AIライブストーリーには動画の音も活用されている。実は、当初はBGMだけの動画になる予定だったのだが、子どもを持つ女性ユーザーに話を聞いた際、音声の重要性に気付かされたという。「子どもの声が録音できない時点で、この機能は使わないと言われたのです。何をしゃべっているか分からなくてもいい、声が入っているだけでいいということでした」(小野氏)
その時点で開発は終盤にさしかかっていたのだが、急きょ、声も入れるよう変更したそうだ。「お客さまも自分が何を欲しいか分からない。でも、定性調査の中に『理由は分からないけれど、私はこう思う』というような本音が出るんです。それが本質を突いていれば、メーカーとしては意地でもやります」(小林氏)
AIライブストーリーをうまく生成させるコツは2つある。1つは動画撮影中に残したいシーンで静止画のシャッターを切ること。そうすると、そのシーンは優先的に扱われ、その前後のシーンは高い確率でAIライブストーリーに採用されるという。もう1つは、被写体にフォーカスするなどして画角を変えること。動きのない映像は、シーンに変化がないのでダイジェストのしようがない。映像に変化があると、その部分が採用されやすくなるようだ。
AQUOS R3ではAIライブシャッターも進化している。AQUOS R2では1つのアスペクト比でしか撮影できなかったが、今回はシーンに適したアスペクト比を判断するようになった。
「いいと思われる構図をスコア付けし、ある一定のしきい値を超えた場合にシャッターを切ります。今までは全体を静止画で保存するだけでしたが、ここはアップで撮った方がいいということもある。そういうときにはアスペクト比を変えて、トリミングもしてしまいます」(小野氏)
カメラ自体の進化は、被写体ブレ補正機能を搭載したこと。AQUOS R2でAIライブシャッターを搭載したことで、被写体ブレ補正が重要になった。
パーソナル通信事業部 第一ソフト開発部 技師の河野広岳氏は「画質担当から言わせてもらうと、動画撮影中に静止画を撮ってくれるなという思い(笑)」と苦労を語った。
「スマホの静止画カメラで、動いているものをきれいに撮るのは難しい。ただ、動画は動いているものを撮る機能なので、そこが相反します。その分、画質が落ちるというか、ブレが発生します。AQUOS R2のAIライブシャッターで大変苦労したので、反省を生かして、AQUOS R3では被写体ブレ補正を強化しました」(河野氏)
一方、画角は静止画カメラが90度から78度、動画カメラが135度から125度と、AQUOS R3の方がAQUOS R2より狭くなっている。「相当悩みましたが、ゆがみを多少我慢して広角にするよりも、今回は画質を確保しようという方針にしました」(小野氏)
ただ、動画で手ブレ補正を効かせた場合、補正後の画角は100度前後で、これはR2とR3でほとんど違いはないそうだ。「動画で手ブレ補正を利用すると、たまに絵が飛んだりカクついたりすることがあります。そういう部分はR2の半分くらいに軽減されていて、より滑らかな動きになっています」(小野氏)
小林氏は「われわれの超広角レンズはゆがみがそれほど不自然ではなく、頑張っています」と自信を見せていた。最近トレンドとなっている静止画の超広角レンズに関しては「検討はもちろんしました」(小林氏)という。ただ、今回は動画というR2からのコンセプトを踏襲した形だ。
また、位相差センサーを全ピクセルに配置したデュアルピクセルセンサーによってオートフォーカスを強化。動画カメラのセンサーはクアッドベイヤー配列を使い、4つの画素をまとめて大きくすることで、取り込む光が増えて暗い場所でも明るく撮れるようになった。
「AQUOS R2の2300万画素カメラは、環境がいいと目の覚めるような写真が撮れるんですが、照度が足りないときや、被写体の配置によってオートフォーカスが難しいシチュエーションになると、ピントが甘くなることがありました。今回、1220万画素のデュアルピクセルセンサーを使うことで改善されています。画素数は減っていますが、全ピクセルに位相差センサーが付いているので、実質2倍の画素があるといえないこともない」(小林氏)
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