モバイル市場の「あるべき姿」とは? 総務大臣政務官 小林氏と野村総研 北氏に聞く(2/3 ページ)

» 2018年06月19日 00時00分 公開
[石野純也ITmedia]

優良誤認のCMは規制すべき

モバイル市場の公正競争 野村総合研究所のコンサルティング事業本部パートナー 北俊一氏

―― 報告書を見ると、消費者保護の観点では、MNOだけでなく、MVNOにも適用した方がいいような内容のものもありました。対象がMNOだけでよかったのでしょうか。

北氏 検討会の建付けとして、MVNOからの苦情や陳情を軸に組み上げてしまい、MNOにも来ていただきましたが、防戦一方でした。そこはMVNOについてもやればよかったと思っていて、次の課題です。例えば、最後の方で私も発言しましたが、1480円や1980円、タダなど、最安値を連呼する有利誤認的な広告がありますが、これはサブブランドが目立つ一方、MVNOの中でもやっているところはあります。広告のガイドラインが形骸化しているので、サブブランドだけ、MVNOだけというのではなく、全社でやるべきだと思います。

―― その広告に関しては、どこに問題があるとお考えでしょうか。

北氏 「ピュアなMVNO」「サブブランド」「MNO」というように、本来、価格帯は3層あるはずですが、今はサブブランドが最安値を連呼している状況です。実際には光と一緒に契約したり、特定の端末だとその値段になったりと、いろいろな条件をかませてMVNOと料金が同じように見えてしまう。私は、ここに問題があると考えています。

 UQ mobileもY!mobileも1480円と言っていますが、みんながその条件で契約しているかというと、そんなことはありません。もっと上のプランで契約している人も、たくさんいます。

 サブブランドは、MNOと同じぐらいつながる(速度が出る)のに、MVNOと同じぐらい安いというのは、ウソがあります。つながるから、MVNOよりは高い。それがネットワークの価値で、価値をマーケットに訴求してほしいのに、それを自ら否定して、値段の一番安いところだけを言っています。今回、(報告書を受けたガイドラインで)有利誤認的なCMをしっかり規制することで、3層がすみ分けられることを期待しています。

モバイル市場の公正競争
モバイル市場の公正競争 Y!mobile(上)とUQ mobile(下)は、月額料金を1480円〜と紹介している

―― 逆に、接続料に関しては、あまり報告書に言及がなかった印象もあります。

北氏 今の接続料の算定式は確立されたものがあり、工夫に工夫を重ねてそれなりのものが出てきています。ただ、過去数年を見ると、どんどん下がっていて、いよいよ下げ止まり感もある。この算定式で下げようとすると、かなり限界が近いなかで、どうするのかという議論までは突っ込むことができませんでした。それをどうするのかという、接続料そのものの新しい考え方は、また有識者を集めてやらなければならないと思います。恐らく、2〜3年がかりになるかもしれませんが、時間がかかるからやらないのではなく、時間がかかるからこそ早く着手すべきだ考えています。

小林氏 借りる側からすれば安いに越したことはありませんが、どこまで安くするのかという問題もあります。MVNOは今の接続料を前提に参入してきていますし、借り始めてから安くなってもいます。その中でも、やれている人がいる一方で、退出している人もいます。

端末購入補助が多くても幸せにならない

―― 報告書には、端末購入補助の規制をより厳格にするお話も盛り込まれていました。この背景を教えてください。

北氏 まず、端末購入補助が実はあまり減っていないという現実があります。確かに、ものすごいキャッシュバックはなくなりました。ものすごいというのは、一括0円+10万円キャッシュバックのようなもので、これは影を潜めましたが、今でもiPhone 8ですら一括0円ということはあります。これでは、ほとんど変わっていない。むしろ元に戻ったというのが最初の認識です。

 お金の流れはけっこう変わっていて、キャリアが直接キャッシュバックを付けるのは、電気通信事業法で律することができていました。ただ、いろいろな支援費を使って代理店が安く売る、販売店独自値引きでガイドラインを潜り抜けるところが出てきました。そこには、キャリアの指示があるのかもしれない。今回は、実質的に指示をすると業務改善命令になるということを盛り込むことができました。

 ガイドラインを改正し、かつ公正取引委員会ともうまく連携できれば、ダブルで端末補助金を縮減できます。とはいえ、せっかく補助金が縮減できても、それがそのままキャリアの利益になるのでは話になりません。単なる焼け太りです。そこはしっかりウォッチして、ユーザーに還元されていることを示さないと、これまた意味のないことになってしまいます。

―― 端末購入補助の話は、MVNOとの関係性というお話の中では、どう整理されているのでしょうか。また、ガイドラインが出て以降、解約率も低下しており、競争が沈静化している感もあります。ここについては、どうお考えでしょうか。

北氏 これは、MVNOからの苦情もありました。体力のある3つのMNOが、ユーザーを獲得するのに10万円も15万円もコストをかけている。一方で、小さなMVNOが調達できたとしても、一括0円にはできるわけがありません。ここには、一定のルールを作らないと(MVNOの)勝ち目がなくなってしまいます。

小林氏 その方がフェアですよね。(端末購入補助が多いのは)誰にとっても幸せではありません。長く使っている人から得た利益が、新しく端末を買う人に使われていて、そのお金はメーカーに流れていきます。一般的なユーザーからすると、長く使っていたら割引がある方がうれしいですし、この国の状況を考えても、より付加価値の高いものを求めるのが一般的です。今は、買う時間と機会、知識がある人だけが得をする形になっています。

北氏 その結果、この業界は今まで、釣った魚に餌をやらない代表格のような業界になっていました。お客さんを獲得するときだけ必死になって、それだけに関心が向いてしまっていました。ガイドラインがしっかり機能してくれば、今のお客さんにどれだけしっかり還元をしているかの競争になり、結果として解約率は下がっていくでしょう。(解約率が低くなれば)MVNOには厳しいかもしれませんが、大金でユーザーを取り合う競争と、難しいが新しいサービスや付加価値で客を取り合う競争であれば、後者の方がよっぽど健全ではないかと思います。

小林氏 競争のステージを変える必要があるのではないでしょうか。成熟したマーケットは、次のステージに移らなければなりません。MVNO、MNOもそうですし、代理店にとっても、戦う上では選択肢は広い方がいい。その意味では、中古端末が入ってきた方がユーザーにとっても選択肢が広がることになります。

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