一方で、価格を抑えているがゆえに、製品の売りとなるような機能は搭載されていない。特にスマートフォンは、2019年10月の電気通信事業法の改正以降、ミドルレンジの市場が激戦区になりつつあり、価格帯を下げた端末も複数登場している。Xiaomiがソフトバンクとタッグを組んで21年に発売した「Redmi Note 9T」以降、2万円台で販売される5Gスマートフォンも徐々に増えている。
藤岡氏も、「海外勢、特に中国勢はミドルレンジからエントリーレベルがかなりすごいスペックで、5Gやおサイフケータイまでついている」としながら、「フルパワーで黒船がやってきている状況で、価格やスペックだけではどうしてもかなわない」と語る。コンシューマー市場で、こうしたメーカーと正面からぶつかってしまうと、勝算が見込めないというわけだ。
そのため、当初はジェネシスが得意とするB2Bでの販売が中心になる。第1弾がエントリーモデル中心なのは、「B2Bでお使いいただきやすい製品仕様や価格帯」(同)を意識したからだ。小売店や飲食店で、注文を取ったり、決済を行ったりするためのスマートフォンがそれにあたる。タクシーの座席に配置されるタブレットも、同社が手掛けてきた。こうした用途であれば、ミドルレンジ以上の機能やスペックは必要ない。
また、ジェネシスは受託製造を行ってきた企業で、中国・深センには自社工場も構えているため、「小ロット、多品種は得意」(同)な分野。そのノウハウを生かし、aiwaデジタルでもロゴや形状、アプリなどの変更に対応していく。「初期設定を変えたり、お客さまのアプリを最初からインストールしたりするサービスも、少ない数から対応できる」(同)といい、B2B向けにキッティングサービスも展開する。
「自社製品ではあるが、ディストリビューターとともに、半分カスタムODMとして展開していきたい」というのがジェネシスの戦略だ。スマートフォンでいえば、家電量販店やMVNOのオリジナルモデルをaiwaデジタルのブランドで投入することもできるという。こうした点は、「海外勢や大手メーカーにはできないふるまい方だと思っている」という。
とはいえ、それだけではaiwaデジタルのブランドを冠し、ジェネシス自身がマーケティングや販売までを一気通貫で手掛ける意味が薄くなってしまう。長期的な視点として狙っているのは、やはりコンシューマーだ。藤岡氏は、「2、3年以内には、コンシューマーの比率を半分ぐらいに持っていきたい」と語る。そのために計画しているのが、“aiwaデジタル”らしさを作り上げることだ。
aiwaデジタルの特徴を出す上で同社が考えていることは3つあるという。1つは、アイワのブランドイメージを生かした音響技術。もう1つが、デザインだ。ここに、ジェネシスが製造を手掛けてきたスタートアップとのコラボレーションを加え、ブランドイメージを確立していく。こうしたaiwaデジタルのエッセンスは、第2弾以降の製品に反映させる構えだ。
ソニー傘下時代のアイワは、もともとオーディオ製品を主力にしていたメーカーなだけに、音響技術はaiwaデジタルブランドでも核になる。これを実現するため、今後の製品にはスウェーデンの音響研究機関が開発した「Dirac HD Sound」を採用。ハードウェアやOSレベルから手を入れ、スピーカーや付属イヤフォンで聴くサウンドをチューニングしていくという。
ただ、オーディオはアナログ的な要素も多い。「(ジェネシスの工場がある)中国は若いエンジニアが多く、アナログ周辺のノウハウは正直乏しい」ため、同社は「老舗オーディオメーカーや、ソニーにいた方にもお声がけをしている」と、技術者の人材採用を強化していく。オーディオ技術に長けた熟練のスタッフが評価や指導に携わることで、aiwaデジタル製品全体のオーディオ技術を底上げする方針だ。
デザインは、「優しく空間に融和し、自然に溶け込む製品を送り出していく」ことを目指す。aiwaデジタルのブランドディレクターとして、数々の家電を手掛けてきたアエテの鈴木健氏を起用するのは、そのためだ。鈴木氏に打診があったのは、発表会の4週間前だといい、そのデザインが反映され、ブラッシュアップされるのは第2弾以降の製品からになる。
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