日本が世界に誇る戦艦「大和」。その最高速度は27ノット(約50km)であった。どのフネにも速度の限界はあり、そこから先は搭載兵器で勝負する。戦艦大和の武器は約1.5トンの砲弾を40km先まで飛ばす主砲だった。東京から横浜を超えて大船あたりまで届く距離だ。
AppleのiPhoneがさまざまな意味で世界最高峰であることは多くの人が認める。最新技術の粋を結集した小型電子機器の頂点であり、価格も同様だ。乗り物でいう「最大速度」に達したといえるだろう。販売価格上昇にも限度があるし、現在利用可能な機能はほぼフル装備だ。これはAppleだけでなく、韓国Samsung Electronicsや日本のソニーモバイルなど、多くの高級スマホメーカーの到達点でもある。
その中で、Appleが勝負に出た「新兵器」にはどんなものがあるか、分解しながらご案内する。
日本で発売された「iPhone 8」と「iPhone 8 Plus」に初めて搭載された電子部品にMEMS(Micro Electric Mechanical System)ベースのタイミングデバイスがある。タイミングデバイスとは、ICの動作周波数や無線通信の交信周波数を定義する役割を持つ。さまざまな部品を調和よく動作させる指揮者のような存在だ。2016年までこの部品は水晶をベースにしたものだったが、2017年からMEMSベースの製品1個が採用された。米国カリフォルニアに本社を置くSiTime(2014年に日本のメガチップスが買収した)の製品である。
MEMSの利点は、ICと同じくシリコンで作るため、ICのモットーである大量生産や小型化がしやすい点である。事実、iPhone 8/8 Plusに搭載されたMEMSベースのタイミングデバイスを水晶ベースの部品と比較すると、横幅はほぼ同じだが、縦サイズはMEMSの方が半分強だ。現在は水晶より値段が高いなどの難点もあるが、採用製品が増えるにつれて価格も下がり、課題の1つとされている精度も次第に向上するだろう。
ワイヤレス充電はコードレスで充電できる便利な機能だ。これまでのiPhoneはボディーがディスプレイ面を除き皿のようなアルミ合金で覆われていたため、ワイヤレス充電は使えなかった。Appleがワイヤレス充電を搭載するために行った設計変更は、まさに「大規模工事」といえる。従来は一枚皿だったところを、iPhone 8/8 Plusでは、ボディー周囲を巡る「フレーム」、電子部品を固定する「底板」、そして背面の「フタ」に分割した。
iPhone 8/8 Plusのフレームにはアルミニウムが使われている。底板は、薄いステンレス板にワイヤレス充電アンテナ用の穴を空け、強化ガラスでフタをした。製造原価については諸説あるが、原価は50米ドルといわれている。アルミ合金製ユニボディーと比べるとアルミ合金の面積や加工エリアは減り、より安価なステンレス板や強化ガラスが使われているため、安くなったという見方がある一方、部品が増えれば組み立てコストが増すため、あまり変わらないという見方もある。
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