主に都市部の“パケ詰まり”に悩まされているドコモだが、同じ環境でも、他社は安定した品質で通信できることが多い。特にKDDIやソフトバンクは、SNSなどでも不満を訴える声を見かける機会が少ない。契約者数の差はあるものの、各社ともトラフィックは増加傾向。都市部の地形が変わりやすく、品質対策がしづらい点も、キャリア4社に共通している課題だ。
では、なぜ他社の通信品質は比較的安定しているのか。ソフトバンクが19日に開催したネットワーク品質に関する説明会で、その答えの一端が見えてきた。両社が実施している対策や、ネットワーク構築の仕方などの違いが明暗を分けたといえる。ここでは、ソフトバンクが品質維持のために行っている対策を紹介するとともに、以前本連載でも取り上げたドコモとの“差分”をチェックしていきたい。
スマートフォンの高機能化やコンテンツの大容量化に伴い、ユーザーのデータトラフィックは年々増加している。新型コロナウイルスの拡大で実施された行動制限も、その傾向に拍車を掛けた。自宅やその周辺でリモート会議に参加したり、動画視聴したりする機会が増えた結果、モバイルネットワークへの依存度がより高くなったといえる。ソフトバンクで常務執行役員兼CNO(チーフ・ネットワーク・オフィサー)を務める関和智弘氏によると、同社のトラフィックも大きく伸びているという。
コロナ禍と前後し、キャリア各社がサブブランドやオンライン専用ブランドで中・大容量プランを拡充してきたことも、トラフィックの増加に拍車を掛けた。ソフトバンクは、20GBをしきい値として、そのユーザーの比率を注視ているというが、その比率は年1.15倍のペースで拡大。ソフトバンクでは「20GBを超えるお客さまが、大体トラフィックの80%を占める」(同)といい、ここをどうさばいていくのかがネットワーク対策の鍵になる。
1.15倍という数字は少なく見えるかもしれないが、3年の積み重ねで約1.5倍。そのペースに合わせて容量を増強できなければ、品質低下を招く恐れがある。厄介なのは、コロナ禍の行動制限とその廃止によって、通信の発生場所がガラッと変わったことだ。関和氏は、2020年から2022年を振り返りながら、「在宅勤務の浸透で日中の住宅街でのトラフィックが非常に伸びた」と語る。逆に、もともと混雑しがちだった繁華街では「トラフィックが軽減したように見えた」(同)という。
一方で、5月にはコロナが5類に分類され、各種行動制限が撤廃された。これに伴い、「コロナ前より多くなったトラフィックが街中に戻ってきた」(同)。年1.15倍のペースで拡大してきた中・大容量ユーザーのトラフィックが、一気に繁華街に戻ってきたというわけだ。ユーザーや端末は移動できるが、基地局の場所は基本的に固定されているため、簡単にはエリアを拡大したり、容量を増やしたりといったことはできない。パケ詰まりを防ぐには、「この変化にいかに対応するのかが、重要なポイント」(同)になる。
同様のトレンドは、ドコモがネットワーク品質の改善策を発表する際にも語られていた。キャリアごとにユーザー属性の違いはあるものの、料金プランの中身も近い。都市部でドコモのネットワークにパケ詰まりが発生し、ユーザーの不満が高まったのは、そこへの対応が後手に回ってしまったからだ。同社も4月には対応策を発表し、7月以降、一定の改善は図れているが、まだまだ不満の声は多い。裏を返せば、ソフトバンクは事前かつタイムリーにトラフィック対策を取れていたことになる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.