新型「Apple Watch」に秘められた“大きな飛躍” 実機に触れて分かった、スペックに現れない進化Series 9はマイナーバージョンアップか?(2/2 ページ)

» 2023年09月20日 22時00分 公開
[林信行ITmedia]
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Apple Watch Ultra 2は最も明るいディスプレイと新しい文字盤も魅力

 こういったApple Watch Series 9の新しい特徴は、ほぼ全てApple Watch Ultra 2の新しい特徴でもある。エクストリームな環境で使う人が多いApple Watch Ultra 2では、ダブルタップの機能は特に重宝するだろう。

 画面の明るさも、さらにパワーアップして最大3000ニトになっている。これはApple歴代製品の中で最大の明るさだそうだ。

 実際、暗い部屋でフラッシュライト(懐中電灯)機能を起動すると、その明るさに驚く程だ。夜間の災害で停電が起きると、まずは懐中電灯を探すのが一苦労だが、Apple Watch Ultra 2を常に身につけていれば、そんな心配も要らなさそうだ(細かいことだが、Apple Watchのフラッシュライト機能は明かりが自分の顔の方を向いている時は少し暗くなってまぶしさで視界が悪くなるのを防ぎ、外側に向けた時だけ明るくなる。この配慮が素晴らしい)。

 点滅モードにすると、その明るさに驚く。3000ニトの明るさはあまり長時間維持ができないようだが、夜間に遭難したときなどにも重宝しそうだし、暗いパーティー会場などで注目を集めるのにも使えそうだ。

Apple Watch Ultraだけで利用可能な文字盤「Modular Ultra」。情報の圧縮度が最も高い文字盤の1つだ
Apple Watch Series 9 Ultra 2 スマートウォッチ アップル 新たな文字盤が追加され、大画面を生かした多くの情報を一目で確認できる

 ダブルタップと明るいディスプレイだけでも魅力的だが、さらにApple Watch Ultra専用のModular Ultraという文字盤が用意されている(2022年に発売された初代Apple Watch UltraでもwatchOS 10にアップデートすれば利用可能になる)。上下に円形のコンプリケーションを合計6個配置できデジタル表示の時計の文字サイズを2段階で調整できる。

 小さいサイズの場合は、時刻表示の下にもう1個コンプリケーションを表示し、さらには文字盤全体を秒針/高度/水深のいずれかの情報が取り囲むというかなり情報量満載の文字盤になっているが、細くてモダンな文字盤の字体も美しく読みやすい。

 中にはこの文字盤のために、Apple Watch Ultraシリーズを使いたくなる人もいるのではないだろうか。

Apple初のカーボンニュートラル製品 バンドも大幅に素材を見直し

 このように、一見マイナーバージンアップに見えるアップデートでも、買った人が「アップグレードしてよかった」と十分に満足してくれる機能を用意してくれているのがAppleだが、今回、ここまでで紹介したこと以上に、スペック表には表れにくい大きな変化が起きている。

 実は、Apple Watch全製品が完全にカーボンニュートラルな製品になったのだ。つまり、製造や流通にかかる電力はもちろん、購入したユーザーが日々、製品の充電に用いる電力まで含めて、Appleが消費した分を上回る再生可能エネルギー(つまり地球に負担をかけないエネルギー)を生み出してオフセット(帳尻合わせ)をしてくれている。

 つまり、ユーザーは今年の猛暑の一因とも思われている炭素排出に加担してしまった罪悪感を感じずに製品を購入できるのだ。

Apple Watch Series 9 Ultra 2 スマートウォッチ アップル 新型Apple Watchシリーズは、3モデルともカーボンニュートラル対応のモデルが用意されている

 製品に使われている素材もほとんどがリサイクル素材なら、輸送も可能な限り船を使う。こうした工夫により、Apple Watch Series 9が生み出す炭素は合計で8.1Kgにまで抑えられているが、Appleはその超過分を環境から二酸化炭素を取り除く活動を支援して補っている。

 今回、製品として新しくなったのはApple Watch Series 9とApple Watch Ultra 2だけだが、合わせて第2世代のApple Watch SEも炭素排出の少ない新しいスポーツループ(バンド)が付属するように仕様変更されたことで、トータルではカーボンニュートラル、つまり炭素排出がゼロの製品となった。

Apple Watch Series 9 Ultra 2 スマートウォッチ アップル 最廉価(税込み3万4800円〜)のApple Watch SEもカーボンニュートラル対応だ

 ここが大事なポイントで、今回のAppleの製品発表ではApple WatchやiPhoneのケース、バンドといったアクセサリー類の素材が全て見直された。革製品の提供は廃止され、代わりにFineWovenというリサイクル素材がMagSafe対応のiPhoneケースやウォレット、そしてApple Watchのバンドに採用されている。

 くすんだ色になりがちなリサイクル素材で作られた製品ながらも、そこはAppleのこだわりがあったのか製品色に近い色味で着色できており、最初の挑戦としては頑張っているのが感じられる。

 ただ触覚に関しては、正直、これまでの革製品などと比べても、チタンやアルミといった最新のApple製品そのものが持つ肌触りと比べても質感が落ちるのは否めない。肌との間に隙間を作るためだろうが、表面は少しざらついた感じで、少し肌触りが落ちる。今後、どこまで質感を高められるのか期待したいところだ。

 今回、Apple Watch Ultra用のトレイルループやアルパインループに新色が出て、これが何ともシックでいい感じのバンドに仕上がっている(写真でApple Watch Ultra 2につけているのはオレンジ/ベージュループ )。

 また同じリサイクル素材(82%がリサイクル糸でできている)のスポーツループも軽さ、肌触り、そしてシックな色味ともに良い感じで、個人的にはこちらを勧めたくなる。

 ちなみに、Appleは革製品を否定しているわけではない。Apple直営店で発売されるApple Watch Hermesのバンドはラバーやニット素材などばかりだが、これはAppleのように世界規模で大きなボリュームでの取引をしている企業が革製品を扱ってしまうと、二酸化炭素排出量の問題が無視できなくない規模になってしまう。

 一方でHermesには、これまでにも職人の手仕事で数量限定の適量での物作りをしてきた歴史がある。このため、AppleはHermesが同社のストアで革製バンドを売ることは止めてはいない。

Apple Watch Series 9 Ultra 2 スマートウォッチ アップル Apple直営店で扱っている「Apple Watch Hermes」のバンドからは革製がなくなった。左から絹のようになめらかなウーブンテキスタイルのツイルジャンプ(ネイビー/ルージュH)シンプルトゥールストラップ、1930年に初めて登場したHermesのシグネチャー、コットンキャンバスから着想を得たトワルHのゴールド/エクリュ、ニット素材を職人が立体的なシェブロンパターンに編み上げたHermesブリドン(カーキ)、耐水性の高いソフトな成形ラバーでできたApple Watch Hermes キリム(オレンジ)シンプルトゥールストラップ

 ちなみに米国で販売されるApple Watchには、電力グリッドへの負担が少ない時間を狙って充電するのを手助けする「Grid Forecast」というアプリも標準で付属しているという。

 毎年、多くの会社から膨大な数のガジェットが発表されるが、これらの製品もいずれは同様にカーボンニュートラルになる必要が出てくる。Appleはそうした製品に5年も10年も先駆けて、これからある製品の形を示しているのはすごいことだと思う。

 watchOS 10とダブルタップによる新しい操作体系、ダブルタップや端末内Siriを実現するAI時代のプロセッサS9 SIP、バンドまで含めたカーボンニュートラルな製造/流通のプロセスの採用など、2023年のApple Watchはスペック表に表れない、今後の方向性を左右する部分で特に大きな進化を果たしている。

Apple Watch Series 9 Ultra 2 スマートウォッチ アップル Appleは新型Apple Watchシリーズだけでなく、iPhoneなど他製品のパッケージングなども見直し、環境負荷が減る素材を選び、炭素排出が減る方法で製造し、パッケージの小型化といった努力で輸送にかかるエネルギーやコストを削減している
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