こうした中で登場してきたのが、IoTセキュリティをサービスとしてしまうビジネスだ。現在はまだ家電や監視カメラなど比較的限定された製品での展開が多いIoT機器だが、今後はさまざまな企業が独自の機器を開発し、おのおのの目的に沿ったアプリケーションを記述してデータを日々収集したり、遠隔で制御したりすることが増えてくる。
ただ、これらは市販品と比べて展開される機器の数も少なく、開発にかけるリソースの比重の問題からセキュリティ対策が必ずしも万全ではない可能性があり、被害の拡散が少ない反面、攻撃に対するリスクは高いといえる。
稼働するアプリケーションも日々のデータの収集だけでなく、重要なインフラ制御にまつわるものだった場合、インターネット上の障害だけでなく社会的な混乱や大きな被害をもたらす結果になるかもしれない。
IoTのセキュリティ対策を盛り込んだソリューションは、大手ITベンダーも提供し始めている。米Microsoftが2018年春に発表した「Azure Sphere」は、IoT機器制御用のチップとOS、セキュリティ対策を含むクラウドとの連携を助けるサービスまでを含めた「三位一体」のソリューションだ。
同種のサービスには米Amazon.comの「FreeRTOS」のようなものもあるが、IoTはクラウド連携が重要である一方で、ここがセキュリティホールとなる可能性が高いことも示している。
例えば、IoT機器はリモートでの初期化やアップデートのために、いわゆるOTA(Over The Air)的な仕組みが組み込まれていることが多いが、この仕組みを悪用することで機器の乗っ取りを成功させるケースがある。
今後IoTで「eSIM」のような組み込み型SIMに契約情報を書き込んで携帯キャリアのネットワーク経由でインターネット接続を実現する場合、これを利用した攻撃手法の議論も行われている。
もし、こうしたセキュリティ対策を全て信頼できるベンダーに丸投げし、自身は業務に必要なアプリケーション記述のみに注力できれば、効率がよく、サービスを提供するベンダーにとってもユーザー企業にとってもWin-Winの関係となるのではないだろうか。
5Gの展開は、2020年以降に本格化する。3G以前との大きな違いはベースネットワークとして4G LTEを引き続き活用していく点で、5Gはこれに対してSub-6やミリ波といったより高い周波数帯域の無線ネットワークを重ね、帯域を増やすことを前提としている。
そのため、米Verizon Wirelessなど3Gの早期停波を表明している携帯キャリアであっても、当面はLTEが併存し、面展開にはLTEを、都市部など通信需要が逼迫(ひっぱく)するエリアには重点的に高周波数帯域でのネットワークを重ねて帯域を増やす。
5Gでの進化は、下り最大20Gbps以上、上り最大10Gbps以上というデータ通信の高速化、大容量化だけにとどまらない。IoTの普及を想定した「多接続」という特徴もある。1平方キロメートル当たり100万台の端末を同時接続できる(LTE-Advancedは1平方キロメートル当たり約6万台)ため、近い将来、膨大な数のIoTデバイスが利用されるようになっても、通信パフォーマンスへの影響は出にくくなるわけだ。
「レイテンシ(通信の遅延時間)」も重要で、エンド・ツー・エンドの通信でLTEは数十ミリ秒程度だったものが、5G世代では数ミリ秒以下、場合によっては1ミリ秒(0.001秒)以下というパフォーマンスを実現する。
5Gの世界で何が変わるかといえば、ネットワークに乗ってくるアプリケーションの種類が一気に増える。従来はWebカメラのような監視システムやセンサーのモニタリング、一部機器の遠隔制御程度で利用されていたものが、社会インフラの多くを5Gで置き換えることが可能だ。
帯域が増えてカバーエリアが充実すれば、街中のサイネージの変更から信号制御まで、これまで有線やオフラインで行っていた仕組みを無線ネットワークで置き換えられる。有線の工事やメンテナンス費用も低減できるため、制御機器の多くに加えて、これまでラストワンマイルと呼ばれていた基幹通信網から各家庭やオフィスへのネットワーク配線を5Gで置き換えることができるだろう。
レイテンシの低減による高速レスポンス化は、さらに新しい可能性をもたらす。自動運転における制御や、工作機器などの遠隔操作、遠隔での手術や医療行為を可能にするなど、公共施設や人員の移動に関する制限を取り払う。
特に、物流に革命をもたらすといわれている自動運転トラックの世界は、欧米で激しい競争が進んでおり、2020年までには数千台のトラックが路上を駆け巡ることになるという予測もある。
これらは全て物流や人員配置に関わるコストを下げることにつながり、より良質なサービスを低コストで提供することが可能になるだろう。Industry 4.0と呼ばれる工場の自動化や品質管理まで、5Gが工場内部のネットワークへと進出することでより現実的なものとなる。
一方で、それまで閉じた世界だった産業機器やインフラが無線ネットワーク接続されることで、ハッキングの脅威に直面する機会も増大することになる。
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