大手3キャリアの第3四半期決算が出そろった。売上高、営業利益は3社とも増収増益。ドコモやKDDIは通信料収入を示すARPUが落ちているものの、ドコモ光などの固定回線や非通信領域が成長してこれをカバーした。ソフトバンクは契約者数を伸ばし、増収増益。ソフトバンクとして上場後、初の四半期決算で好成績を収めた格好だ。
4月から12月までの累計では、ドコモが売上高3兆6541億円、KDDIが3兆7716億円、ソフトバンクが2兆7766億円。営業利益は、それぞれ9020億円、8224億円、6349億円と、いずれも増収増益だ。ただし純利益については、ドコモが6075億円と、前年同期比で12.9%の減益。これは、前年同期に、インドのタタ・グループから仲裁裁定金を受け取っていたためで、一時的な落ち込みといえる。
3社とも決算の数字だけを見ると好調と総括できるが、来期には官邸の意向を受けた“料金値下げ”が待ち構えている。仕掛けたのはドコモだが、KDDIやソフトバンクもこれに追随する方針で、好業績を維持できるかは不透明な状況だ。ここでは、決算説明会で見えてきた3社の現状と今後の見通しをまとめていきたい。
増収増益を果たしたドコモだが、通信料収入は下落傾向にある。1ユーザーからの収入を示すARPUは4830円と前年同期の4750円より増加した一方で、モバイル通信サービスは197億円の減益。この落ち込みを、ドコモ光や決済やサービスなどのスマートライフ領域でカバーした格好になる。「第3四半期の中でウェルカムスマホ割や学割を早めに出し、シンプルプランやベーシック(シェア)パックを入れた影響が出てきている」(吉澤和弘社長)というのが、その理由だ。
ドコモはユーザー還元の施策として、さまざまな料金改定を“小出し”にしてきたが、この影響がじわじわと収益に効いていることがうかがえる。「今やっている還元策がさらに深まってくるので、モバイル通信料収入そのものは、第4四半期も落ちてくる」(吉澤氏)見通しだ。
さらに、来期は新料金プランの導入による大幅な減収も懸念されており、先行きが不透明だ。新たに導入するのは、通信料と端末代がひも付かない分離プラン。時期的にはドコモの発表の方がやや早かったが、これは総務省の意向に沿ったものといえる。現時点では詳細までは固まっていないが、「シンプルで分かりやすく、お得を感じさせるプランの設計に入っている」(吉澤氏)というのが大枠としての方針になる。
具体的な時期は、「早めにして、実施を第1四半期の後ろの方に持ってくることを考えている」(吉澤氏)。現行の料金プランである「カケホーダイ&パケあえる」が発表されたのは2014年4月。実施は6月だったが、これを踏襲する可能性が高い。4月に説明会を開き、実際のプランの申し込みや変更などができるようになるのは、夏モデルの発売と前後するというスケジュールになりそうだ。
この新料金プランの影響は、年間4000億円程度と予想されている。吉澤氏は「4000億円は必ずしも毎年というわけではない」と言うが、「新プランに入るお客さまが増えれば増えるほど、還元額は大きくなる」(同)。ピークは2020年になるとの予想だ。もっとも、そのまま4000億円分の減収になるわけではなく、「リカバーする」(同)こともあるという。
1つ目の理由が、「値下げによって、ドコモのお客さま基盤が拡大する」というものだ。料金が安くなることで、ドコモから他社のサブブランドやMVNOへの流出が少なくなれば、収入は減少を食い止められる。乱暴な言い方かもしれないが、10割減になるぐらいなら、4割減でもドコモ内に残ってもらいたいということだ。MNPの流動性は低下しているが、値下げのインパクトによっては、他社からユーザーを奪える可能性はある。
ユーザー数が安定することで、「非通信サービスをご提案していき、収益化の機会を増やしていく」(吉澤氏)こともできる。ドコモは、第3四半期の決算と同時にNTTぷららの子会社化を発表したが、こうした周辺領域の拡大によって、減収をカバーしていく方針だ。
また、4000億円はあくまで通信料収入に焦点を当てた数字でしかない。分離プランになれば、月々サポートのようないわゆる端末購入補助がなくなるため、差し引きすると、減収幅はさらに小さくなってくる。「お客さまから見たとき、ちょっと端末の値段は高くなる。基本的には“正価”で買っていただくようになる」(吉澤氏)ため、ドコモから見ると、端末を値引くためのコストが抑えられる。
一方で、仮に差し引きがゼロだとしても、端末購入補助がなくなると、どうしても初期費用が上ってしまったように見える。そのため、販売に大きなブレーキがかかることも予想される。ドコモも、「全体として総販売数はある程度落ちると思う」(吉澤氏)との見通しを立てている。分離プランで先行するKDDIやソフトバンクは、4年割賦と下取りを組み合わせたアップグレードプログラムを提供し、その影響を抑えているが、吉澤氏はこうした手法に対しては、「縛りがきつすぎる」と批判的だった。
では、ドコモは販売台数の落ち込みに対し、どう向き合っていくのか。1つの方針として考えているのは、ミドルレンジモデルの拡充だ。ヒントになるのが、docomo withだといい、吉澤氏は次のように語る。
「今、docomo withの端末を実際に4万円以下ぐらいでお出ししているが、そういったものを充実させ、かつそれを長く使っていただけるようにしたらどうなるか。買い替えの周期は少し長くなることも考えられるが、もっと(ドコモとして)サポートできることもあるのではないか。ミドルレンジ端末をもっとしっかり出し、フォローをしっかりして長く使ってもらう施策は、ぜひやっていきたい」
同時に、「フラグシップの端末をそれなりのお値段になるため、もう少し買いやすくできないかは考えていきたい」(吉澤氏)という。4年割賦には否定的だったドコモだが、新料金プランに合わせ、アップグレードプログラムを含めた何らかのサービスは検討しているようだ。
また、現状は緊急提言が出ている段階で、具体的なガイドラインに落とし込まれるのは「今年(2019年)の秋ごろまで」(吉澤氏)という見通し。端末購入補助が、どのレベルまで規制されるのかは不透明だ。
「フィーチャーフォンからスマートフォンへのマイグレーション(移行)を進めないといけないので、そういうようなこと(移行のための端末購入補助)は必要。また、世の中の商習慣という意味でも、1年、2年たった端末は必ずしも正価ではなく、割引をしている。どのぐらいの余地があるのかは、そういったもの(総務省や政府の意向)を踏まえてしっかり対応したい」
吉澤氏は「過度な端末購入補助のようなものにするつもりはない」と前置きしつつも、「全く購入補助がないのはありえないと思っている」と語っており、割引は一部残す意向を示している。
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