iPhoneとApple Watchユーザーなら気になるであろうApple Watch単独のモバイル通信。スマートフォンが手元になくてもApple Watchだけで通話したり、データ通信サービスを用いてストリーミングサービスへアクセスしたりできる。
Apple WatchはGPSモデルと、セルラーモデルの大きく2種類存在する。このうち、単独通信が可能なのはセルラーモデルだ。だが、現状だとApple Watch単独通信サービスの選択肢は非常に狭く、対応しているのは下記ブランドにとどまる。
上記の通り、NTTドコモはahamoでもワンナンバーサービスを提供しているが、KDDIはUQ mobileやpovoで、ソフトバンクはLINEMOやY!mobileでApple Watch向けの通信サービスを提供していない。この理由について、両社広報は「回答を控えたい」としているが、そのヒントは以下に隠れている。
2020年6月30日に実施された「競争ルールの検証に関するWG」の議事録を見ると、Apple Japanが「技術的に非常に複雑なオペレーションが必要になっており、それが理由でこのセルラー機能だけが使えない」と述べていることが確認できる。
同社は「弊社(Apple)のeSIMのプラットフォームはGSMAのeSIMの仕様を順守したものとなっている」と述べており、基本的には通信事業者が対応すれば、問題なくApple Watchのセルラー対応を果たせるようである。
しかしpovoとUQ mobileはKDDIのサービス、LINEMOとY!mobileはソフトバンクのサービスなので、auのナンバーシェアやソフトバンクのApple Watch モバイル通信サービスと同様の仕組みを活用すれば、Apple Watchのセルラーモデルは技術的には使えるはずだ。
では、なぜpovoやLINEMOでは使えないのか。考えられるのはコストの問題だ。サブブランドやオンラインブランドでApple Watch向けの通信サービスを提供したとしても、そこに伴うシステム改修のコストが発生する。具体的には、手続きを行うWebサイトを作り、ユーザーを適切に誘導しなければならない。それだけでなく、ユーザーの問い合わせやトラブル対応などのサポートコストもかかる。やはり低料金、低容量を基本コンセプトとした事業者やサービサーだと、その点もボトルネックになるはずだ。
店舗を持たない、つまり店頭でのサポートを全く行わずにサービスを提供しているオンラインブランドなら、なおさらオンラインで完結しなければならない。安さが売りの事業者やサービスブランドで、Apple Watch単独通信を実現させるには、キャリア側の経営判断が必要になるということだろう。
一方、ahamoは他社ブランドに先んじてワンナンバーに対応させたことで、ahamoへの乗り換え障壁を下げようとする狙いがみてとれる。eSIMや電話番号の発行、ネットワーク側の調整は、キャリアが運営するブランドならクリアできるだろうが、サポートや運営コストという点では難しい面もあるのだろう。
安価なサブブランドやオンラインブランドを契約しながら、Apple Watchも利用したいというニーズは確実にある。その中でもpovoは月額0円なので、緊急時の受話用としてApple Watchを持つ、あるいはApple Watchでデータ通信を使うときにだけトッピングを追加する、といった使い方ができて、Apple Watchとの相性もよさそうだ。
ここまでお伝えしたようにMVNO、格安ブランドでのApple Watch単独通信に至るまでの道のりは容易ではないが、各事業者には何らかの形で実現にこぎつけてもらいたい。
事業者観点で考えてみると、1つの電話番号を複数の端末で共有する仕組みが難しければ、KDDIのauブランドが提供する「ウォッチナンバー」で簡単に具現化できそうだが、そのウォッチナンバーもキャリアやブランドのサービスではなく、AppleのApple Watch向け「watchOS 7」から提供されている「ファミリー共有設定」によって成り立っている。
これは先の電話番号シェアとは異なり、サービサーがApple Watchに対してiPhoneとは違う電話番号を割り当てることで、Apple Watch単体で音声通話やデータ通信を行えるようにする仕組みだ。ウォッチナンバーならau以外のユーザー(UQ mobile/povoのユーザーを含む)でも使える。iPhoneとは連携できず、iPhoneを持っていない人向けのサービスなので、iPhoneの番号にかかってきた電話をApple Watchで受けることができない。
しかし、iPhoneのWatchアプリからウォッチナンバーを申し込むには、ウォッチナンバー契約専用SIM(au ICカード、またはeSIM)が必要となり、KDDIではその新規発行手続きが行えるサイトを用意している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.