スマートフォンの運用方法は人それぞれだと思うが、筆者は手持ちのスマートフォンのうち、何台かは画面のロックをかけない状態で利用している。「セキュリティ意識が低い」「もしもの際に悪用されるのではないか」といった意見や指摘も多いと思うが、今回はこの理由について解説したい。
筆者が保有する一部のスマートフォンに対して、ロックをかけない状態にしている理由は、利用者である筆者が死亡などした場合、SNSをはじめとしたオンラインコミュニティーにその現状を第三者が発信できるようにしているためだ。
このようにしているきっかけは、SNS上で同じ趣味を持つ仲間が、事故によって大けがを負った出来事があったからだ。当人は負傷して1カ月以上入院していたことでSNSの更新も止まり、LINEは既読すらつかない。情報を得られないわれわれからしたら「失踪したのでは?」「安否は大丈夫なのか?」という不安が先行した。
後に当人の家族に聞いたところ、本人のスマートフォンには安否を気遣うメッセージが届いていたことは把握していたが、ロックが掛かっていた。本人も集中治療室にて治療を受けていたこともあって、返信することができなかったという。後に「あのときは心配をかけた」と本人やその家族に幾度も言われたことから、筆者としても万一の際に「第三者が何か情報を発信できる術」を残すのは大切だと感じたのだ。
筆者の場合は、X(旧Twitter)と個人アカウントのGoogle フォト、Google ドライブについては、画面ロックをかけていない端末でも利用できるようにしている。これはSNSにて近況を発信できるのと同時に、万一死亡した場合はフォトギャラリーが実質的な故人のアルバム、クラウドストレージがデジタル遺産の保存先として機能するようにしたためだ。
仮に筆者が死亡した場合、家族や親戚などが筆者のスマートフォンに触れることが想定される。その際に「画面にロック」がかかっているとその端末の情報、故人の情報にはアクセスできなくなってしまう。著名なアーティストやタレントのように本人+所属事務所のマネジャーなどが共同で運用しているアカウントであれば、仮に本人に訃報があったとしても、その情報を適切な時期に発信することができる。ただ、多くの一般の方はそうはいかないだろう。
その際に1台はパスコードなしで個人のSNSアカウントにアクセスできるような端末があれば、SNS上のコミュニティーに向けて本人の状態を家族や親戚、友人が容易に発信することができる。ゲームのアカウントを入れておけば、アカウントのプロフィールに一言残すこともできる。ギャラリーがクラウドサービスで共有されていれば「故人が残した写真や動画が見られない」といった悲劇も回避できる。必要となれば故人の著作物にもアクセスできるようにしておくと、残された家族のためにもなるはずだ。
筆者もそれなりにSNSのフォロワー数がいるからこそ、万一の際にインターネットのコミュニティーに第三者が自身の安否を発信できる手段を残している。インターネット上で活動する上で、このような対応はある種の責任だと考えている。
もちろん、皆さんの中には「家族といえども見られたくない」「墓場まで持っていきたい」というアカウント、保存した各種データもあるはずだ。そのようなものは生体認証をかけたスマートフォンで厳重に保管し、死後は破砕処理などの適切な方法で処分してもらうような遺言を残しておくことが大切だ。
また、ここで述べた端末は、基本的に自宅から持ち出さずに保管している。そのため、用途的にはPCでも代替えが効くが、専用機として仕立てるにはコストもかかる。筆者はたまたま利用頻度の少ないスマートフォンが多くあるため、このような運用としているが、一般にはイレギュラーだ。
近年ではPCよりも「以前利用していたスマートフォン」を保有している方も少なくない。また、PCでは利用できないサービスも増えていることから、そのような視点では「デジタル遺産の管理」の用途で古いスマートフォンを利用する方が身近になるのではないかと感じる。
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