なぜ総務省が「スマホ講座/乗り換え相談所」を推進するのか? 携帯ショップの役割も重要に:ワイヤレスジャパン 2021(1/2 ページ)

» 2021年06月04日 17時25分 公開
[石井徹,ITmedia]

 通信行政を担う総務省は、携帯電話市場の形成に積極的に関わり、携帯キャリア各社への規制を通して市場の形成を支援してきた。

 一方、近年の同省の取り組みは「スマホ講座」や「乗換え相談所」を実証事業として展開するなど、従来の規制行政にとどまらないものに広がっている。一見すると唐突に見える新政策にはどのような意図があるのか。総務省 情報流通振興課長の飯倉主税氏が「ワイヤレスジャパン 2021」の基調講演で語った。

総務省 オンラインで登壇した総務省の飯倉主税氏

誰一人取り残さないための「スマホ講座」

 ワイヤレスジャパンは、昨夏、新型コロナウイルス感染症の流行により展示会の中止が余儀なくされた。2021年に入っても感染症は予断を許さない状況ではあるが、2021年は感染対策を実施した上での開催にこぎつけている。ただし、総務省の飯倉氏はオンラインでの参加となった。

 会場のプロジェクターで大きく映し出された飯倉氏は、「全てのきっかけはコロナだった思う」と切り出した。総務省が主導しつつもなかなか進まなかったデジタル化が、感染症の流行をきっかけに大きく進展したのだ。しかし、その進展は同時にデジタル化の課題を浮き彫りにした。

 モバイル通信に関する総務省の政策の軸は、コロナ禍以前から大きく変わりはない。ただ、コロナ禍後により重要になるデジタル化を推し進めるため、市場環境に合わせた次の一手を打っている。それがスマホ講座やスマホ乗り換え相談所だ。

 スマホ講座は正式名称を「デジタル活用支援推進事業」といい、高齢者を対象としてスマホの使い方を教える講習会を展開する。2021年度には全国の1800か所での実施を予定しており、のべ40万人分に対してスマホの使い方をレクチャーする計画だ。

総務省 スマホ講座を含む「デジタル活用支援推進事業」の概要
総務省 2021年度に全国1800箇所での実施を予定している

 1800カ所のうちの1700カ所は携帯ショップで実施される少人数の講座となる。実態としては、これまで携帯キャリアが独自に行っていたスマホ教室に対して、総務省が事業費を拠出して支援する形だ。残りの100カ所は地域の公民館などを借りて20人規模で実施するスマホ講座で、携帯ショップの他、地域のIT企業や社会福祉法人が講師を派遣する形態となる。

 なぜ総務省がスマホ講座を支援するのか。それには大きく2つの理由がある。どちらも政府が定めたデジタル化の基本方針に沿うものだ。

 1つ目の理由は、デジタル化の方針そのものに由来する。2020年に定められた「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」では、高齢化が進む日本の現状を踏まえて「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」というコンセプトを標ぼうしている。その実現のためには、デジタル技術から取り残されがちな高齢者への支援が重要になる。そのためのスマホ講座というわけだ。

 2つ目の狙いは、「マイナンバーカード」の普及だ。マイナンバーカードは行政手続をスムーズに行うための制度として2016年に導入されたが、肝心の取得率が2021年5月時点で30%と伸び悩んでいる。詳しくは後述するが、マイナンバーカードとスマホの連携が進んでおり、スマホ講座はそのマイナンバーカードの使い方を手ほどきする場として期待されている。

 総務省としては、行政手続のデジタル化を推進したいという意図が大きいが、それ以前にスマホに不慣れな高齢者のために、講座では基本的な使い方を紹介するコースも用意される。基本講座では「電源の入れ方、ボタン操作」や「電話のかけ方、カメラの使い方」「LINEなどSNSの使い方」といったメニューもある。

 デジタル活用支援推進事業は「やさしく支える支援の手」というモチーフのロゴマークも用意し、政府広報においても積極的に周知をしていくという。感染症の収束に向かう2022年度以降は規模を拡大し、携帯ショップがない全国817市町村での出張講座を含めて、毎年5000か所での実施が計画されている。

「スマホ乗り換え相談所」は何のため?

 スマホ乗り換え相談所も国民に対する情報提供や啓もうが目的だ。こちらは携帯電話を乗り換えようと迷っている人を対象に、携帯回線の選び方を中立的な立場からアドバイスするものだ。2021年度にモデル事業を展開し、2022年度には収益性のある事業へと発展させる計画となっている。

総務省 ユーザーに対して中立的な立場でサポートを行う「スマホ乗り換え相談所」

 スマホ乗り換え相談所が狙うのは、携帯電話市場の競争の活性化だ。総務省ではこれまで、大手キャリアへの規制を通して、市場の活性化を目指してきた。販売規制を通して乗り換えのハードルを下げるという点では、2019年の「通信と端末の完全分離(スマホと回線のセット販売の規制)」の実現により、おおむね手を打ち尽くしたように見える。

 しかし実際には、多くの人は大手キャリアの回線を使い続けている。総務省はその要因に「料金プランが複雑さ」にあるとみて、適切な料金プランをアドバイスするための相談所を計画した、というわけだ。

総務省 携帯電話の料金プランについて、理解が進んでいないという統計結果も出ている

 スマホ乗り換え相談所には実現に当たっていくつかの課題がある。各キャリアに中立的な立場でアドバイスをする相談所を設けるとして、中立性をどのように確保するのか、現時点では明らかではない。

 また、スマホ乗り換え相談所を運営する費用の負担を誰に求めるのかも難題だ。携帯キャリア各社から徴収する手段もあるが、これは結果として、乗り換えの意思がない人にも料金に上乗せする形で負担を求めることになる。かといって受益者負担として相談料を徴収すると、利用する人は少なくなるだろう。

 スマホ乗り換え相談所の制度設計については具体的な形式を模索する段階にあり、2021年度のモデル事業の結果によって、将来的な展開形態が決まってきそうだ。

 ただし、スマホ講座と同様に、スマホ乗換え相談所にも携帯電話の販売代理店が何らかの形で関わる可能性は高い。飯倉氏は「携帯電話代理店には地域のデジタル拠点としての地方自治体からの期待も厚い」と期待を述べている。

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