とはいえ、楽天モバイルは直近まで、プラチナバンドの獲得を目指し、自身でのエリア拡大を急いでいた。4月には、3MHz幅の700MHz帯割り当ての希望を表明したばかりだ。ローミングもコストを押し上げる要因になるとして、早期の縮小を狙っていた。
このタイミングで、期間の延長や東名阪への拡大をしたのはなぜなのか。三木谷氏は、「競争というものはある程度、自社回線をベースにするにしても、ネットワークはネットワーク。シームレスになれば、どちらでも構わないという考え方に変わりつつある」と方針転換したことを明かし、次にように語る。
「今回、新しい契約を中期的に結んだことで、可及的速やかに自分たちのネットワークを構築する必要がなくなってきた。今やっている分は進めていくが、(ローミングとの合算で人口カバー率は)99.9%までいっているので、それほど急がなくてもいい」
カウンターパートとなるKDDIの代表取締役社長、高橋誠氏も「キャリアは値下げということで数年間苦しんで対応してきた。かつ5Gの投資もしっかりやらなければいけない。その中では、協調領域をある程度増やしていきたい」としながら、ローミング契約を新たに結んだ経緯を以下のように話す。
「ローミングを始めたときから定期的に協議をしているが、そういう話をしていく中で、楽天も5Gの投資に傾注していきたい(ことが分かった)。われわれも4Gのネットワークはできるだけお貸しした方が、ネットワークの効率性が高くなるのでありがたい。
今期は楽天ローミング収入だけで600億円ぐらいマイナスになる。一挙に減らすという話だったので、そんなことをされる必要はないので緩やかに減らしたらどうか。足りないところはお貸しするという話をした。4Gの効率性を高め、5Gに傾注したいという思いは、われわれも楽天も同じだと思う」
楽天モバイルはプラチナバンドの獲得を待たず、「1年かけてやろうとしていたこと(エリア改善)を一気にやる」(三木谷氏)ことができる。KDDI側は、4Gの整備の拡大が終わり、徐々にトラフィックが5Gに移っていく中、その設備を貸して効率的に収入を得られる。新しいローミング契約は、そんな両社の思惑が合致した結果だったといえそうだ。
高橋氏、三木谷氏の双方とも、その契約の中身は「守秘義務がある」として明かさなかったが、ローミングエリアでのデータ容量を無制限にできた背景には、料金体系の改定もあったと見て間違いない。これまでの契約では、ローミング料金が従量制で1GBあたり500円に近い料金がかかっていた。楽天モバイル側は、容量を5GBに制限せざるをえなかったというわけだ。三木谷氏もたびたび「高い」と不満をもらしていた。
これに対し、Rakuten最強プランでローミングエリアのデータ容量を無制限にしても、KDDIが得られる収入は「緩やかな減収」(高橋氏)になっていくという。三木谷氏も、「月間150億円程度の費用削減目標は変えていない。新ローミング契約は財務の安定性に貢献する」と力説する。KDDIローミングという“奥の手”を繰り出した楽天モバイルだが、エリアの拡大は同社にとって強力な武器になる。エリアの不安がある程度払拭(ふっしょく)されれば、キャリア間の競争も再び激化する可能性がありそうだ。
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