NTT島田社長、他社の“NTT法廃止反対”について「誤解がある」と反論 「世界では20年前に終わっている議論」

» 2023年11月07日 19時17分 公開
[田中聡ITmedia]

 NTTの2023年度第2四半期の決算会見で、NTT島田明社長が、NTT法の見直しについて、改めてコメントした。

NTT島田社長 NTT法の見直しの在り方について、改めて考えを述べるNTT島田明社長(提供:NTT)

 政府や総務省では、NTT法の廃止を含めたNTT完全民営化の可能性について議論しており、その中でNTTはNTT法が廃止になるとの考えを示している。これに対し、競合他社は「公正競争が損なわれる」「日本全国で電話サービス(ユニバーサルサービス)が提供されなくなる」といった理由から、NTT法の廃止に強く反対する。

 公正競争については、競合他社はNTT東西とNTTドコモが合併し、NTTグループの一体化が進むことを懸念しているが、島田氏は「NTT東西とNTTドコモを合併する考えはない」と言い切る。NTT東西は電気通信事業法にのっとって公平にネットワークを提供し、NTT東西はドコモ以外の事業者との取引も拡大していくとしている。

NTT法 NTT東西とNTTドコモを合併する考えはないことを改めて表明

 NTT側は、公正競争の規制は電気通信事業法でも規定されており、必要ならNTT法の規制を電気通信事業法に統合すればいいという考え。東西とドコモが合併しないと言っても、口約束にすぎないと競合他社は指摘するが、島田氏は「事業法の中に追加すれば問題ない」との姿勢は変えない。

 「事業法には、ドコモと東西の役員兼務が禁止行為として規制されている。そこに、ドコモと東西の合併がだめだと書き足せばいいのでは? 乱暴な議論だが、そういうことはあり得ると思っている。事業法の中にいろいろな規定を作っていける。海外の主要国は全部事業法で規定している。日本はなぜ事業法で規定できないのかを教えてほしい」

 「NTTは特別な資産を引き継いでいる特殊法人だからユニバーサルサービスを提供する義務があり、それを事業法で同列に規定すべきではない」との意見にも「立法論を誤解されている」と島田氏は反論する。この点については、法制的に問題がない旨の意見を、元内閣法制局長官・最高裁判事の山本庸幸氏から得ているという。

 山本氏は「事業法で一定の要件に該当する事業者に対して、法律上の義務を課すことは一般的に行われているので、NTT法によらなくても、事業法でユニバーサルサービスを規定することは十分可能」との意見を示している。

NTT法 元内閣法制局長官・最高裁判事の山本庸幸氏のコメント

 また島田氏は、ユニバーサルサービスの考え方についても「誤解」があると指摘する。KDDIやソフトバンクは、固定電話は約6000万回線あると説明していたが、これはひかり電話サービスも含めた数。NTT法で規定されている電話役務は、いわゆる加入電話(メタル設備を用いた固定電話)のみで、契約数は約1350万。その他の電話サービスは、電気通信事業法で規定されている。

 「ひかり電話がユニバーサルサービスというなら、赤字のところがあるので、補填金をいただかないといけないが、われわれはいただいていないので、定義は明らか」(島田氏)

 NTT東西としては、光設備を用いた固定電話サービスは引き続き提供していく考えだが、メタル設備を用いた電話サービスは利用が減少していることから、メタル設備は撤退せざるを得ないとの考え。モバイルや衛星も含めて、電話サービスの在り方について議論すべき時期に来ていると主張する。つまり現在の電話サービスはNTT法と電気通信事業法の両方で規定されているため、これを電気通信事業法に統合する方がよい、との考えのようだ。

 「今の時代、メタルのあまねく普及の議論をしても意味がない。ブロードバンドをどうやって普及させていくか。いろいろなテクノロジーが進化しているので、そういうテクノロジーをいかに国民の皆さまに享受していただくか。少し先を見据えた議論をすることが、今回の見直しでは大きな要素になる。後ろ向きの話をしても未来は生まれてこない」(島田氏)

NTT法
NTT法 ユニバーサルサービス提供義務についての考え

 国から承継した資産について、島田氏は「民営化時に政府に株式を割り当てた時点で、資産は政府に帰属する。その後、3分の2を民間に売りに出したので、最終的な帰属は3分の2が民間だ」と主張する。

 また島田氏は、米国、英国、フランス、ドイツなど、世界の主要国では特殊法人法を廃止し、ユニバーサルサービスは事業法で規定している事例にも言及する。「欧州では2002年や2004年に(特殊法人法は)形を変えている。この議論は世界で20年前にしている。20年もたって同じ議論をするのか」と疑問を呈した。

NTT法 主要諸外国の規制状況

 島田氏は、NTT法は結果的に廃止になる――というスタンスが当初から変わらないことにも言及した。

 「別に頭から廃止しろと言っているわけではない。電話のユニバーサルサービスもちゃんと事業法の中に統合して、ブロードバンドの中に位置付けた方が国民生活にとっていいでしょうと。音声はブロードバンドの中のアプリケーションみたいなもの。社会や人々が何を求めているのかを明確にして、それを提供していく仕組みが重要だと思う。ユニバーサルサービスはコストがかかるので、国民のコスト負担を少なくしながら、最良のサービスを考えていくバランスが重要」(島田氏)

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