ただ、楽天モバイルの1.7GHz帯とKDDIの800MHz帯では電波特性が大きく異なるため、ローミングから自社エリアに切り替えると、思わぬ場所に空白地帯が生まれてしまう恐れもある。少し移動するだけでつながればいいが、自宅や店舗内など、長くとどまるような場所が圏外になってしまうと、ユーザーの利便性が大きく損なわれる。楽天モバイル側も、「今回ローミングを停止するエリアは、何度もチェックをかけ穴がないようにやろうとしているため、大きなホワイトスポットは基本的にはできないが、ゼロにはできない」(同)という認識だ。
そのため、楽天モバイルでは対象となる地域の契約者に対し、「事前にお電話をして、楽天回線のみになること伝えている」(同)。ローミングを停止したことで不都合があれば、MVNOの端末や小型アンテナの貸し出しなどを行っている。KDDIローミングが停止することのメリットを伝えた結果、「98%の方がポジティブ」(同)な反応を示しているという。2%のユーザーには、モバイルWi-Fiルーターの貸し出しなども含めて、柔軟に対応策を提示しているようだ。
では、楽天モバイルはなぜKDDIローミングの終了を急いでいるのか。1つ目の理由が、通信量の制限だ。詳細は後述するが、ユーザーがKDDIローミングをすると、楽天モバイルからKDDIへの支払いが発生する。ここが青天井になっているため、楽天モバイル側はKDDIローミング利用時の通信量を制限せざるを得ない。現状では、ローミング利用時の制限が5GBに設定されており、同社最大の特徴である「UN-LIMIT VI」の恩恵を受けづらくなる。行動する範囲が全てKDDIローミングのエリア内だと、事実上の5GBプランになり、中容量以上のデータ容量が必要なユーザーのニーズを満たすことができない。5GBプランだとすると、現状の2178円(税込み、以下同)は他社と比べても割高だ。
仮に楽天モバイルの自社回線エリアが広がっていても、KDDIローミングが周辺に残っていると、“5GBの壁”にぶつかりやすくなる。「KDDIからは800MHzのいわゆるプラチナバンドを(ローミングで)借りているが、楽天モバイルは1.7GHzなのでKDDI側の電波が強くなり、古い端末だとKDDIにつながってしまう」(同)ことがある。楽天モバイルが扱う端末には、自社のネットワークを優先する制御が入っているが、他キャリアから持ち込んだ端末でも同様の問題が起こりやすい。
端末側での制御はあくまで一時しのぎでしかなく、根本的な解決策は、やはり広いエリアをまとめて自社回線に切り替えることだ。裏を返せば、KDDIローミングを打ち切っても十分なほど、自社回線のエリアが充実してきたともいえる。矢澤氏によると、2021年8月末時点での人口カバー率は92.6%で、半導体不足によるエリア拡大の遅れも取り戻しつつある。約93%の人口カバー率達成には3万局の基地局が必要だったが、半導体が取り付けられずに電波を発射できない基地局も約1万局建設済みだ。この1万局が「年末にかけて入ってくる部品を順次つけていけばオンエアになる」(同)。KDDIローミングの7割を終了させるめどがついたというわけだ。
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