「eSIM」で乗り換えは促進されるのか? メリットと課題を整理する(1/2 ページ)

» 2021年08月05日 12時25分 公開
[佐野正弘ITmedia]

 最近の「iPhone」「Pixel」シリーズに搭載されている、組み込み型のSIM「eSIM」。キャリア(携帯電話事業者)やMVNOのeSIMへの取り組みには大きな違いがあるが、一方で総務省はキャリアにeSIMへの早期対応を強く求めている。eSIMを取り巻く各者の動向を振り返り、その普及に向けた課題を探ってみたい。

もともとは法人向けだったeSIM

 携帯電話の契約情報などが入っており、モバイル通信を利用する上で必須の存在となっている「SIM」。SIMといえばプラスチックのICカードという認識を持っている人も多いかと思うが、最近ひそかに採用する端末が増えているのが「eSIM」だ。

 eSIMは「Embedded SIM」の略で、端末内部に組み込まれたSIMのことを指す。通常のSIMカードとは違って差し替えられないことから遠隔で情報を書き込める仕組みを備えており、キャリアを変える際も新しいキャリアの情報に書き換えればよいなど、オンラインの手続きだけで契約や解約ができるというのが、従来のSIMカードとの大きな違いといえる。

 このeSIMが注目されるようになったのは、Appleの「iPhone」シリーズやGoogleの「Pixel」シリーズなど、eSIMを搭載するスマートフォンが増えてきたからだろう。国内向けモデルの場合、iPhoneは2018年発売の「iPhone XS」シリーズ以降、Pixelは2019年発売の「Pixel 4」以降であれば、eSIMが搭載されている。他にも、最近であれば「OPPO Reno5 A」(Y!mobile版を除く)にもeSIMが搭載されている。

eSIM AppleはeSIMの採用に積極的だ。iPhoneに関しては「iPhone XS」シリーズ以降、通常のSIMスロットに加え、eSIMも搭載したデュアルSIM仕様となっている

 だが、もともとeSIMはスマートフォン向けではなく、企業向けのいわゆるIoT機器向けに考案されたもの。例えば自動車会社が、通信機能を備えた車を多数製造して海外に輸出する場合、その1つ1つに輸出した国のSIMを挿入し、管理するというのは現実的ではない。

 そこであらかじめ自動車にeSIMを載せておけば、輸出後に自動車のeSIM情報を遠隔で一括書き換えすればよく、手間を大幅に抑えられる。そうしたことからNTTドコモが現在でいうところのIoT機器向けeSIMサービスを2014年から提供するなど、法人向けのeSIMサービスは古くから存在していたのだ。

eSIM ドコモの2014年6月27日のプレスリリースより。同社は2014年よりM2M、現在でいうところのIoT機器向けeSIMサービスを提供していた

大手3社はなぜeSIMに消極的なのか

 だが各キャリアのコンシューマー向けeSIMサービスの現状を見ると、Apple Watchなどデータ通信専用デバイスへの対応は進んでいる一方で、スマートフォン向けに関してはあまり積極的ではないのが正直なところだ。最も積極的にeSIMに取り組んでいるのは新規参入の楽天モバイルで、サービス開始当初よりeSIMへの対応を大きく打ち出している。

eSIM 楽天モバイルはサービス開始当初からeSIMへの対応を大々的に打ち出しており、eSIMのみ搭載したオリジナルスマートフォンも提供している

 一方、既存の大手3社は消極的な姿勢が目立つ。とりわけ消極的なのが、法人向けでは非常に積極的だったドコモで、eSIMとの相性が良いオンライン専用プランの「ahamo」でさえeSIMを導入していない。

 他の2社も、eSIMへの対応は打ち出しているが様子を見ながらの展開、というのが正直なところだ。KDDIがeSIMに対応しているのはオンライン専用の「povo」のみだし、ソフトバンクは全ブランドでのeSIM対応を実現したものの、オンライン専用のLINEMO以外ではeSIMをあまり積極的に扱ってはいない。

 3社がeSIMに積極的でない理由の1つは、eSIM独自のセキュリティリスクにある。SIMカードはキャリアが信頼できるSIMベンダーを選んで調達して顧客に提供できるが、eSIMは端末メーカーがSIMベンダーを選ぶため、キャリアの管理が及ばない。そのため、セキュリティ上問題のあるSIMベンダーのeSIMを搭載した端末で利用されると、SIMの複製がなされ悪用される可能性があることを懸念しており、特にドコモはこのセキュリティリスクを懸念してeSIMサービスをしていないという。

eSIM 「スイッチング円滑化タスクフォース」第2回会合のドコモ提出資料より。eSIMはキャリアが採用ベンダーを決められないため、セキュリティの担保が難しいとしている

 そしてもう1つは、ユーザー側のリテラシーに起因する問題だ。そもそもeSIMでのサービス契約はオンラインでの手続きとなるため、基本的に自身で全ての手続きを済ませなければならない。しかも手続きには事業者から発行されたQRコードを読み取る必要があることから、手続きにはスマートフォンとは別にもう1台、インターネットに接続してQRコードを取得するための端末が必要になってくる。

 それに加えて端末のSIMロック解除、APNの設定や構成プロファイルのダウンロードなど、通信できるようにするためにはさまざまな手続きや操作が求められ、利用するにはスマートフォンに関する一定の知識が必要だ。裏を返せば、そうした知識がない人がeSIMを契約しようとすると、多くのトラブルが発生して混乱が生じることとなる。

 実際、ソフトバンクの常務執行役員である寺尾洋幸氏は、LINEMOのサービス開始当初、eSIMで契約しようとした人がそうした知識を持たないため途中でつまずいてしまい、多数の問い合わせが寄せられる事態に陥ったという。そこでソフトバンクでは400以上の改善を施し、ようやく通常のSIMカードと同じくらいスムーズな契約ができるようになったとしている。

eSIM ソフトバンクのLINEMO「ミニプラン」説明会より。eSIMによるサービス契約にはネットワークの設定に関するさまざまな知識や操作が求められるが、LINEMOでは当初そのことをよく理解していないユーザーからの問い合わせが多数寄せられたとのこと

 Y!mobileやソフトバンクでeSIMをあまり大きくアピールしていないのも、スマートフォンにある程度詳しい人が利用するであろうLINEMOでさえそのような状況であることから、より知識を持たない契約者が多いであろう2ブランドで消費者を混乱させないための措置のようだ。

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