インタビュー
» 2020年01月10日 12時30分 公開

新春対談/北俊一氏×クロサカタツヤ氏(前編):「分離プラン」と「端末値引きの規制」は正しい施策なのか? (1/3)

2019年は改正電気通信事業法(改正法)が施行され、モバイル業界でさまざまな動きがあった。2020年に5Gサービスが始まる中で、分離プランを軸としたルールは、本当にユーザー目線で考えられたものなのか。有識者として総務省での議論にも参加していた、北俊一氏とクロサカタツヤ氏に語っていただいた。

[房野麻子,ITmedia]

 2019年は改正電気通信事業法(改正法)が施行され、モバイル業界でさまざまな動きがあった。分離プランが義務化され、端末値引きに制限も加えられた。携帯キャリアは分離プランに適した新料金プランを発表したが、端末代金も含めたトータルの額では本当に値下げになるのか、と疑問を抱く部分もある。2020年に5Gサービスが始まる中で、分離プランを軸としたルールは、本当にユーザー目線で考えられたものなのか。

 改正法の中身を決めたり整理したりする場でもあった「モバイル市場の競争環境に関する研究会」に有識者として参加している、野村総合研究所 パートナー(テレコム・メディア担当)の北俊一氏と、企 代表取締役のクロサカタツヤ氏にじっくりと語っていただいた。聞き手はITmedia Mobile編集長の田中聡。

分離プランのよしあしは長い目で見る必要がある

―― 2019年の大きなトピックは「分離プラン」だと思います。2018年に「4割値下げ」の話が政府から出て、2019年に3キャリアがそれに応じたプランを出してきました。その一連の流れをご覧になって、ユーザーにとって本当に正しい施策だったと思いますか?

クロサカ氏 正しい/正しくないでいえば、正しい施策だったと思っています。ユーザーのためになる施策、政策だろうと賛成している立場としては当然、正しいと考えています。ただ、まだ始まったばかりです。これまで端末と通信サービスが一体の商品として認知されてきた歴史があり、それが大きく変わったわけですから、ユーザー自身が戸惑っていたり、概念が分からなかったりすることもあると思います。ですから一言で言うと、長い目で見ようと。ユーザーとしても、最終的にこの施策がよかったかどうか、まだ腹落ちしないのは自然でもありますね。

分離プラン 改正電機通信事業法の柱の1つとして「改善分離プラン」が挙げられている(総務省資料※PDFより引用)
北俊一 北俊一氏

北氏 分離プラン以前を肯定する人と否定する人で、正しいかどうかの評価は割れると思います。私は、これまでの売り方はメチャメチャだったという立場を貫いています。

 消費者保護ルールの方の会合(総務省の「消費者保護ルールの見直し・充実に関するWG」「消費者保護ルールの検証に関するWG」)にもずっと参加していて、そこで消費者団体さんからのクレームを、なぜか私も一緒に下を向きながら聞かされてきました(笑)。本当に申し訳ないと思いながら、何年も聞かされ続け、なぜこんな業界になってしまったのかと反省してきました。業界を健全化しないといけないし、信頼を回復しないといけないという強い思いを持ってやってきました。

 何が一番の原因なのかというと、まさにクロサカさんがおっしゃったように、端末と回線が混然一体となっているばかりか、「実質0円」「一括0円」「キャッシュバック」という、MNPした方がもうかるという錬金術のような売り方が横行してきたからです。総務省がたびたび止めに入り、一瞬なくなるけれど、またすぐ復活する。あの手この手で元に戻る。それを繰り返してきました。

 2年ごとにMNPしながら最新端末に買い換える、しかも家族一緒に買い換える人にとってみれば、夢のような仕組みです。家族3人で2年ごとに端末をもらえて、かつ現金で10万円、20万円が手に入る仕組みだったわけです。さらに、いわゆる転売屋といわれている人、場合によっては反社会的勢力に関わるような人が、合法的に端末とお金を手に入れることができる、メチャメチャな仕組みが続いてきたわけです。

 今回は、菅官房長官が「4割」発言をしてくれたので、その威を借りて法改正ができました。これまでは長年、要請したりガイドラインを作ったりという形で改正までは行けず、その手前のところで手を打ってきました。「もうやめましょうよ」とお願いしてきたんですが、超えられなかったのが独禁法の壁ですね。最後の局面では、ガイドラインは作ったもののキャリアしか規律できませんでした。販売代理店の独自値引きという形でお金が流れてしまって、また端末が安売りされてしまいました。

 今回の法改正には2つの柱があって、完全分離と、もう1つの柱が「販売代理店届出制度」です。全ての代理店さんが、電気通信事業法上で登録される。これによって、キャリアと販売代理店さん両方合わせて、端末を一定以上値引きしてはいけませんよということを法律で規律することができました。業界健全化への大きな一歩を踏み出すことができたと思っています。始まったばかりですから、その成果はしっかりデータを見ながら評価していきたいです。

異常だった端末値引きを正常にしただけ

クロサカタツヤ クロサカタツヤ氏

―― 通信の継続利用を条件にする値引きは禁止というのは理解できます。一方、端末単体の購入に対しても、具体的に2万円という数字を出して値引きの制限をしてきました。この2万円の根拠がいまひとつはっきりしません。ドコモが3万円という提案をしたところ「一段厳しくして2万円」にしたという話もありましたが、この端末値引きの規制についてはどう見ていますか?

クロサカ氏 端末値引きの金額水準についての議論は、正直、不十分なところがあったというのは、私も委員会で申し上げた通りです。根拠にしようとしていた数字が、科学的に考えるとかなり乱暴な作り方をしてしまっていた。そのときにも「これは根拠にはなりません。あくまで参考として位置付けた上で、政策を実施する主体の意思、つまり、総務省の意思としてやってください」ということを伝えて、総務省にも承諾をいただいています。

北氏 違約金(が1000円に決まった経緯)も全く同じです。

分離プラン 端末値引きの上限は、ARPU×営業利益率×スマホの平均利用期間から「約3万円」という数値が挙がっていたが、そこから「1段低い」2万円に変更された

クロサカ氏 ここについては、今後の市場やユーザーの反応をエビデンスベースで測っていきながら、運用方法がどれくらい妥当なのかを検証し、必要に応じた対策を柔軟にとっていく必要があると思っています。水準の議論はまだ道半ばだと思っていますが、端末値引きについて一定の規制を設けるということは、私は必要なことだったと思っています。

 端末を仕入れているのもキャリアですから、端末と通信の分離だけでは、最終的に料金のコントロールがしやすくなるところがあり、元の木阿弥になってしまう可能性があると思うんです。一方で、モノは必ず誰かが作っているので正当な原価が本来あり、それが反映されていない状態は、一般的な商習慣として考えてもいびつ過ぎると思います。それに対して一定の制限を設けるという考え方は、あってしかるべきだと思います。

 端末値引きと一言で言っていますが、それは一体、何を指しているのか。どの端末について、何の価格を対象として、どのような条件下で値引きをするべきなのか、していいのか、規制対象にするのかということを、若干細かすぎるという指摘があるかもしれませんが、今回かなり明確にしました。言語化して規制した。

 この定義を詳細化したのは意味があることだったと思います。そこに手を突っ込むことによって、仕入れと販売を担っている通信事業者の商習慣構造を透明化し、明らかにしていきましょうという意図を示せたと思います。これは消費者も含めた取引の健全化につながる方向だと思っています。

―― ただ、見た目上、端末が値上りしたように見えて、「結局安くなっていない」という意見も出ています。ここは長いスパンで見ないと何ともいえないところでしょうか。

クロサカ氏 値引き額に一定の制限をかけていますし、分離の方向になったわけですから、当然、値段が上がってしまうことは事実です。消費者が安いものを手に入れられなくなったのではないかという批判は、現象としては起こってしかるべきだと思います。

 先ほどの北さんの話にもありましたが、2年に1回、家族で端末を買い換え、キャッシュバック含めるとむしろお金がもうかる、みたいな構造をうまく使いこなせるような消費者はわずかですが、それは賢い消費者としての姿なのでしょうか。リテラシーといわれるかもしれませんが、それは違うのではないか。むしろ消費者間での不平等感が大きく発生している状態だと思います。

 これも何サイクル、何年かで見ていかないといけないと思いますが、全ての消費者にとって、できるだけフラットなコンディションを提供していけば、業界全体が健全化していく方向につながると信じています。ファクトが出てこないともちろん分かりませんが。

―― なるほど。北さんは端末値引きに関して、どうご覧になっていますか?

北氏 今までが異常だったので、正常化しただけです。(否定する人には)逆に、今まではよかったんですか? と質問したいですね。一定の人への多額な端末購入補助が、結局は全体の通信料金から回収されているわけですから、料金の高止まりの要因になっていました。今回、ここを断ち切ったということですね。実際、既にキャリアさんはミドルレンジあるいはローエンドの、定価で2万円くらいのAndroid端末を仕入れて、割引が2万円内ということで、早速1円で販売しています。この値段を見ると、やっぱりドキッとするんですよね(笑)。

―― 法律上は問題ないですよね。

北氏 そう、そうなんです、全く問題ないんですが(笑)。

クロサカ氏 (1円での販売は)発生するだろうなと思っていて、やっぱり来たかと(笑)。

―― 「Galaxy A20」ですね。

分離プラン 「Galaxy A20」は、税別で2万円を下回る安さが特徴。ドコモの吉澤社長も発表会でアピールしていた

北氏 ああいったモデルですね、1円とか書かれている。今、まだ2000万人以上が3Gの端末を使っていて、3Gから4Gへのマイグレーションが行われています。3キャリアさんとも、日付はバラバラですが3G停波の時期が出そろいましたね。マイグレーションに関しては、0円まで値引いていいと条件が緩和されています。

 カメラが3つ、今度は5つとかいわれていますが、そういった10万円以上するような端末がある一方で、カメラは裏表1つずつで十分、LINEができて、ブラウジングができて、通話ができれば十分という人が、どんどんミドルレンジやローエンドの端末に買い換えてくれている。やっと日本も諸外国のような端末販売のラインアップになってきました。

 ミドルレンジが一番売れるのが普通であって、ハイエンドばかり売れてきたのはいびつです。それはニアリーイコール、iPhoneばかり売れてきたわけです。世界的に見て日本はおかしな市場でした。本当は高額なiPhoneが安く買えて、でも使いこなせない人がたくさんいたわけです。もったいない話ですし、端末代金はちゃんとAppleさんに支払われてきた。

 本来であればiPhoneを買う必要がない人が買うためのコストは、結局、全員の通信料金から回収されていました。これを普通の市場に変えていくプロセスが、今、始まったばかりだと認識していただければと思います。

 総務省は、2年をめどに、端末の値引きでユーザーを誘引するような売り方を根絶するという、非常に強い言葉を報告書に書いています。2年をめどにしていますが、そのくらいは最低でもかかるんじゃないかと思います。

 本来、新しい、高機能端末は高い。ユーザーが、自分にとって本当に高機能端末が必要なのかを考え、必要な機能と価格を勘案しながら端末を選択するという行動が、一回りの買い換えで定着してくれることを期待しています。端末の買い換えサイクルは延びているので、2年で一回りしないかもしれないですが。

 実は値引きの規制には3段階あるんです。「回線の利用継続を条件とした端末の値引きは禁止」「回線と端末をセットで売るときは上限2万円」。最後が「端末を単体で売る」。白ロムで売るのであれば、物販なのでいくらでもいい。

 セットで売るときに値引きは3万円か2万円かみたいな話がありましたが、今思うと禁止すべきだったと思いますよ。完全分離という言葉は、今の状況にふさわしくない。セット販売なので完全には分離していない。さらに2万円値引いていますから。その2万円の原資はどこから出ているかといったら、通信料金から回収しているのです。

 完全分離というのは、本来、端末の単体販売なんです。ソフトバンクさんの「半額サポート+」改め「トクするサポート(※2020年3月中旬以降に、プログラム料金がなく、端末を買い替える際にソフトバンクが推奨する機種以外も選べる「トクするサポート+」に移行)」、あれが実は完全分離なんですね。全社、あっちに行ってもよかったなとは思っています。

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