規制緩和の流れは消費者にとってもプラスになるが、緩和されても抜け道があることは事実だ。これに対し通信事業者としては適切に対応しなければならない。
例えば通信サービスを目的としない乗り換え(いわゆる踏み台行為)によって、特定のユーザーに対して過度な利益供与が行われる可能性がある。これが規制緩和によって、2万2000円から4万4000円の還元が可能となれば、今まで以上に不正行為が加速する可能性があるのだ。
この「踏み台行為」について、総務省は問題視しながらも「踏み台と通常利用者の判別が難しく、縛りなどの規制を行えば市場の自由化と相反する」という見解を示している。また、通信事業者は割引などを用いて消費者を勧誘するため「踏み台にされる事業者側にも原因がある」と有識者会議内でも指摘されている。
そのため、MVNOなどの事業者は「踏み台対策」も兼ねて上限にあたる4万4000円までの利益供与を行わないものと考えられる。その一方で、大手キャリアでは子回線契約へ顧客を誘導する「抜け道」を使うことで、高額な端末の「一括1円」が復活する可能性がある。
例えばドコモの「5Gデータプラス」はドコモの5G回線契約者であれば、月額1000円で利用できる子回線だ。これを契約すると「新規契約」となるため、現時点でも最大2万2000円の利益供与を受けることができる。
この利益供与が4万4000円となった場合、MNPによる乗り換え+新規子回線契約で最大8万8000円※の割引が可能となることから、iPhone SEやPixel 7aといった人気機種が一括1円で購入できるようになる。
この場合、回線契約が自社内で完結することから「踏み台行為」にも該当せず、端末価格を値引いたわけでもないので、1円で販売しても規制をすり抜けると考えられる。高額な端末を安く提供する抜け道ではあるものの、法の網をくぐる「潜脱行為」には該当しないため、上記の行為が横行した場合は見直しが必須と考える。
現時点のまま規制緩和を行うと、こうした潜脱行為は確実に起こると考える。キャリアによっては、新規で上記のようなプランを追加したり、2回線目を半年間ポイント還元したりするなどの対応も考えられる。
最終的には子回線や複数回線契約を前提とした値引き施策を組むことで、1円スマホの復活も考えられる。これは、消費者にとって高額な端末を安く買える一方、複数回線の契約による“通信プランに関するトラブル”の原因となったり、メーカーや通信事業者の新規参入が難しくなったりするなど、公正な競争が大きく阻害される可能性もある。
規制緩和によって高価になりつつあるスマホが手ごろに買えるようになる反面、新たな問題の火種になる可能性も残っている。公正な市場を形成するためにも、関係各所は適切な対応を行ってほしい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.