KDDIは5月11日、楽天モバイルとの「新たなローミング協定」を発表した。同日に実施されたKDDIの決算会見では、KDDIの高橋誠社長に対して、このローミング協定に関する質問が殺到した。
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ローミング協定は、KDDIと沖縄セルラーが構築したau 4G LTEのモバイルネットワークの一部を、楽天モバイルへ貸し出すという内容だ。楽天モバイルユーザーは、楽天自社回線のサービスエリア外で、「パートナー回線」としてau網を利用することができる。
2018年に締結された最初のローミング協定には、終了の条件が定められている。楽天モバイルの自社エリアの人口カバー率が70%を上回った段階で両社の協議を行い、都道府県単位で提供を終了するという条件になっている。楽天モバイルは2022年末時点で全国での人口カバー率98%を達成しており、ローミングを段階的に終了している状況だ。
今回の協定は当初のローミング協定の内容を改定し、ローミングを行う場所を拡大する内容となる。具体的には、前回協定から除かれていた、東京23区、大阪市、名古屋市の繁華街エリアがローミングエリアの対象となる。
KDDIにとって、新たなローミング協定はローミング収入の劇的な減少を抑えるという意義がある。
この記事では、KDDIの2022年度通期決算会見から「新たなローミング協定」に関する質問を紹介する。
――(記者) 楽天とのローミング契約に関して。楽天モバイルはにとっては足元の財務が厳しい状況の中での大きな方針転換だったと思う。楽天モバイルさんの今の状況を高橋社長はどのように見ているのか。率直にお聞きしたい。協力関係の拡大もありうるのか。
高橋氏 他社のことをあまり言ってもあれだが、足元の競争状況を見ると、楽天モバイルさんの加入者がそれほど加盟者が増えているわけではないかなというふうに見ている。
楽天ローミングを始めたときから、(条件に基づいて)定期的にローミングエリアをどう(終了)していくかという協議はしている。協議を進める中で、楽天さんからしても、5Gへ投資を集中させていきたいという思いがあられるのだと思う。
われわれとしても5Gが競争領域になるので、4Gをお貸しした方がネットワークの効率性が高くなるので、ありがたいなと思っている。
KDDIもどちらかというと4Gネットワークの効率性を高めていって、5Gに投資を傾斜させていたい。その思いは楽天さんも同じだと思います。
―― これまで、楽天モバイルへのローミング料の単価が高いという指摘があった。今回の改定で単価も変更しているのか。
高橋氏 契約の詳細についてはご容赦いただきたい。KDDIとしては、ローミング収入がドンと減るのは嫌だなと思う。経営へのインパクトを踏まえると、減収幅はできるだけ緩やかにしていきたい。2025年度の通期予想では、楽天ローミングの収入だけで600億円のマイナスになり、この影響はなるべく抑えたい。
一方で、楽天さんからは、足元の財務の状況もあるのか「一挙に減らします」というお話を受けていた。KDDIとしては「もう少し緩やかに減らされたらどうなのか。借りたいところについてはお貸ししますよ」と交渉をしながら、今回の合意に至っている。
楽天さんのお考えは分からないが、ローミングを終了したエリアで設備投資をするよりも、ローミングを継続した方がある程度有利だと考えているのだろう。KDDIとしては大幅な変動は避けたい。大幅にディスカウントしたということもなく、両者がいいあんばいで折り合ったとお考えいただければ。
―― 楽天とのローミング協定の改定により、どの程度のプラスになるのか。
高橋氏 改善額についてはまだ公表していないが、数百億円の規模になると考えている。
―― 楽天モバイルへローミングしている周波数帯はプラチナバンド。ユーザーが集中することへの負荷は問題ないか。
高橋氏 楽天モバイルへのローミングトラフィックは徐々に減りつつあるので大丈夫だと思う。
―― 2018年の発表では、楽天モバイルとのローミングでの連携以外にも、決済や物流の分野で楽天グループと協力するという内容も含まれてた。この現状は。
高橋氏 決済分野で、au PAYの加盟店拡大のために、楽天ペイの加盟店での対応を行うという話をした。ここは三木谷さん(楽天グループCEO)が本当によく対応してくれて、楽天ペイ加盟店のほとんどでシステム上はau PAYでも決済できるようになっている。また、ECの分野でも楽天物流のリソースを順調に使わせていただいている。
ただし、今回の発表はあくまで楽天モバイルとのローミングに限定したもので、それ以外の分野については協議していない。楽天との関係はパートナーシップなので、可能性があれば協調領域を加えることもあるとは思う。
―― 楽天モバイルの収益性が悪化しているこのタイミングでKDDIが救いの手を差し伸べるのは、何か見返りがあるのではないかと勘繰ってしまう。どうか。
高橋氏 真面目な話、日本は人口減少が進む中で、(政策により)値上げは難しい状況となっている。一方で(政府に)田園都市国家構想で5Gを広げろとご要望をいただいている。一生懸命ネットワークの整備を進めなければならないという状況だ。一方で、競争レイヤーは通信より上のサービスへと移っている。この状況で投資の効率性を高めたいと考えるのはモバイル通信事業者なら当たり前だと思う。
楽天さんも4Gも5Gも整備しなければならないという中では5Gへ重点的に投資をするだろうし、KDDIとしても4Gでローミング収入を得ることで投資効率を上げたいという考えがある。この両者のウインウインの関係だと思う。どちらかに片務的であったり、これ以上の見返りがあるというものではない。
―― 逆に、競争領域できっちり競争をしていたら、楽天モバイルに手を差し伸べないのではとも思う。楽天の競争力が落ちているからこそ、手を差し伸べているのではないか。
高橋氏 それは、みなさんが判断いただいていいと思いますけども。今は楽天さんにMNPで圧倒的に負けているということはない。むしろ、われわれの方がMNP転入の数字では上回っていると認識している。
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