キャリアの脅威になる? IIJmioの「eSIM」が業界に与えるインパクト:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)

» 2019年07月06日 06時00分 公開
[石野純也,ITmedia]

 IIJは7月18日から、個人向けのeSIM対応データ通信サービスを開始する。当初はβ版という位置付けで、料金プランはデータ容量が6GBの「ライトスタートプラン(eSIMベータ版)」しか選択できず、対応端末もeSIMを搭載したiPhoneやiPad、Windows PCなどに限定されるが、オンラインで気軽に“2回線目”を追加できるのはユーザーにとって魅力的だ。潜在的には、MNOとMVNOの競争環境を大きく変える可能性もあるサービスともいえる。ここでは、そのサービス詳細や、市場に与えるインパクトを検証していきたい。

eSIM IIJは、7月18日から、iPhoneなどに対応するeSIMのサービスを開始する

手軽さが魅力のeSIMは、IIJにとっての“武器”になるか

 きっかけは、Appleの「iPhone XS/XS Max」だった。同モデルや、その後発売された「iPhone XR」は、携帯キャリアの業界団体であるGSMAが標準化したeSIMを搭載していた。eSIMは、端末に組み込まれた“空のSIMカード”のようなもので、ネットワーク経由でここに対応キャリアのプロファイルを書き込むことができる。「カードとしてのSIMと、中身のデータが分離されたことになる」(MVNO事業部 コンシューマサービス部長 亀井正浩氏)というわけだ。

 もともとIIJは、eSIMのサービスを主に法人やIoT向けと考えていたが、iPhoneの対応で風向きが変わった。2018年7月には、日本マイクロソフトと「Surface Pro LTE Advanced」を使った実証実験を開始。このプラットフォームを使ってiPhoneのeSIMにIIJのプロファイルを書き込む実験は、18年10月に成功させている。iPhoneでの実験を機に、同社は個人向けサービスの展開を表明。それが結実したのが、7月18日から始まるライトスタートプラン(eSIMベータ版)になる。

eSIM サービス開始の狙いを語る、IIJの亀井氏

 eSIMの魅力は、やはりその手軽さにある。物理的なSIMカードが必要になると、どうしてもそれを受け渡すための“場所”や“物流”、さらには“時間”が必要になる。その場で受け取ろうとするとショップが必要になり、ユーザーもそこに出向かなければならない。オンラインで申し込んでも、配送のコストや時間は不可避だ。ネット経由でダウンロードするだけのeSIMであれば、これらを省略することができる。音楽を入手するための手段が、CDなどの物理メディアからネット配信に移り変わったときのインパクトに近いものがあるといえば、その影響力を理解しやすいだろう。

eSIM
eSIM 端末に組み込まれたeSIMに、オンラインで情報を書き込めるのがeSIMのメリット。SIMの“器”と“中身”を分離したサービスともいえる

 実際、iPhoneでは設定から「モバイル通信」を開き、「モバイル通信プランを追加」を選んだ後、表示されるカメラでキャリアが発行したQRコードを読み取り、簡単な回線設定をするだけで、すぐにデータ通信ができるようになる。IIJがQRコード発行までのフローをどう作り込むのかにもよるが、家にいながらにして契約作業を終え、その場ですぐに通信できるようになるのは、物理的なSIMカードにはない手軽さといえる。

eSIM 発行されたQRコードを、カメラで読み取るだけと、設定も簡単だ

 それゆえに、eSIMは、既存のキャリアからは敬遠される傾向にある。ある日本のキャリア幹部は「関心はあるが、スマートフォンにまで広げるのは慎重になっている」と打ち明けていたが、わずかな料金差で簡単にユーザーが移ってしまうとなると、やはり経営的にはリスクが大きい。既にサービスを開始している海外を見ても、既存キャリアは店頭での契約を必須にしていたり、ローミング専用プランを打ち出していたりと、何らかの制約が加えられている。

 逆に、MNOと比べ、ユーザーの少ないMVNOにとっては、eSIMが武器になる可能性もある。IIJの個人向けサービスであるIIJmioは、早くから展開してきたMVNOで市場シェアも高いが、それでもMNOと比べると、ユーザー数の桁が1つ違う。攻める立場のMVNOにとって、eSIMのサービスを展開しない選択肢はないはずだ。

 ただし、MVNOがeSIMのサービスを提供するハードルは決して低くない。日本の場合、IIJを除くほぼ全てのMVNOはいわゆる「ライトMVNO」で、加入者管理機能を持たず、SIMカードもMNOから借りているため、そもそもeSIMに対してプロファイルを発行することができない。

 その上で、eSIMに書き込むためのプラットフォームを持ち、GSMAの査察を受け、証明書を発行してもらう必要がある。この部分はある程度までSIMカードベンダーに委ねることはできるが、自社のSIMカードを発行できるフルMVNOになることは、eSIMのサービスを展開するための前提条件になる。現状では、加入者管理機能を持ち、日本のMNOに直接相互接続しているMVNOはIIJだけだ。

eSIM 加入者管理機能を持つフルMVNOならではのサービスで、他のMVNOとの差別化にもつながる

 その意味で、eSIMは、対MNOだけでなく、MVNOの中で差別化を図るための武器にもなりそうだ。また、IIJはMVNEとして他のMVNOを支援しているが、eSIMをそのメニューに加えることで、MVNEとしての魅力を高めることもできる。こうした状況を踏まえると、同社がコンシューマー向けのeSIMをサービス化したのは、必然だったともいえる。

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