電気通信事業者や地方自治体など180者が10月19日、NTT法の見直しに関する要望書を自民党と総務大臣に提出した。
NTT法(日本電信電話株式会社に関する法律)は、NTT持株会社やNTT東西の事業内容や国の関与について定めた法律。例えば、政府による株式所有を3分の1以上にすること、電話サービスを日本全国あまねく提供する義務、研究開発の情報を開示する義務などが含まれている。
一方、NTT法は時代にそぐわない面も出てきているとの観点から、政府ではNTT法の廃止を含めた、NTT完全民営化の可能性について議論してきた。要望書を提出した180者は、国民生活や経済の活性化、国際競争力の強化という観点から、NTT法の見直しには賛成だが、NTT法の「廃止」には反対との姿勢を強調する。
NTT法廃止の理由として、要望書では大きく3つを挙げる。
1つが、NTT東西の事業拡大やNTTグループの一体化が進むことで、公正競争が阻害され、利用者料金の高止まりやイノベーションの停滞などによって、国民の利益を損なうこと。公正競争が阻害される一例として、電柱やアクセス回線などのボトルネック設備を利用する際、NTTドコモなどのNTTグループ会社が優遇されることを挙げる。
2つ目は、NTTが保有する資産や設備を十分に生かさなくなる恐れがあること。災害時のライフライン確保や地方創生など、競争でカバーできないエリアでの通信サービスは、NTTがラストリゾート(最後の手段)としての役割を担ってきたが、NTT法廃止によって、その責務を負わなく恐れがあることを挙げる。
3つ目は、地域サービスが衰退する恐れがあること。地域に根ざした防災や生活に関する情報をNTTグループは有しておらず、CATVなどの地域事業者が排除された場合、地域サービスの衰退が懸念されるとしている。
19日には、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル3社の代表が、NTT法の廃止に反対する理由や思いを説明した。なお、記者説明会前には、自民党の議員にも同様の内容を説明している。
KDDIの高橋誠社長は、「時代に合わせたNTT法の見直しについては賛成するが、国民の利益が損なわれるNTT法の廃止には“絶対反対”という立場」と強く訴える。同氏が賛成する見直しの部分として、IOWNをはじめとする国際競争力の強化に向けた研究成果の開示義務、社名の変更、取締役選定の規定などを挙げる。「古い法律になっているので、このあたりの見直しには賛成」と高橋氏。
NTT法を改正したとしても、「NTTグループと他事業者との公正競争の確保」「通信サービスをあまねく提供すること(ラストリゾートの確保)」「公益性の高い通信に対して外資を規制して国でコントロールすること」は維持すべきだとする。
高橋氏は、要望書に賛同した180者という事業者の数にも触れ、これだけの数がそろうのは初めてだという。「特に、地方のCATV会社が多い。地方を大事にしようと言っている中で、こういう方達が非常に懸念を持っているのは大きなインパクトがある」
ソフトバンクの宮川潤一社長も、「NTT法の廃案は絶対反対」と言い切る。
「NTTはわれわれと違って、特殊法人であることを忘れてはならない」と切り出す。NTTは、局舎、電柱、管路などの公共資産を唯一承継した特殊法人であり、NTT法を廃止してNTTが特殊法人でなくなることを望むなら、公共資産の全てを国に返還し、国が監督責任を持つべきというスタンスを取る。ただ、「現実的には厳しい道だと思う」ので、改正する内容を議論すべきだとした。
政府が保有するNTT株の売却についても取り沙汰されているが、宮川氏は「NTTが電電公社時代から受け継いだ資産の中で土地が大きく、東京ドーム365個以上ある。通信として使っていないもの以外は、国に返して売却してもらったらどうか。株の売却代金より大きいかもしれない」と提案。「何もかもテーブルに乗せて議論をしてほしい。NTTにとっては失礼な話をしているかもしれないが、それほどNTT法の廃止には反対」と熱弁した。
また宮川氏は改めて、通信サービスを提供する重要なインフラをNTTが保有していることに触れ、完全民営化でそうした資産を営利法人が営利目的で手にしたとしたら、国民の生活がコントロール下に置かれてしまうリスクを指摘。「約30年掛けて作った資産をもう一度作るのは不可能に等しい。唯一無二の存在に等しい公共の資産なので、これに対しては規制があって当たり前」(宮川氏)
宮川氏は、自社のソフトバンクが外資企業に買収された例え話を引き合いに、特殊法人が買収されることのリスクを再度説明する。
「仮に、ソフトバンクがAmazonに買収されたとしたら、1週間は大騒ぎするが、1カ月たったら、何も国民生活は変わらない。ところが、NTT東西が特殊法人から解放されて民間企業になって営利目的の会社に買収されたら、国民の生活や企業の活動がみんな、その事業者の手のひらに乗った構造が出来上がる。だから、NTT法があって、規制を掛けている。それを民間企業になりたいと言っても、そもそも生い立ちが違う。われわれは、やりづらいところは譲歩すると言っている」(宮川氏)
楽天モバイルの鈴木和洋共同CEOも、「NTT法の撤廃については強く反対する」と訴える。懸念点の1つとして、「例えばドコモとNTT東西が、それぞれの商品を抱き合わせ販売することで、ユーザーをロックインして、最終的に値上げされ、国民にとって不利益が生じる可能性がある」と説明する。
NTTが保有する局舎や電柱などは「国民共有の資産」であるため、「公平に使える権利がある」「今後の在り方を丁寧に議論すべき」と訴える。
鈴木氏は、研究開発の開示義務撤廃の効果についても疑問を呈する。例えば米国では、通信キャリアのAT&TやVerizonから、GoogleやAmazonなどの企業が出てきたわけではなく、企業努力によって巨大なビジネスモデルを構築したとの考え。「NTT法の改正は1つ(の策)かもしれないが、もう少し大きな視点で、どうしたらそういったスタートアップが日本で出てきて育っていくのかは、もっと突っ込んで議論していくべき」と訴えた。
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