シャープが5月9日に開催した新製品発表会では、フラグシップモデル「AQUOS R7」に加えて、“もう1つの新製品”が発表された。5G対応のエントリーモデルの「AQUOS wish2」だ。シンプルな機能で価格を抑えたエントリーモデルだが、このスマホが登場した背景にはやや不可解な点もある。
メーカー担当者に直接聞いてみたところ、スマホ市場が遭遇した“課題”が浮かび上がった。
AQUOS wish2はNTTドコモの夏モデル「AQUOS wish2 SH-51C」として6月下旬以降に発売される予定だ。5月10日時点では、他のキャリアやオープンマー市場版が展開されるかは明らかにされていない。
AQUOS wish2の“不可解な点”とは、初代「AQUOS wish」の発表からわずか半年で登場したこと、そして変更点がほとんどないことだ。
初代AQUOS wishは、2021年12月に発表された。キャリア向けではau、UQ mobile、ソフトバンク、Y!mobile、楽天モバイルが取り扱っており、シャープ直販のSIMロックフリーモデルも販売されている。“シンプルで飾らない”がコンセプトで、本体の素材として再生プラスチックを活用。機能面は盛り込みすぎず、5Gやおサイフケータイや指紋認証、防水・防塵(じん)、耐衝撃などをサポートながらも、4万円以下の手に取りやすい価格帯で販売されている。
今回ドコモ向けに発表されたAQUOS wish2も、初代AQUOS wishのコンセプトをそのまま引き継いでいる。というより、プロセッサとOS以外は初代AQUOS wishそのままだ。プロセッサは初代モデルの「Snapdragon 480 5G」から「Snapdragon 695 5G」に変更されており、初期搭載OSはAndroid 12に更新されている。プロセッサの強化により、約10%の性能向上が期待できるという。
他キャリアから半年遅れての発売となる分、10%の性能がアップしている、そう考えることもできるが、小幅な性能向上のためにプロセッサを変更するだろうか。この疑問をシャープでAQUOSスマートフォンの開発を統括する小林繁氏に問いかけてみると、シンプルな答えが返ってきた。
「実は今、一部のチップセット(プロセッサ)が全然作れない」と小林氏は説明する。昨今の世界的な半導体不足などの諸事情によって、一部のプロセッサの調達が極めて困難になっているという。
AQUOS wishが採用しているSnapdragon 480は、まさにそうした“調達困難なプロセッサ”の1つとなっている。供給が不安定化しており、市販製品として継続して販売し続けられるような規模の調達が難しいという。こうした事情もあり、AQUOS wish2では比較的供給が安定しているSnapdragon 695 5Gに切り替えたというわけだ。
AQUOS wish2は本体や主要部品こそ前世代機と共通だが、プロセッサが変わると周辺部品の構成も変わるため、基板設計は大幅に変更されている。見た目では分からないが、中身は“ほぼ別物”となっているという。
同様の理由で新モデルが登場した製品としては、auが4月28日に発売した「AQUOS sense6s SHG07」が挙げられる。こちらは、2021年11月発売のベースモデルのAQUOS sense6 SHG05と機能はまったく同じであるだけでなく、重さやカラーバリエーションまで同一だ。sense6sでは、プロセッサを「Snapdragon 690 5G」から「Snapdragon 695 5G」へと変更しており、CPU性能が約12%、GPU性能が約35%向上している。
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