ここで生きてくるのが、4Gの周波数を転用した5Gだ。KDDIは、いわゆるプラチナバンドも使い、5Gのエリアを広げてきたため、首都圏でも面での展開ができている。前田氏によると、「しきい値に気を付け、広げたからといって無理にSub6を使いすぎないような設定にする」という。
いったん5Gの接続を解除してから4Gに切り替えるより、5Gという枠組みの中で通信する周波数を変更する方がシステム的にはシンプルだ。また、Sub6の面積が広がれば円周は広がるが、「逆に隣のSub6と重なる面積も広がって、それぞれが補えるようになる」(同)。チューニングをするのは大前提だが、Sub6の出力拡大は5Gの通信品質向上に寄与する可能性は高い。
体感品質をしっかり向上できている背景には、綿密なデータ分析がある。KDDIは、「4G時代から端末からの通信品質データや、SNSの声を収集している」(同)。具体的には、端末とサーバ間のレスポンスを記録した通信ログを、位置情報をひも付けて記録。端末からの情報を基地局のトラフィック情報と合わせることで、品質対策を打つべき場所がスポット単位で分かる。その「検知と対策をいかに高速で回すか」(同)を徹底してきた。
先に挙げたパケ止まりの少なさは、その成果だ。同様の手法はソフトバンクも採用しており、同社傘下のAgoopが収集したデータを活用している。一方のドコモは、こうしたデータの収集や分析で出遅れていたこともあり、パケ止まりやパケ詰まりが起こるエリアを完全には特定できていない。「d払い」でバーコードが表示されるまでの時間を測定しているが、これも1月に始めたばかり。本格的な分析に昇華させるには、まだ時間がかかる。
このデータ分析が、回りまわって各キャリアの品質差になっている印象を受ける。実際、KDDIが挙げたパケ詰まり発生率の資料では、KDDIだけでなく、ソフトバンクも数値は優秀。KDDIとの差はわずか0.1%で、誤差といえる範囲だ。逆に、ソフトバンクが2023年9月の説明会で挙げていたネットワークの遅延をまとめた資料では、KDDIの数値も低く、ドコモや楽天モバイルとは明確な差分があった。
2社に共通しているのは、スループットや遅延の値といった個別の数値ではなく、それらを組み合わせて独自の体感品質を定義していること。ドコモが、品質向上の指標をスループットでしか表現できなかったのと対照的だ。とはいえ、トラフィックは日々増加しており、電波もビルなどの地形に影響を受けて変化する。ネットワークが生き物といわれるゆえんだ。前田氏が語っていた「体感品質の向上を、終わりなき努力として続ける」重要性は、今後もさらに増していくことになりそうだ。
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