なぜ貼るタイプなのか? H.I.S.モバイルと日本通信に聞く「変なSIM」の狙いMVNOに聞く(2/3 ページ)

» 2018年08月10日 06時00分 公開
[石野純也ITmedia]

SIMの抜き差しはハードルが高い

―― 当初の発表にはありませんでしたが、なぜ貼るタイプを出すことにしたのでしょうか。

猪腰氏 日本人は、SIMカードの抜き差しってしないじゃないですか。海外でSIMフリー端末が流通しているところだと、皆さんピンを持っていてバンバンSIMカードを入れ替えていますが、私も含め、旅行会社の人間ですらピンも持っていなければ、「SIMって何?」という状態です。抜き差しする段階で、既にハードルが高いんですね。

 海外での通信手段を見ていくと、一般的に5割ぐらいがレンタルのWi-Fiルーターで、3割ぐらいが国際ローミング、残りの2割ぐらいが現地のSIMカードや無料のWi-Fiだけで済ますというというものです。ただ、Wi-Fiルーターはそもそも2台持ちになってしまって不便で、かつ値段が安いものもあれば、高いものもあります。

 一方で大手通信事業者の国際ローミングは今でこそ980円のプランも会社によってあったり、なかったりという状態ですが、あっても申し込み制だったり(注:ドコモの場合、パケットパック海外オプションは事前の申し込みが必要)、2980円の定額プランも残っていたりで分かりづらい。また、対象国以外だと、通信量が青天井になるリスクも残っています。ちゃんと調べれば980円で済みますが、なぜ使われないかというと、「シンプルじゃないから」ではないでしょうか。

 貼るタイプであれば、作業は1回だけで済んで、後は使うときにアプリで切り替えるだけです。その使い方に魅力を感じました。国際ローミングを使うのと全く同じように、自分のケータイがそのまま使えるわけですから。中に挿して使っていただければ、ローミングの利便性と値段の安さを両立できます。一律500円なので、値段がばかみたいに高くなることもありません。これは、いいとこ取りをしたツールだと思っています。

変なSIM 渡航前に行き先を選択し、利用日数を選択する形でプランを購入。現地ではアプリから「変なSIM」に切り替えれば通信ができる

―― これは、日本通信が5月に発表したサブSIMだと思いますが、そこから採用までは早かったですね。

福田氏 金融庁が5月31日に発表しましたが、2月の段階では既に計画していて、話も詰めていました。ただ、金融庁が発表しないことには出せないという状況がありました。このタイミングで変なSIMを貼るタイプにしたのは、猪腰さんの強い押しがあったからです。「普通の人はSIMを変えるなんてことは絶対にしない。最初からこれをやる」と、とにかくしつこかった(苦笑)。最終的にはユーザーメリットも大きいということで、提供を急ぎました。

貼るSIMの仕組み

変なSIM 日本通信の福田尚久社長

―― 改めてになりますが、技術的にはどういうものなのかをご説明いただけますか。

福田氏 薄い形のプラスチックSIMですが、仕組みとしてはeSIMそのものです。例えば、6月には香港に行ってテストをしてきましたが、そこでプランを買うと、香港の認証情報が飛んできて、SIMカード内部に書き込まれます。それを複数行えるので、まずはここで使って、次の国の分も買っておいてということができます。

―― eSIMはGSMAの標準にのっとったものという理解でよろしいでしょうか。

福田氏 ほとんど標準のままですね。

―― 貼って切り替えるのは、どういう仕組みですか。

福田氏 SIMカードスロットとは何かというと、ICカードリーダーの一種です。その認識に立つと簡単に理解できます。SIMカードはUICCの1つで、クレジットカードやキャッシュカードと同じで、書かれている情報が違うだけです。そこを読み取るための標準は同じで、どこに何が書かれているのかは決まっています。

 メインのSIMを使っているときには、単なる平べったい導線として機能するだけになり、電気信号をスルーパスするだけです。サブSIMを使うときは、そちらが読み取られる形になります。両側のインタフェースが決まっているので、読み取るかスルーするかを端末側で決めているだけですね。

―― これは、日本通信が海外に持っているHLR/HSSを利用しているという理解でよろしいでしょうか。

福田氏 コアネットワークはフルに使っています。SIMカードに情報を書きに行く権限を得るには、TSM(Trusted Service Manager)が必要になります。業務委託先ではありますが、そちらがTSMを持っていて、そこと契約することで実現した国が75ぐらいでした。国や地域はもっと広げていきたいのですが、それに対応してもらえるところでなければなりません。仕組みをサポートできるキャリアでないとできないという課題はありますが、かなり広がってきているので、大丈夫だと思います。

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