日本電信電話株式会社等に関する法律(通称「NTT法」)の在り方を巡って、NTT(日本電信電話)と、他の大手通信会社(KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)との対立が深まりつつある。
そんな中、楽天モバイルの三木谷浩史会長(楽天グループ社長)がX(旧Twitter)に投稿したポストをNTT広報室が引用をして“反論”を行った。
NTT広報室は、三木谷会長が「『NTT法を廃止』して、国民の血税で作った唯一無二の光ファイバー網を完全自由な民間企業に任せるなど正気の沙汰とは思えない」という発言について、「保有資産は最終的には株主に帰属する」という観点から“勘違い”があるとして反論ポストを行った。
その上で、以下の“事実”を列挙して、自社に対する批判の不当性を暗に訴えている。
現在のKDDIは、DDI(第二電電)、KDD(ケーディーディー)、IDO(日本移動通信)の3社がDDIを存続会社として合併する形で発足した会社だ。DDIとIDOについては純粋な民間企業だったが、KDDについては異なる。
KDDは、1952年に成立した「国際電信電話株式会社法」に基づく特殊会社(国の法律による規制を受ける株式会社)として1953年に発足した。発足の際に、KDDはNTTの前身である「日本電信電話公社」から国際通信事業を引き継いでいる。1998年、同法が廃止されたことで、同社は“普通の”株式会社に転換された。
普通の株式会社になる際に、特殊会社としての同社の資産は“そのまま”同社のものとされ、DDIとの合併によって現在のKDDIに引き継がれている。
NTT広報室としては「規模はさておき、公社(≒国)由来の資産を承継/保有して事業運営しているのは、KDDIも同じですよね?」と言いたいのだろう。
一方で、現在のソフトバンクは2015年に「ソフトバンクモバイル」を商号変更した会社だ(参考記事)。法人格的な意味で同社のルーツをたどると「鉄道通信」と「日本テレコム」という通信会社にたどり付く。
日本テレコムは、1984年に国鉄(日本国有鉄道)の関連会社として発足した。当時の国鉄が運営していた新幹線の沿線に光ファイバーを敷設し、それを足がかりに通信事業を拡大していった格好だ。
一方の鉄道通信(通称「JR通信」)は、国鉄が全国の国鉄線沿いに敷設した「鉄道電話」の事業を引き継ぐことを目的に、1986年に国鉄の全額出資会社として設立された。翌1987年に国鉄が「JRグループ」として分割民営化されることの“前準備”ということになる。
鉄道通信は1989年、日本テレコムを吸収合併し、商号を「日本テレコム」に改めた。その後の商号の変遷は割愛するが、現在のソフトバンクの法人格は、この鉄道通信に由来する。見方次第だが、ソフトバンクは元々、国が設立した公社の子会社だったともいえる。
……と、本筋からズレそうになったが、このような経緯もあり、JRグループにおける「JR電話(旧鉄道電話)」は、現在もソフトバンクが提供している。NTT広報部としては「規模はさておき、公社(≒国)由来の資産を承継/保有して事業運営しているのは、ソフトバンクも同じですよね?」と言いたいのだと思われる。
NTTの在り方に関する議論では、上記の通り「公社(≒国)由来の資産」が俎上(そじょう)に上がることが多い。確かにKDDIやソフトバンク“も”公社由来の資産を受け継いでいることは確かだが、NTTから分離されたNTT東日本(東日本電信電話)とNTT西日本(西日本電信電話)は、KDDIやソフトバンクよりも“圧倒的に”多くの公社由来の資産を保有していることも事実ではある。
その点を突かれることを意識してか、NTT広報室はNTT(NTT東日本/NTT西日本)の光ファイバー設備は“全て”民営化後に敷設したものであることを指摘している。要するに、光ファイバーに関する設備は「公社由来の資産」ではないということだ。
ただし、その光ファイバーを敷設するために利用している管路や電柱(厳密にはそのロケーション)、そして光ファイバーを集約するための設備を収容する建物(と土地)の多くは、他社が指摘する通り「公社由来の資産」である。
そこでNTT広報室は、海外でも旧公社を民営化した通信会社について、会社法の廃止時に公社の資産をそのまま引き継いだ例があることを指摘している。この点については、完全民営化時に公社由来の資産が国(あるいは管理を専門に担う団体)に移管された例もあるため、説得力としては若干弱いようにも思える。
NTT法の廃止(≒NTTの特殊会社指定の解除)の議論を含めて、NTTやNTTグループの在り方に関する議論は、当たり前かもしれないが「NTTグループ」と「その他大勢」で平行線をたどっているように思える。
NTTの指摘通り、公社由来の資産を使って事業を行っている会社はNTTグループ以外にもある。もっといえば、NTT法による“かせ”を生かして、NTTグループでは難しい事業を展開している会社もある。
一方で、NTT以外の通信会社が主張する通り、NTTグループが「公社時代の資産を生かした事業展開」をしていることも事実である。NTT法による“かせ”があったとしても、NTTグループは通信業界においておおむね優位な立場に立っていることが、それを証明している。
ともあれ、議論が平行線のままで「NTTの在り方」を変えてしまうと、日本国内はもとより、国際的な競争においてもマイナスの影響が出てしまう可能性がある。対立する「NTTグループ」と「その他大勢」と国(総務省)が、落ち着いて議論をする場が必要なのではないだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.