店舗独自の「スマホ相談所」 なぜ総務省による設置を待たずに展開?元ベテラン店員が教える「そこんとこ」(1/2 ページ)

» 2021年05月07日 18時00分 公開
[迎悟ITmedia]

 総務省は2021年1月、「スマホ乗り換え相談所」なるものの設置方針を示しました。今年度(2021年度)の夏をめどに実証(モデル)事業を開始し、来年度(2022年度)から本格的に展開する予定となっています。

 同省がこの方針を示す前後で、家電量販店や併売店(複数の携帯電話事業者を取り扱う携帯電話販売店)が独自の「スマホ相談所」を設ける動きを見せました。前回も触れた通り、その多くは大手携帯電話事業者(キャリア)のオンライン専用プランを絡める形で展開されています。

 なぜ、家電量販店や併売店は独自の「相談所」を設置したのでしょうか。総務省が推進するスマホ乗り換え相談所に対する受け止めと合わせて、家電量販店や併売店の店頭に立つスタッフに話を聞いてみました。

相談所 前回もお伝えした通り、とある家電量販店では固定インターネットの相談窓口に併設する形でスマートフォンの料金プランの相談所を設置している。他の家電量販店や併売店でも、同じような「相談所」を設置するケースは増えている

総務省が設置しようとしている「相談所」とはどんなもの?

 スマートフォンの買い換えを検討している人の多くは、今使っているキャリアのお店や売り場に足を運びます。「キャリアを乗り換えてもいいかな」と思っていたとしてもです。理由はシンプルで、「解約(違約)金が発生することがある」「転出/転入に伴う手数料が発生する可能性がある」「MVNOを含む複数キャリアでのプラン比較は難しい」「欲しい機種を販売するキャリアが限られる」……といった数多くの「ハードル」が乗り換えをためらわせてしまうからです。

 とはいえ、乗り換えに当たっての「ハードル」の数は年々減っています。解約金には税別1000円の上限規制が設けられましたし(※1)、MNPの転出手数料や新規契約時の事務手数料を減免するキャリアも増えました。

(※1)契約者数が100万未満のMVNOは上限規制の対象外

 残る大きなハードルは、料金プランや端末に関する“知識”です。それなりに知識があれば、キャリアの乗り換えも楽々とこなせるでしょう。しかし、知識の少ないユーザーにとって、キャリアの乗り換えは想像以上に“しんどい”もの。知識の差が、適切な料金プラン(キャリア)選択を阻害している面も否定できません。

 総務省が構想しているスマホ乗り換え相談所では、中立的な立場でスマートフォン(携帯電話)のプラン変更や乗り換えに関する相談を受け付けます。“中立的”ということが一番のポイントで、ユーザー間の知識差を埋めて、誰でも適切な料金プランを選べるようになることが期待されています。

 ただし、具体的な制度設計は実証事業を通して行われる予定で、まだ分からない部分も少なくありません。それでも、特に知識の少ないユーザーにとってはありがたい存在となるはずです。

総務省資料 総務省が主導して2021年夏をめどに実証事業が始まる予定の「スマホ乗り換え相談所」。中立的な立場を取ることが重要視されている(総務省資料より:PDF形式)

先んじて設置された独自の「相談所」 ユーザーの反応は?

 家電量販店や併売店が現在設置している「スマホ相談所」は公的なものではなく、あくまでも店舗独自のものです。総務省の動きを待たずに「相談所」を設置した家電量販店や併売店のスタッフに、設置の経緯やユーザーからの反応を聞いてみました。

 私の勤務する店舗では、各キャリアのブースが完全に分離されています。そのため、お客さまはお目当てのキャリアに“直行”するケースが多く、他社のお客さまの接客をする機会は多くありません。

 総務省がスマホ乗り換え相談所を設けるという話を受けて、私たちの店舗では独自の「スマホ相談所」を設置してみることにしました。各キャリアからスタッフを少なくとも1人以上捻出して常駐させることで、全キャリアの相談に応じられる体制としています。

 ただし、各キャリアのスタッフが(店舗で取り扱う)全キャリアのプランや端末などの知識を網羅しているわけではありません。ある意味で「寄り合い所帯」な状態ですから、「形だけ」と言われてしまえばその通りです。

 設置から間もないこともあり、お客さまは「相談所」に気付かずに、今まで通りに各キャリアのブースに直行されることが多いですね。

 こうして聞くと、認知度の低さも相まって、来店客(ユーザー)にはあまり使われていないようにも思えます。しかし、店舗スタッフの視点に経つと大きなメリットがあるようです。

 店舗構造の都合上、今までは他キャリアのスタッフの仕事ぶりを目にする機会はあまりありませんでした。お客さまをレジに案内する際に出会う程度です。

 今回「相談所」ができたことで、他キャリアのスタッフのトークを間近で聞けるようになりました。自分たちのサービスのメリットやデメリットを改めて把握できるという意味で勉強になります。

 「相談所」に期待して来られたお客さまに、より良いサービスを提案できるようになったと思います。

 特に家電量販店のうち大規模な店舗の携帯電話コーナーでは、キャリアや販売代理店に所属する「外部スタッフ」が接客を行うことも珍しくありません。外部スタッフが契約の締結まで行う店舗では、本当の意味での「店員さん」(当該店舗に所属するスタッフ)に出会うのは最終段階である会計処理時だけということもあります。

 店舗スタッフや外部スタッフの中には、自分の所属(担当)するキャリアのプランや端末については詳しくても、他キャリアのプランや端末には詳しくないという人もいます。スタッフ目線では、このような「相談所」が自らのスキルを磨く場となっているようです。

屋外ブース この家電量販店の場合、最近は屋外にも相談コーナーを設置することが多い。数日ごとに担当キャリアを交代する形で運用されているようだ(撮影日はNTTドコモが担当していたが、KDDIやソフトバンクが担当する日もある)

 とはいえ、ユーザーが「相談所」を使う機会も増えてきてはいるようです。どのような相談が寄せられるのか、聞いてみました。

 カウンターで話を聞こうというお客さまは、総じて料金の相談が多いです。料金が高いとか安いとかというよりは、今の料金プランが適正なのかどうかを確認する傾向にあります。

 ここ(相談所)に立ち寄ったお客さまは、直接ブースにやって来るお客さまよりも成約率(新規契約や機種変更/契約変更を行う比率)が高めなので、一応の成果はあると考えています。ただし、店舗全体の成約“実数”に占める割合はまだ低いのですが……。

 今まで、各キャリアの料金プランや端末について説明を聞くには、各キャリアのショップや販売コーナーを巡る必要がありました。しかし「相談所」という形で全キャリアの情報をワンストップで得られる場所を設ければ、お客さまの面倒ごとを大幅に減らせるはずです。

 いろいろ説明を受けた上で、一番納得の行くプランや端末を選べるようにもなりますから、満足度も高まるでしょう。

 独自の「相談所」を設置した店舗では、スタッフがポジティブな手応えを感じると同時に、来店客の満足度も高めである様子が伺えます。

店舗 総務省の設置するスマホ乗り換え相談所の設置形態には不明瞭な点もあるが、併売店における手続きカウンター(写真)と似たような雰囲気となるものと思われる
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