YouTubeで動画を視聴するなど大容量の通信をする人に対しても、SNSでテキストを投稿するなど小容量の通信をする人に対しても、均等にパケットを流す。「通信の量は関係なく、1パケットでも最適なものを投げるようにしています。近くの人には高い通信レートでたくさんのデータを飛ばせますが、遠くの人は通信レートが低下してしまい、結果論として同じ時間を使ってもデータ量が減ってしまいます」(小宮氏)

 ラッカスは電波のコントロール、端末を追従するアルゴリズムなどに関して、約30の特許を取得している。これらの技術がベースになって、富士山 Wi-Fiでは山小屋でも快適な通信環境を提供できたというわけだ。

 ただしビームフォーミングが有効になるのは下りの通信のみ。「以前は8割が下りの通信でしたが、例えば富士山の場合、山頂で御来光(日の出)の写真を撮るときに(SNSなどへの)アップロードが増えるので、上りの方が多くなるでしょう。そこをどうオプティマイズするかが現在の課題です」(小宮氏)

 橋本氏によると、実際に富士山の登山中に出会った訪日外国人の中には、通信手段がないために、道に迷ったり、仲間とはぐれてしまったりした人がいたという。通信手段を確保することのメリットは、実はこうしたトラブルを防げることが最も大きいのではないだろうか。富士山 Wi-Fiを2017年以降も展開するかどうかは「(山梨と静岡の)県の意向次第」(橋本氏)だが、訪日外国人と日本在住者の双方に大きなメリットがあるので、ぜひ継続してほしいと思う。

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