前回のレポートにもあったように、ゲーム市場におけるモバイルの売り上げ比率は過半数に達しており、スマートフォンはゲームとは切っても切れない関係にある。もちろん、映像品質などクオリティー面でPCや専用コンソールに軍配が上がることは多いが、ゲーム市場におけるモバイル比率が高いということは、ユーザーの滞在比率も高いことを意味しており、「高画質を楽しみたいならPCかコンソール」という区分けは通用しなくなりつつあると考える。
Qualcommでは2年前のSnapdragon 855発表時に「Qualcomm Snapdragon Elite Gaming」のブランドを発表しているが、共通のプロセッサに開発者向けのソフトウェアをセットにしたゲーム動作環境を整備することで、モバイル端末上でも他のプラットフォームと遜色ないユーザー体験を楽しめる方向を目指している。
2019年に発表されたAdrenoのGPUドライバのみをアップデートできる機能もそうだが、Snapdragonの世界は着実にゲーミングプラットフォームとしての進化を続けている。第3世代となる今回のSnapdragon 888ではいくつかのブラッシュアップが図られており、主な新機能として紹介されているのは「Variable Rate Shading(VRS)」と「Qualcomm Game Quick Touch」の2つだ。
VRSは画面上に表示されるオブジェクトの重要度に応じて、ピクセル単位での描写と4ピクセルを中間色で一括表示する描写を使い分け、GPU負荷を下げることで前モデル比で最大30%の高速描画を可能とする。一方のGame Quick Touchは、シビアな操作を要求されるタッチパネルでの反応速度を向上させる仕組みで、10〜20%の改善がみられるという。またSnapdragon全体のパフォーマンス改善やディスプレイの表示品質向上と合わせ、全体のユーザー体験が向上すると考えていいだろう。
ゲーム以外の機能強化点としては、8cxなどのPC向けではないメインストリームのSnapdragonにおいて初めてのハイパーバイザー(仮想化するためのソフトウェア)をサポートしたことだ。「Type-1 Hypervisor」と呼ばれる仕組みで、いわゆるハイパーバイザーの上に複数のOS動作環境が共存する構造だ。MicrosoftのHyper-Vなどが採用している仕組みでもあり、異なるOS動作環境が互いに独立している点で特徴がある。
用途はいろいろ考えられるが、例えばBYOD(Bring Your Own Device)のようにプライベートと仕事のスマートフォン環境を1台のデバイスに集約して適時切り替えつつ、互いが干渉してデータ漏えいがないようにしたり、あるいは本人認証の仕組みなどをメインOSから切り分けてマルウェアの影響を最小限にしたりと、主にモバイル環境ではセキュリティ用途でのメリットが大きいと考える。
詳しくは仕様を深掘りする必要があるが、従来のTrustZoneに比べても高度で安全な管理の仕組みが提供されるとみられるため、今後Snapdragonの世代が新しいものに入れ替わることでこの仕組みが一般化してくることになるはずだ。
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