ITmedia Mobile 20周年特集

総務省とキャリアの“いたちごっこ”に終止符は打たれるのか? 20年間の競争と規制を振り返るITmedia Mobile 20周年特別企画(3/3 ページ)

» 2021年09月13日 06時00分 公開
[北俊一ITmedia]
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最後の手段としての事業法改正

 この“いたちごっこ”に終止符が打たれるときがきた。2018年8月、菅官房長官(当時)が「携帯電話料金は4割値下げ余地あり」と発言。それを受けて、総務省「モバイル市場の競争環境に関する研究会」「消費者保護ルールの検証に関するWG」合同で、法改正を視野に入れた“完全分離”を提言した。

 この法改正の肝は、電気通信事業法上に販売代理店をしっかりと位置付ける「代理店届出制度」を創設したことだ。これによって、回線と端末をセットで販売したときの端末購入補助金の上限を、キャリアと代理店を合計して2万円(税込み2万2000円)に規律することができたのだ。

分離プラン 2019年の電気通信事業法改正では、通信サービスの継続利用を条件としない端末割引は、2万円(税別)を上限とすることが決まった

 2007年9月の“分離プラン”から、“完全分離”を含む改正電気通信事業法が施行される2019年10月まで、実に12年の歳月を要した。その間、行き過ぎた端末購入補助を辞めるよう、総務省は再三再四、キャリアに要請してきたが、キャリアはそれらのチャンスを生かすことはなかった。

 3キャリアによる激しいMNPキャッシュバック競争が繰り広げられている中で、先にこの競争から離脱した社は、MNPポートアウトが一気に拡大することが目に見えているため、「辞めたくても辞められなかった」というのがキャリアの本音だろう。

 今回の事業法改正は、行政にとって“最後の手段”であり、そのタイミングが、たまたま5Gがスタートする時期に重なったのは不幸なことではあったが、それはモバイル業界自らが招いた不幸なのである。

 この“完全分離”であるが、“完全”という言葉がなぜ付いているのか、深くかかわってきた筆者でも理由は分からない。回線と端末をセットで販売する際、通信料金の値引きは禁止する一方で、端末の値引きは禁止せず、上限2万円までとした時点で“不完全”な分離なのである。また、端末を単体(白ロム)で販売する場合は、単なる物販であり、事業法の枠外、2万円の規律の枠外となっている。

 この白ロム販売が事業法の枠外であることを利用し、各キャリアは、回線とのセット割引2万円に加えて、端末購入サポートプログラムによる利益の提供を行っている。最近では、週末に量販店等において、第2世代のiPhone SE(64GB)が端末のダイレクト値引きと代理店独自値引きによって、1円で販売されている。

 完全分離の目的は、通信料金と端末価格、それぞれで競争が行われることであり、通信料金がある程度低廉化した現在、キャリアによる端末値引き競争は歓迎すべきことではある。その一方で、端末値引きがエスカレートすれば、その値引き原資は通信料金から回収されるため、再び元の木阿弥となる。

ユーザーがキャリアと端末を自由に選択できる世界へ

 MNP手数料の廃止やSIMロック禁止など、キャリア間(およびキャリア内ブランド間)のスイッチングコストの消滅とも相まって、端末の安さで他社ユーザーを奪い合うビジネスモデルから永遠に決別し、ユーザーが自由に回線(キャリア)と端末を選択できる世界へとしっかりと移行しなければならない。

 キャリアは、自社がユーザーから選ばれ続けるよう、通信品質や顧客対応サービスを磨き上げ、それに見合った合理的な料金プランと、魅力的な付加サービスを提供する競争へとかじを切るときが来たといえよう。そこで勝ち取るべきものは、“信頼”である。

 この20年間で、コミュニケーションツールから、生活インフラへと進化したケータイは、次の20年間で、社会・産業インフラへと、さらに深化を遂げていく。「誰一人取り残さない、人にやさしいデジタル化」社会を実現するため、地域のデジタル化支援拠点としての全国約8000のキャリアショップが担うべき役割は大きい。

 一方で、官邸からのプレッシャーによってオンライン専用の廉価プランが登場し、コロナ禍におけるニューノーマルの進展とも相まって、ケータイの諸手続きがオンラインへと移行しつつある。このままでは、代理店の手数料収入は減少し、地域のデジタル化支援拠点としての役割が果たせなくなる恐れがある。

 キャリアは、これまでの販売に過度に偏重した代理店評価制度や手数料体系から、ユーザーのデジタル化に関するお困りごとへの対応、NPSの向上、ひいては、LTV(顧客生涯価値)の向上をKPIとする代理店評価制度、手数料体系へとシフトすることによって、キャリアショップを地域になくてならない存在へと昇華させる必要がある。そのベースとなるものが、ユーザーからの“信頼”なのである。

(野村総合研究所 パートナー)

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