楽天モバイル“0円撤廃”で業界に波紋 常識を覆す新プランは受け入れられるのか石野純也のMobile Eye(2/3 ページ)

» 2022年05月14日 09時00分 公開
[石野純也ITmedia]

なぜ批判が噴出したのか、プラン変更の進め方や金額も理由か

 反発が大きかったのは、そのやり方が強引に見えたからだろう。他社が新料金プランを導入するときのように、UN-LIMIT VIとは別にUN-LIMIT VIIを作り、移行したいユーザーだけが選択できるのであれば、ここまで批判は集まらなかったはずだ。楽天モバイルも、「当初は(料金プランを変えたくないユーザーは)UN-LIMIT VIのままでいいと考えたが、法律上ダメになった」(同)という。楽天モバイルによると、こうしたやり方は、電気通信事業法27条の3に反する恐れがあるという。

 電気通信事業法27条の3では、競争を妨げる不当な利益供与が禁止されている。具体的なルールは施行規則に記載されており、1年あたりの料金の値引き額の合計が、1カ月の利用料を超えないことが提供条件として定められている。これは、もともと、主に長期利用者を過度に優遇した結果、競争の流動性が下がることを防ぐために導入されたものだ。楽天モバイルによると、UN-LIMIT VIとVIIの差額を割引と見なした場合、その額が1カ月あたりの料金を超えてしまうため、既存のユーザーにUN-LIMIT VIを提供し続けるのが難しいという。

楽天モバイル 電気通信事業法27条の3では、キャリアの禁止行為が規定されている

 ただ、UN-LIMIT VIの1GB以下0円は割引ではなく、あくまで正式な料金プランとして導入されていたもの。現行の料金プランより割高な新料金プランを導入した際に、その差額を割引と見なすのは、牽強付会(都合良くこじつけること)な印象も受ける。法令順守を盾に、もうからない“0円ユーザー”の排除に踏み切ったと捉えることもできてしまうからだ。過度な囲い込みを防ぎ、競争を促進することを目的とした法の趣旨に鑑みると、自動移行を正当化する理由として適切だったかには疑問符がつく。価格圧搾や不当廉売の疑いを解消するためとした方が、まだロジックとして受けやすかったかもしれない。

 三木谷氏は「常識的に考え、それほどの負担にならないということで判断した」と語るが、1GB以下の場合の料金が、0円から1078円へと一気に上がってしまうのも、UN-LIMIT VIIへの反発が大きかった理由といえる。大手キャリアのオンライン専用ブランドの場合、3GB程度のデータ容量はおおむね1000円前後。1GB以下の低容量プランはMVNOの主戦場で、日本通信が290円、NTTコミュニケーションズが770円で提供する。自社で設備を持つMNOが同程度の価格にするのは難しいかもしれないが、低料金を売りにする楽天モバイルであれば、1GB以下をもう少し安くすることはできたはずだ。

楽天モバイル 大手キャリアもオンライン専用ブランドでは、3GBで1000円前後。後発のキャリアとして、楽天モバイルの料金設定は割高に見える。写真はLINEMOのミニプラン発表時のもの

 三木谷氏が語っていたように、確かに新規参入当初と比べれば、エリアは広がり、Rakuten Linkなどのサービスも充実しはじめているのは事実だが、人口カバー率が99%を超えている既存キャリアとはまだ差も大きい。広さだけでなく、平均的な通信速度でも開きがあるのが現状だ。KDDIのpovo2.0は3GBトッピングを、ソフトバンクのLINEMOは3GBの「ミニプラン」をいずれも990円で提供しているが、こうしたキャリアとトータルで比較すると、楽天モバイルの低容量帯は割高に見える。

楽天モバイル 早期に人口カバー率97%を達成した点は高く評価できるものの、実態として、エリアはまだ他社に見劣りする

 1GB以下を0円にする大盤振る舞いぶりは、当初から継続が懸念されていた。これに対し、楽天モバイルは、楽天経済圏全体での収益を上げ、他のサービスで収益を補うビジネスモデルを描いていた。UN-LIMIT VI発表直後に行ったインタビューでも、同社のCMO(Chief Marketing Officer)を務める河野奈保氏は、「今まで楽天の他のサービスを使っていなかった方が、楽天モバイルから楽天エコシステムに入ることも数とはしては多い」とコメント。「このプランはアグレッシブすぎるわけではない」と語っている。

楽天モバイル 河野氏は、「アグレッシブすぎるわけではない」と語っていたものの、経営へのインパクトは小さくなかったようだ

 先に挙げた「ぶっちゃけ、0円で使われると困る」という三木谷氏のコメントは、この戦略が思惑通りには回っていなかったことを示唆している。とはいえ、継続的に提供できるか少しでも不安があるのであれば、料金プランにすべきではなかった。料金プランとは、ユーザーとの契約、言い換えるなら約束にほかならない。約款上、金額を改定する自由は残されているものの、頻繁な改定は信頼を失う。反故(ほご)にする恐れが少しでもあるのであれば、まずはキャンペーンとしてトライアル的に導入した方が、リスクは少なくなる。この点は、楽天モバイルの経験の浅さが露呈した格好だ。

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