ただ、それでも先行きには不透明な部分が残る。決算説明会では、損益分岐点を超えるシナリオとして、契約者数が800万から1000万回線、ARPUが2500円から3000円の場合のケースが示された。ここまでユーザーが増え、ARPUが上がれば、ネットワーク費用や販管費の合計を大きく上回り、楽天モバイルの事業がキャッシュを生み出せるようになる。
一方で、現状のペースが続いたとしても、1年で120万契約。800万契約達成には、2年半の月日がかかる。1000万契約だと、その期間はさらに延び、4年以上の時間がかかる。ARPUも同様で、Rakuten最強プランの上限が3278円であることを踏まえると、3000円達成には、かなりの割合のユーザーが20GBを超えるか、複数のオプションを契約する必要がある。現状ではトラフィックの伸びに応じてARPUは右肩上がりになっているが、どこかで頭打ちになるリスクもある。
また、プラチナバンド獲得後にコストを抑えながら、どこまでエリアを広げられるかも未知数だ。先に述べたように、楽天モバイルでは既存の基地局をアップデートすることで、700MHz帯に対応していく方針を決めている。一方で、楽天モバイルが展開する1.7GHz帯と700MHz帯では、その周波数特性が大きく異なる。同じ場所で700MHz帯を発射すると、想定以上に電波が飛びすぎてしまい、かえってネットワークの品質を落としてしまいかねない側面がある。
実際、ドコモのネットワークで発生している通信品質の低下も、混雑地域で800MHz帯にトラフィックが集中しすぎているのが、その一因だ。こうした楽天モバイルの投資計画に対し、ソフトバンクの宮川氏は、「キャリアの先輩として一言申し上げたい」としながら、「飛びやすいから基地局は少しでいいというのは無しにしていただきたい。取れたそれなりに設備投資をしていただきたい」とくぎを刺す。想定通りにネットワークが構築できず、設備投資コストが上振れしてしまう可能性がある点は懸念材料だ。
三木谷氏は、「黒字化して国内ナンバーワンキャリアになる」とぶち上げるが、今のペースだと、8700万契約を超えるドコモを抜くのは820カ月後。68年後の話になる。目標達成には、純増数を伸ばすさらなる秘策が必要だ。ただ、楽天モバイルのなりふり構わない猛攻には競合他社から“ものいい”もつけられている。その1つが、Rakuten“最強”プランというネーミング。「根拠も示さず『最強』という言葉を使っていいのか」(業界関係者)と疑問視する向きもある。
ソフトバンクの宮川氏も、「プラン名についてコメントする立場ではない」としながら、「シビれるなと思って見ていた」と語る。ソフトバンクには「実害があるかというとないので静観していた」としつつも、「お客さまに誤認されるようなことはまずかろうということで、現場が総務省と打ち合わせしている」と明かす。
KDDIの高橋氏は、パートナーエリアの説明に対し、「若干過度な説明だと思って見ていた」とする。KDDIローミングは「800MHz帯だけで、東名阪で一部拡大した(する)が、それほど大きなエリアを貸すわけではない」(同)からだ。
事実、Rakuten最強プランの発表直後には、ネット上で、「KDDI回線そのものを安価に使える」との誤解も散見され、KDDIはネットワークの違いを説明するなど、対応に追われた。秋以降、マーケティングを強化する予定の楽天モバイルだが、アクセルを踏み込みすぎると、他社や規制当局から“待った”がかかる可能性もありそうだ。
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