IIJ(インターネットイニシアティブ)が、個人向け通信サービス「IIJmio」向けに、eSIMを使った通信サービスのβ版を、7月18日から提供する。eSIMサービス自体は、KDDIがiPhoneの海外通信向けに提供しているが、国内のSIMロックフリー端末向けに提供するのは、IIJが初めて。同社はどんな利用シーンを想定しているのだろうか。
IIJがeSIMサービスを提供できるのは、自社でSIMを発行できるフルMVNOの形態を利用しているから。一方、いくつか注意しないといけないことがある。
まず、プロファイルのインストールに必要なQRコードは、他のデバイスに表示させるか、印刷したものを読み取らないといけないため、eSIM対応デバイス単体では設定できない。プロファイルをダウンロードするには通信環境が必要で、IIJはWi-Fiでのダウンロードを推奨している。また、IIJのフルMVNOはデータ通信しか提供できないため、eSIMでもデータ通信しか利用できない。SMSや音声通話は利用できないので、メイン回線として使うのは厳しい。eSIMを利用するには、対応製品のSIMロックを解除しないといけない点も覚えておきたい。
IIJが想定するeSIMの利用例は、毎月7GB程度のデータ通信を利用しているキャリアユーザーが、1GB程度の低容量プランに変更し、残りをIIJのeSIMで利用するというケース。IIJのeSIMプランでは、月額1520円(税別、以下同)で6GBまで高速通信ができる。キャリアのプランで7GBを使う場合、ドコモの「ギガライト」とauの「新ピタットプラン」なら月額5980円、ソフトバンクの「ミニモンスター」なら月額8480円(2年目以降)かかるが、キャリアの1GBプラン(月額2980円)とIIJのeSIMを導入すれば、月額料金は2980円+1520円の4500円となり、キャリアだけで7GB使うよりも安く済む。
【訂正:2019年7月5日23時28分 ソフトバンクのミニモンスターの料金が、1年目の各種割引適用後になっていたため、2年目以降の割引前料金に変更しました。】
一方、20〜30GBの大容量のデータ通信をする場合、IIJmioの「データオプション20GB」(月額3100円)と「データオプション30GB」(月額5000円)に申し込めるが、eSIMの月額1520円を加えると、合計はそれぞれ4620円(26GB)、6520円(36GB)となる。ドコモの「ギガホ(30GB)」とソフトバンクの「ウルトラギガモンスター+(50GB)」は月額5980円、auの「auフラットプラン20(20GB)」は月額6000円。キャリアの料金は各種割引前なので、割引を加えれば大差なくなる。
現在は6GBの「ライトスタートプラン」しか提供していないこともあり、IIJのeSIMは、キャリアで7GB程度使っている中容量のユーザーに向いているといえる。一方、IIJmioのタイプD/Aでは、6GBの他に3GBと12GBのプランも提供している。IIJ MVNO事業部 コンシューマサービス部長の亀井正浩氏は、6GBのみとした理由を「ユーザーの利用環境を考えると、自然に組み込まれた」と説明する。「今のまま正式サービス化したら、3GB、6GB、12GBに組み込まれるだろうし、eSIMが普及して違う使い方をしたいという声が挙がる中で、今とは違うメニュー体系にするのもありだと思う」(同氏)
もう1つ考えられるのが、毎月1〜2GB程度のデータ容量を追加チャージしている場合。キャリアの場合、1GBあたり1000円でチャージできるが、IIJmioの「ミニマムスタートプラン」なら月額900円で3GBだ。キャリアの約1回分のチャージで3倍のデータ容量が増えるから、3GBプランのeSIMもニーズがあるのではと思う。
ちなみに、eSIMの月額1520円で6GBという料金は、タイプDのデータSIMとタイプAのSMS付きSIMの「ライトスタートプラン(6GB)」と全く同じ。IIJによると、SIMを自社で発行するかキャリアから借りるかしか違いがないため、料金は同じにしたという。
この他の利用シーンとして、訪日外国人に使ってもらうことも想定している。例えば訪日外国人が簡単にeSIMを利用開始できるよう、空港の無人エリアに、プロファイルをダウンロードに必要なバーコードを発行するタブレットを設置するといったことも検討しているという。プリペイドSIMの売り場を探したり、購入したりする手間を軽減できる。法人向けにはeSIMに対応した社内PCを一括で通信可能にするケース、通信障害などいざというときのバックアップ回線としても使うケースも想定している。
毎月料金が発生するポストペイドのみで、プリペイドeSIMの提供は今のところ予定していないが、可能性はあるという。「どんな売り場で売るか、マーケットを開拓しないといけない。マーケットを広げたときに、あるべき姿を作らないといけない」と亀井氏は話す。
今回はβ版ということで、IIJmio(タイプD/A)では利用できる機能の幾つかが実装されていない。その1つがデータシェアだ。IIJmioではSIMを追加して、その中で高速通信のデータ容量をシェアできるが、eSIMではまだできない。機能がそろっていないためにβ版としており、「早くお届けするためにとった選択肢だ」と亀井氏は説明する。フルMVNOならではの特長である、ユーザー(管理者)が通信をサスペンド(中断)する機能も実装していない。
IIJがフルMVNOのサービスを開始したのは2018年3月だが、eSIMサービスの提供に時間がかかった理由については「(2018年の)iPhoneにeSIMが搭載されたが、iOSのバージョンアップで使えなくなる可能性もあって悩んだ」と話し、慎重にサービス検証を進めてきたからだという。「正式版になったときに、どんな形態にするのか。冷静に利用者の意見をうかがいたい」(亀井氏)
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