4月から、この状況が大きく変わる。
衛星干渉の条件が緩和されるためだ。前田氏は「高い周波数帯は屋内浸透も含めて厳しいので、まずは4Gの周波数を先行させてきたが、干渉条件緩和の後は、いよいよSub6のポテンシャルを最大化していける」と自信をのぞかせる。
「5Gのサービス開始当初から、衛星事業者とは干渉条件の緩和について議論してきた。ようやく、23年度末にそれが緩和される」(同)。先に挙げたように、もともとKDDIは、他社より多い3.7GHz帯、4.0GHz帯の基地局を設置してきた。その上で、抑制していた出力を上げれば、Sub6エリアのカバー率を一気に広げることができる。地道に積み上げてきた成果が、ついに発揮されるというわけだ。
首都圏において、その広さは2倍にも及ぶ。より細かく言えば、この2倍は100メートル四方に区切ったメッシュの数が、約2倍に増加することを意味する。前田氏によると、「出力向上前は2.1万ぐらいだったメッシュの数が、出力向上後は4.3万ぐらいまで広がる」といい、その広さのイメージは「山手線の内側はほとんどをSub6のエリアとして塗り切れて、そこから外にも広がる」という。
実際、既に衛星との干渉条件が緩和され、Sub6の出力を上げられている関西圏では、エリア拡大の実績を出しているという。エリアマップを見ると、確かに関西圏は1つの都市だけでなく、帯状にSub6のエリアが広がっている。神奈川県や千葉県がスポット的に点在しているとのは対照的だ。KDDIの代表取締役社長CEOの高橋誠氏は、「関西での実績があり、Sub6のエリアがドンと広がった。これによってSub6の5Gの品質が大きく上がり、何とか他社の上に立てる」と自信をのぞかせる。
このように、衛星干渉の影響で出力を抑えていた地域は他にもあるが、「そこはおおむね解決していき、残る大所が首都圏の地球局との条件緩和だった」(前田氏)。KDDIをはじめとしたキャリアにとっては、「満を持して」(同)のエリア拡大といえる。衛星干渉については、代表取締役 社長執行役員兼CEO 宮川潤一氏も「出力を上げることでエリアが広がるのはわれわれもまったく同じ構造」と語っている。ただし、もともと基地局数が多い分、その影響度合いはKDDIの方が大きい。
一方で、出力を上げれば、基地局ごとにエリア化できる半径が広がり、エリアの“円周”も伸びる。こうしたエリアの“端”では、通信品質が低下しやすい。特にNSA(ノン・スタンドアロン)の5Gは、いったん4Gに接続する必要がある関係で、システムが複雑。セル端で弱い5Gをつかんだまま4Gにフォールバックせず、いわゆる「パケ止まり」が発生することもある。
ドコモもかつて、パケ止まりに悩まされ、5Gの電波をより早いタイミングで切り離して4Gにフォールバックするチューニングを導入。ユーザーに端末側で5Gをオフにする設定を案内するなど、苦肉の策に追われた経緯がある。KDDIも、その設定には苦労したというが、パケ止まりが起こらないよう、設計を最適化してきた。結果として、KDDIの調査によると、KDDIやソフトバンク(と思われるキャリア)はその数値を非常に低く抑えられている。Sub6の出力を上げることで、その体感品質に悪影響を与えてしまうおそれはないのだろうか。
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