世界を変える5G

KDDIが見据えるBeyond 5G/6G時代の世界 「先端技術」と「ライフスタイル」の両面で研究開発ワイヤレスジャパン 2022

» 2022年05月27日 06時00分 公開
[佐野正弘ITmedia]

 「ワイヤレスジャパン 2022」が開催された5月25日に、KDDI総合研究所 先端技術研究所所長で、KDDIの技術戦略本部 本部長でもある小西聡氏が基調講演に登壇。ライフスタイルと先端技術の両軸で進めているKDDIのBeyond 5G/6Gに向けた研究開発について説明した。

6Gに向け、先進生活者のライフスタイルを研究

 小西氏はまず、Beyond 5G/6Gに向けたKDDIの研究開発に関する方向性について説明。コロナ禍でネットとリアルの融合が進んだことから、Beyond 5G/6Gの時代にはよりリアルとバーチャルが融合し、一人一人の生き方の追求と経済発展の両立が求められるとしている。

KDDI 基調講演に登壇するKDDI総合研究所の小西氏

 その実現に向けた技術を開発する上で、小西氏は「顧客の利用シーンを考えて、そこからキャストするアプローチでライフスタイルの変革を考える」ことが大事だと話す。そこで大事になってくるのが「つなぐチカラ」になるというが、「つなぐ」というのは通信だけでなく、心や感情などのつながりで一人一人の思いを実現することも大事だという。

 KDDI総合研究所では現在、「ライフスタイルリサーチ」と「先端技術研究」の2つに取り組んでいる。2つの取り組みを循環させることが、Beyond 5G/6Gの実現につながると小西氏は話している。

KDDI KDDIのBeyond 5G/6Gに向けた研究開発体制。ライフスタイルリサーチと先端研究の2つに注力し、双方の取り組みを循環させることが重要だとしている

 ライフスタイルリサーチとは、要は生活で抱える課題を調査して洗い出し、その解決方法を提案・実証する取り組みになる。そのためにKDDIが展開しているのが「FUTURE GATEWAY」で、6Gの実用化がなされる2030年を見据え、現在先進的な(一風変わった)生活をしている人達の協力を得て、調査や課題解決に向けた提案などを実施しているという。

 そうした中から小西氏は、組み立て式の建物で場所を選ばず働ける「屋外ワークスペース」や、いつでもどこでも入ることができる移動式のサウナ「Hoppin'Sauna」などの実証プロジェクトを紹介。設備を用意して体験してもらうだけでなく、Hoppin'Saunaであればバイタルセンサーを用いて“ととのう”を数値化して可視化するなど、さまざまな研究も実施している。

KDDI 先進生活者からのリサーチから得た課題解決に向けた取り組みの1つ「Hoppin'Sauna」。いつでも利用できる移動式サウナを用意するだけでなく、センサーで“ととのう”を可視化する取り組みなども実施している

従来の常識を覆しネットワークもユーザー主体に

 無線通信に関する先端技術研究についても、現在取り組んでいるさまざまな事例を紹介した。KDDIではユーザーを中心に、一人一人が快適な通信ができる「ユーザセントリックネットワーク」を掲げ、その実現に向けたユーザー中心のネットワークの実現に向けた取り組みを進め、それを新しいライフスタイルやユースケースの実現に結び付けているという。

KDDI 「ユーザセントリックネットワーク」の全体像。複数の技術によってユーザーを中心にデバイスや基地局を連携させ、高品質な通信ができる環境を提供する

 その実現に向けた技術の1つが「ユーザセントリックRAN」である。これは多数の基地局を連携させ、ユーザー専用の通信エリアを形成する仕組みであり、その中心となるのが「Cell−Free massive MIMO」という技術だ。

 これは複数の基地局がカバーする「セル」を均等に並べてエリアをカバーする従来のセルラーシステムの概念を大きく変え、ユーザーが基地局の周辺にいたときに、その周辺の場所だけをセル化するというもの。従来のセルラーシステムではセルの境界線上で通信すると品質が悪くなるなどの課題があるが、Cell−Free massive MIMOではユーザー主体にエリアが構成されることからそうした問題がなく、基地局の配置に関係なく通信品質を確保できるようになるという。

KDDI 「ユーザセントリックRAN」の中心となる技術「Cell−Free massive MIMO」。面的にエリアカバーする従来のセルラーシステムの概念を変え、ユーザーのいる場所をセル化することで、基地局の配置に影響されることなく通信品質が確保できるという

 それゆえ小西氏は、Cell−Free massive MIMOが「大げさに言うとパラダイムシフト」というほど大きな変化をもたらすが、一方でその実現には計算量が増える、基地局間の連携で無線信号処理が増え干渉が発生するなどの課題がある。そこでKDDI総合研究所では、必要なアクセスポイントのみ利用することで計算量の抑制と通信品質を両立する「AP Cluster化」や、無線信号処理を抑えながら局舎間の干渉を低減させる「CPU間連携」などの技術を用いて解決しているそうだ。

 ユーザセントリックRANの実現に向けては、無線側だけでなくフロントホールに活用される光ファイバーの改善も必要になると小西氏は話す。Beyond 5G/6Gの時代には通信量が現在の10倍に増え、光ファイバーの容量も現在のままでは足りなくなることが予想される。

 そこでアナログの無線信号を中間周波数帯で周波数多重、つまり重ねることにより、1本の光ファイバーで複数の無線信号を伝送するIFoF(Intermediate Frequency over Fiber)という方式を新たに開発した。実証では576基地局分となる総容量1.3Tbpsの無線伝送を実現した。

KDDI Beyond 5G/6Gに向けては光ファイバーの大容量化も必要になることから、アナログの無線信号を中間周波数帯で多重化するIFoF方式を用い、大容量化を実現している

 ユーザセントリックRAN以外にも、ユーザセントリックネットワークを実現するための取り組みは進められている。その1つが、特定方向に電波を反射することにより、Beyond 5G/6Gで利用が増える高い周波数帯でのカバーを広げる「メタサーフェス反射板」だ。2021年度には液晶を用い、電圧で反射する方向を変えられる「液晶メタサーフェス反射板」を開発したが、将来的にはユーザーを追従して反射方向を変えられるようにしたいとしている。

KDDI 今後利用が増える高い周波数帯を特定方向に反射し、エリアを広げる「メタサーフェス反射板」。液晶を用い反射角を変えられるものも開発している

 そしてもう1つが「仮想化端末」だ。これは今後ニーズが増える上りの通信速度をより高速化するための取り組み。スマートフォンなどの端末に接続して利用するウェアラブルなどの周辺デバイスのアンテナと協調して通信することにより、上りの通信速度を向上させる上で課題となっている、アンテナ数や送信電力などの課題を解決できるという。

 ただその際、端末と周辺デバイスとの間で高速大容量が求められるが、端末間の距離が近いことからその接続には100GHz以上のテラヘルツ波が活用できると小西氏は説明。テラヘルツ波で端末間接続を実現するための小型平面アンテナも開発しているそうだ。

KDDI 「仮想化端末」は、端末に接続する周辺デバイスのアンテナを用いて上りの通信速度を向上させる技術。端末と周辺デバイス間の通信にはテラヘルツの利用も想定されている

メタバースや宇宙に向けた取り組みも披露

 小西氏は最後に、Beyond 5G/6G時代の社会基盤に向けた研究開発についても説明している。その1つは、KDDIが注力しているメタバースやXRに関する技術だ。

 現在のメタバースと聞くと、仮想空間でアニメ風のアバターが用いられる2次元に近い世界観がイメージされることが多い。だが小西氏は2030年に向けては、映像が高精細化しアバターなども3次元をベースとしたものに進化していくと見ているようだ。

 そこでKDDI総合研究所で研究を進めているのが、「PCC」(Point Cloud Compression)という点群圧縮技術である。これは3D空間で人物を表現する点の集まりを、品質を落とすことなくデータ量を40分の1に圧縮できるというもので、1Gbpsもの点群映像を、品質を落とすことなく18Mbpsにまで圧縮できる様子も披露された。

KDDI 3Dで人物を表現する点群を圧縮する「PCC」という技術。5Gでも伝送するのが厳しい1Gbpsもの点群を、18Mbpsにまで落とすことができるという

 そしてもう1つ、小西氏が打ち出したのがセキュリティに関する技術である。量子コンピュータが広まる今後、現在の暗号化技術では破られることが見えていることから、よりセキュアなネットワークを実現するため超高速暗号「Rocca」を開発した。Roccaは6Gの「6」をイメージして付けられたとのことだが、6Gの時代には通信速度が100Gbpsに達し、暗号処理がボトルネックになることも考えられる。それゆえRoccaはセキュリティの確保だけでなく、暗号化がボトルネックにならないよう高速性も重視されているとのことだ。

 小西氏は、Beyond 5G/6Gのさらに先の取り組みとして、宇宙の通信環境整備を進めていく必要があることも説明。そこでKDDI総合研究所では、まず月での通信を意識した研究を進めており、地球と月との通信や、月面での電波伝搬特性などの調査研究も進めている。

KDDI 宇宙に向けた取り組みとしては月に関連する通信の研究に取り組んでいる。月までの通信の研究や、月面での電波伝搬特性の調査などを実施している

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