―― 次にディスプレイについてお話を伺えればと思います。
田中氏 5G時代のディスプレイにどういったものが求められるかを、突き詰めて考えました。5Gが世の中に普及したとき、生活スタイルにどういう変化が出てくるのか。まず、数と種類が爆発的に増えることになります。モバイルネットワーク環境がそろうと、Wi-Fiでしかできなかったことを意識せずに外でできるようにもなります。使われる場所の幅も広がる。ただ、どんどんコンテンツを見たり使ったりすると、電池持ちに対する懸念も出てきます。
目指したのは、モバイルでの視聴に最適なディスプレイです。モバイル視聴に特化した最高のディスプレイを作るという思想のもと、商品を検討しました。モバイル性能を考えるとき、省電力性能やパフォーマンスはしっかり押さえておく必要があります。これは、Pro IGZOが得意としているところです。
さまざまな環境で、さまざまな視聴のされ方をするというのは、外的な変化がどんどん増えるとういうことです。この環境を制御する考え方を、新しい視点として盛り込みました。表示するコンテンツの種類や数も増えるので、2つ目のエッセンスとして、コンテンツの制御も加えています。賢く画質をコントロールして、モバイルの視聴に最もふさわしい画質を作るというのが企画のスタートラインになります。
関氏 ファーストスクリーンにふさわしいディスプレイをどう実現するのか。画質と見やすさ、省エネの3要素が重要だと考えました。まず、映画やドラマといったリッチコンテンツを楽しむには、高品位な画質が必須です。モバイル端末ということで、どんな環境でもコンテンツを楽しんでいたけることも重視しました。AQUOS Rシリーズは、明るさにこだわり、AQUOS R3ではPro IGZOを採用して、従来の約2倍の輝度を実現しましたが、今回はそれをさらに持ち上げ、1000カンデラのパネルを搭載しました。アウトドアビューも搭載し、外での見やすさもサポートしています。
Pro IGZOと言っても、要は液晶です。なぜ有機ELではないのかと言われるかもしれませんが、画質と見やすさと省エネのために液晶にしています。明るいディスプレイは、液晶の方が実現しやすい。色の正確性がコントロールしやすく、省エネに関しても、省電力バックライトやアイドリングストップといったものは、全て液晶の技術です。有機ELには有機ELで、発色性やコントラスト、軽さという利点がありますが、バランスを考えた上で今回は液晶を採用しています。
―― 有機ELの強みというと、薄さもでしょうか。
関氏 はい。軽さ、薄さという点では有機ELが強いですね。
―― 環境の応じてというのは、どのようなことをやっているのでしょうか。
関氏 画質に関しては、一定の品位を得られているので、次に手をつけるのはどこかということで搭載したのが、スマートカラーマッチングになります。人間の目は、環境に順応する特性があります。いる場所に目が慣れてしまうんですね。目が慣れると、同じ画面を見たときに、見え方の差が生まれてきます。これまでもバックライトを調整するようなことはしてきましたが、スマートカラーマッチングでは、色味を合わせることをやっています。
色温度が低くなると、目が低い環境に慣れ、黄色っぽい白が白に見えてきます。その状態で画面を見ると、人の顔色が逆に青白っぽく見えてしまう。これを、室内で見たときと同じように補正をかけています。
―― ただ、それが急激だと、不自然にディスプレイの色温度が変わったように見えてしまうことがあります。
関氏 確かに、急激に変わると違和感があります。そのため、変化する時間はごくごくゆっくりにして、30秒ぐらいで変わるようにしています。それによって、違和感がないようにしています。こだわったのは本来見せたい画質で、その画質で常に見ていただくよう調整をしています。
―― 省電力に関しては、どのようなことをやっているのでしょうか。
関氏 絵の内容に応じてバックライトを下げ、そのぶん画像を持ち上げることで、バックライトの電力を落とすことができます。少し前からある技術ですが、1000カンデラのパネルを採用すると無駄も多くなるため、省電力バックライトの採用を決めました。コンテンツによって効果は違ってきますが、アルゴリズムやパラメーターを見直すことで、最適な調整を心掛けています。特にHDRなどのコンテンツにおいては、非常に大きな差が出ます。従来のアルゴリズムだと、表現力が落ちてしまうのですが、HDRエンハンサーで、コンテンツに合わせてトーンカーブとバックライトを制御するようにしました。
ハイスピードIGZOとアイドリングストップも、省電力を実現した技術です。高速表示自体はずっと前からやっていましたが、最近はそのような端末が他社からも出てきています。それはうれしい反面、弊社の120Hzはちょっと違う。一般的な高速表示とは異なり、コンテンツに合わせてリフレッシュレートを1Hzから120Hzの間で制御しています。
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